2021/11/17

【木村光希】周りから笑われても、納棺師として譲れないこと

ビジネス・経済ライター 、「30sta!」編集長
死を見つめることで、今をより良く生きられる──。そう語るのは、納棺師の木村光希氏だ。

納棺師とは、亡くなった方にエンゼルメイク(死化粧)や着替えなどの身支度をおこない、棺に納める専門職。2009年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』で、主演の本木雅弘さんが演じたことで、世に知られるようになった。

木村氏は、納棺師の一人としてキャリアをスタートし、2013年に24歳で独立。「おくりびとアカデミー」という納棺師の学校を設立し、その後「おくりびとのお葬式」ブランドの葬儀会社を立ち上げたり、と業界初のチャレンジを次々とおこなってきた。

リスクを負って挑戦し続けてきた根っこには、木村氏が自分や他人の「死」と真正面から向き合うことで確立した、ブレない生き方の軸がある。

木村氏の生き様を通して「死」を見つめ直せば、改めて生き方の軸が見えてくるかもしれない。
INDEX
  • 90分遅れの大失態で、初心を取り戻す
  • 「24歳の新参者」の周到な準備
  • 尖った気持ちが、削れてきた

90分遅れの大失態で、初心を取り戻す

「亡くなった方の尊厳を守り、ご遺族のグリーフケアをしたい」。そんな初心を取り戻すきっかけとなったのが、ある50代男性の納棺でした。
この方は硫化水素で自死されたため、納棺の時点で、特別な処置が必要でした。ご遺体から漏れ出る硫化水素がご遺族にも害を及ぼすことを防ぐため、全身に包帯や専用のシートで覆い、処置をします。
問題は、この処置をすると、「通常であれば通夜や告別式などで数日かけて顔を見ながら最期のお別れができますが、それができなくなる」ことです。
その故人様は、奥様とふたりの娘さんがいました。ただでさえ突然亡くなってしまったのに、顔がもう見られなくなると言われ、簡単に気持ちの整理がつくはずがありません。ご家族は別れを惜しんで、枕元から離れられなくなってしまいました。