2021/12/1

部下は困ってます。リモート時代のNGマネジメント3選

NewsPicks Brand Design editor
 リモートワークが業務の効率化をもたらす一方で、遠隔でのチーム運営に課題を抱えるマネージャーは多い。
 なかには、対面でしか通用しないコミュニケーションをそのままオンラインに持ち込み、部下を困惑させている例もあるだろう。
 特に避けるべきは、どんな振る舞いなのか。企業の組織開発などを研究する立教大学経営学部教授の中原淳氏と、さまざまな企業の組織づくりをサポートするサイボウズチームワーク総研シニアコンサルタントのなかむらアサミ氏に、オンラインマネジメントの“タブー”を聞く。

欧米の組織は「オムスビ型」、日本は「モチ型」

──まずは、日本の組織の特徴や課題について教えてください。日本の企業はチームワークを重んじてきたイメージがあります。これは日本企業の強みといえるでしょうか?
中原 チームワークと聞いて日本人が想起するものって、「一致団結」や「一体感」や「一丸となる」というキーワードです。
 しかし、裏を返せばそれくらいしか“チームを語る言葉”を持っていないということなんです。つまり、「個をなくして、ひとつに、まとまっていること」が重視されている。
 しかし、これには限界もあります。個の強みを活かして、組織として成果を出すためには、もっと「チームを語る、解像度の高い言葉」を持つべきだと思います。
「チームを語る、解像度の高い言葉」とはつまり、チームの状況を指し示す言葉です。
 そのひとつは、「チームメンバー同士で目標を握り続けているか(Goal holdings)」。これは言い換えれば、登る山の名前と高さをメンバーに示し続けるということですね。
 また、チームのなかで「メンバー同士が言いたいことを言い合えているか(Feedbacking)」も重要。いわゆる「心理的安全」を確保しつつ、言いたいことが言い合えているチームは、成果が出ます。
なかむら 一致団結や一体感って、あくまでチームワークが深まったことで得られた“結果”に過ぎないんですよね。それなのに一致団結が先に立つことで、精神論に陥りやすくなってしまう。
中原 一致団結をスローガンに掲げることで、なんとなく組織がまとまっているような安心感は得られるかもしれません。しかし、それはチームの成果を出すための「手段」のひとつです。
「一致団結」「一丸」「一体感」は「やるべきこと」が決まっていて、ルールも安定しているなら、機能するでしょう。しかし、何をやったらよいかわからない不確実な状況では機能しません。
 また、メンバーの「個が活かされない」弊害もあります。これから必要なのは、個を活かし、チームを前に進める言葉です。
 1970年代に社会学者である見田宗介先生が書いた『気流の鳴る音 交響するコミューン』(ちくま学芸文庫)では、こうしたチーム(コミュニティのありよう)を様々なたとえを用いて説明しています。
 従来のチームは、見田先生によれば「モチ」。かつてのチームはつまり、一粒一粒の「個」がすべて溶けて、米粒がなくなり融合し合って、モチ(ひとつの個体)になっている状態ですね。
 これに対し、一粒一粒の「個」がしっかり立った上で、個体としても成り立つチーム(コミュニティのありよう)のことを「オムスビ」としています。こちらが自分の強みや専門性を活かしつつ、集団としても機能するチームですね。
なかむら どちらが正しいと一概に言えるものではないと思いますが、不確実性が高いと言われる今の時代は、個人が力を発揮できるオムスビ型の組織観を持つことが望ましいのではないでしょうか。
 そのためにもチーム共通の理想に向かい、そこに向かうための役割分担を明確にし、個々がパフォーマンスを発揮しやすい状況を作る。それがマネジメントの基本ではないかと思います。

何でもコロナを原因にしてはいけない

──コロナによって一気にリモートワークへ切り替わり、マネジメントが難しくなったという声もよく聞かれます。
中原 確かに、物理的な距離が生じたことで目標を握り続けることが難しくなっている部分はあると思います。
 ……ただ本音を言えば、コロナ禍からすでに2年弱も経つのに、「マネジメントが難しい」と言い続けているのは、最初から工夫するつもりがないんだろうな、とも思ってしまいます。
 対面でもオンラインでも、「チームとして何を目指すか決めて、そこに向けてコミュニケーションをする」というマネジメントの基礎は同じ。オンライン仕様に合わせて、各々がそろそろ順応できてもいいのではと、個人的には思います。
 しかも最近は、それぞれの組織に「元に戻そうお化け」が出ていると聞きますね。
 無駄な出張を行い、無駄な会議を復活させ、研修も対面に戻す。もちろん、対面が必要なものもありますが、無反省に「元に戻す」のは、それこそ非効率だと思います。
なかむら 私が思うに、“フルリモートに踏み切る覚悟”が定まりきらなかった企業やチームは多いんじゃないでしょうか。
「そうはいってもコロナはそのうち終息し、もとの対面のコミュニケーションに戻るだろう」と考え、腰を据えてオンラインのマネジメントに取り組んでこなかったのではないかと。
中原 私は何も「オンライン礼賛」ではないのです。オンラインも対面も、いずれも単なる「手段」。成果をあげるやり方、生産性を高めることを第一に考えれば、どんな手段をとろうが、自由にすればいい。
 そのことを理解している人は早い段階でオンラインに順応し、うまくマネジメントができているはずです。
 逆に「オンラインでマネジメント能力が低下した」と嘆いている企業やマネージャーは、そもそもコロナ前からさほどマネジメントが機能していなかったのではないでしょうか。

オンラインマネジメント、3つのNG事例

──対面を前提としたコミュニケーションから脱却し、リモートワーク仕様にアップデートするためにも、「オンラインマネジメントでやってはいけないこと」をお二人にはぜひ挙げていただきたいと思います。
なかむら リモートワーク主体になり確実に変化したのが、テキスト主体のコミュニケーションが増えたこと。これがもともと得意な人は、むしろ生産性が上がっているのではないでしょうか。
 一方で、これまで自分の「キャラクター」を武器にコミュニケーションをとってきた人は苦戦していますよね。
 対面ならその場のノリや雰囲気、勢いだけで何とか押し切れたわけですが、それをテキストに置き換えるのは難しい。
中原 おっしゃるとおりですね。「ロジカルであること」と「言葉で伝えること」は、これからのマネジメントには必須です。
 しかし逆にいうと、これまで「ロジカルというよりは、ノリ」で、かつ「言葉ではなくキャラ」で、いかに「雑なコミュニケーション」をしていたか、ということだと思うんです。
 解像度の高い明確な言葉でコミュニケーションをとろうとせず、「まあ、よしなにやっといて!」で済ましてしまう。あとは「この資料、もうちょっとシュッとさせといて!」とかね。
 擬音語で業務の指示を行う場合は、たいてい危ない。
なかむら わかります(笑)。
中原 それでもコロナ前なら、部下が隣の席の人に「課長が言っている“シュッ”ってなんですかね?」と聞くなどして、何とかニュアンスを汲み取ってくれていた。リモートだとそれも気軽にできないから、部下は困惑するばかり。
 ですからオンラインマネジメントでは、これまでキャラクターや擬音で端折っていたニュアンスを、きっちり言語化していく必要があると思います。要は、伝えることをサボらないということですよね。
なかむら リモートワークになって、オンラインで効率よく会議ができるようになりました。
 しかし、会議はあくまで「仕事の話」をする場。それだけで、コミュニケーションがとれていると考えるのは危険です。メンバーを知るためには、心身の状態やプライベートの話も含んだ雑談が必要だと思うんです。
 一日中ずっと仕事の話しかできないのって、思っていた以上に辛いんですよね。働く上での安心感を確保するためにも、マネージャーは毎日10分でもいいから、オンラインで雑談の時間を設けたほうがいいと思います。
中原 人は感情を持つ生き物で、パフォーマンスはやる気に左右されます。「雑談よりも目の前の仕事を片付けたい」と思う気持ちもわかりますが、長期的に組織の生産性を上げるなら、個々のメンバーの感情に必ず気を配るべきです。
なかむら ただし、心の距離を埋めたいからといって「なんでも話してよ」は禁句ですよね。
 管理職の方からよく「1on1の場で部下に『なんでも遠慮なく話してよ』と言ってるんだけど、当たり障りのない話しか出てこないんです」と相談されることがあるのですが、部下の立場を考えれば無理もありません。
 仮に忌憚のない意見を述べて上司の逆鱗に触れたり、悪い評価をつけられたりしたらたまったものじゃないし、実際にそういう目に遭っている人も少なくないからです。
中原 「なんでも話してよ」と言われたから話したのに、怒られた。そうすると、部下に負の学習経験が刻まれてしまいます。
 それは怒られた当人だけでなく、周囲にも観察学習という形で伝播してしまう。「あの人みたいに干されたくないから、余計なことは言わないでおこう」と。
 そもそも「なんでも話してよ」なんて、問いの出し方が雑すぎますよね。せっかく貴重な時間を割いて対話するなら、どんな目的でこの場を設けているのか、何にフォーカスして話してもらいたいのか明確にした上で、1on1を実施するべきだと思います。
なかむら リモート環境では、情報共有もおろそかになりがちです。マネージャーはこれまで以上に情報を早く、メンバー全員にもれなく伝えること、つまり、情報をオープンにしていく必要があると思います。
 それは仕事の効率化だけでなく、メンバー間に「情報格差」を生まないという意味でも重要です。
 これだけ情報が溢れる世界に生きていると、どうしても情報格差に敏感になります。自分のもとに入る情報が少ないと感じれば、マネージャーに対する不信感が生まれてしまうでしょう。
 特定のメンバーとだけやりとりしたり、ましてや密室で物事を決めたりするのは、もはやご法度です。
中原 昔は「みんなが知らない情報を握っている人が偉い」みたいな風潮もあったと思います。上司が情報をオープンにせず、隠すことで「このことは、あの人に聞かないとわからない」といった状態を作る。
 つまり、意識的に情報を囲い込むことで仕事を属人化し、自らの権力基盤を保持していたわけです。
 でも、これだけクラウドが浸透し、情報のオープン化が当たり前になった時代にいつまでもそんなことをしていると、結果的に損をします。
 だって、若者はそんな上司の行動に、“ドン引き”していますからね。
 特に、今の大学生はこの2年弱をほぼフルオンラインで学び、情報を共有しながらグループワークを行うことが当たり前に浸透しています。
 そんなクラウドネイティブたちが部下になることを前提に、今のうちからマネジメントの視点を転換したほうがいいと思います。
なかむら 自分が情報を開示すれば、部下のほうも自分が知っていることを話してくれるようになる。そうして集まった情報をもとに、チームの最適解を作っていけます。
 サイボウズでは、社員一人ひとりが経営についてより主体的に考え発言できるよう、経営会議の議事録まですべてオープンにしているんです。

“場”を作るだけでは、失敗する

──情報をオープンにする重要性は理解できても、実践するのは難しい。どうしても、「サイボウズみたいな自由な社風だからできるのでは」と思ってしまうのですが……。
なかむら 私も創業初期からサイボウズに所属していますが、サイボウズも最初は決して良い組織ではありませんでした。15年前の離職率なんて、28%ですから。
 しかし、試行錯誤しながら制度や仕組みを整えて、今では「働き方改革といえばサイボウズ」と認識してもらえるまでになったんです。
「サイボウズだからできた」のではなくて、「サイボウズでもできたんだから、どの会社もできる」と、私たちは本気で思っています。そこで、2017年にサイボウズチームワーク総研という、組織開発のコンサルティング事業を立ち上げました。
──他の組織開発コンサルとは、何が違うのでしょうか?
なかむら 大きく二つあります。一つ目は、実践のノウハウにもとづいていること。綿密に組み立てられたフレームワークをお伝えするのではなく、あくまで働き方改革の実践者として、自分たちの経験をお伝えし、どうしたら今の課題を解決できるのかを一緒に考えています。
 具体的には、自律分散型組織を作りたいといった企業に向けた「組織変革コンサルティング」や、本音で話せる組織風土を作りたい企業には「チーム・場づくりコンサルティング」を提供しています。
なかむら もう一点の特徴としてあるのが、私たちが一にも二にも「対話」を大事にしていること。
 これは単に、「たくさん話そう」ということではありません。「なぜそう考えるのか」といった価値観も含めて、本音ベースで意見を交わすことを大切にしています。
 というのも、私たち自身が創業期から現在に至るまで、すべてのことを役職、職種にとらわれない対話によって作り上げてきたから。理想や企業理念、社内ルールに至るまで、すべてです。
 トップダウンでもボトムアップでもなく、フラットな対話によって組織を作り上げてきた。そのノウハウをお伝えすることで、対話のための場づくりをお手伝いしたいと考えています。
中原 ここでいう“場”とは、決して“place”のことではないんですよね。単にplaceを作ればいいと思っていると、失敗します。
 例えば、社員同士のコミュニケーションを促進するためにオフィス内に多目的スペースを作る企業がありますが、結局誰も使っていないなんてケースはよくあります。
 場づくりの本質は、「コンテキスト(思いや文脈)を共有すること」で、その土台を作るには対話を重ねるしかない。その意味でも、対話に重きを置いている姿勢には、共感しますね。
なかむら もちろん、私たちだってすべてが完璧にうまく回っているわけではありません。理想や役割分担を見直し、人が入れ替わる度にコミュニケーションも見直している。常に、チームのあり方を再構築しているんです。
 繰り返しになりますが、対話を決して面倒がらない会社だからこそ、それができるのだと思います。言い換えれば、コミュニケーションさえ怠らなければ、どんな組織だって変われるはずです。