2021/11/20

【ルポ】貧困は「自己責任」か「構造問題」か

フリージャーナリスト
この社会のあり方を根底から揺るがす、新型コロナウイルス感染症のパンデミックから2年が経とうとしている。
今、人々の暮らしはどう変わったのか? 
コロナ禍の貧困を昨年から1年半にわたり取材し続けているジャーナリストの藤田和恵氏が、その実像と根深い問題点を解説する。
INDEX
  • コロナ禍で、若者や女性が貧困に
  • 民泊の皮を被った「脱法ドミトリー」
  • 自己責任論と生活保護
  • 不安定雇用のリスク
  • 生活保護申請での水際作戦とは?
  • 「無料低額宿泊所」の問題
  • 行政側の深刻な人手不足
  • 社会の底が抜けてしまったようだ

コロナ禍で、若者や女性が貧困に

経済メディアで貧困──。
正直、この記事はNewsPicksでは異色のものになるかもしれません。ただ、ソーシャルベンチャーが注目されるなど「社会と経済の共生」が課題となるなかで、ひとつの現実として私がこの間に見てきたことをお伝えしたいと思い、筆をとりました。
コロナ禍当初は「コロナで死ぬか、経済で死ぬか」という議論が盛んになされました。
しかし、いつしか耳にすることは少なくなり、メディアでも大きくは取り上げられる機会は減っていきました。メディアで扱われなければ、普通に暮らしている多くの人が、この社会を蝕みつつある貧困問題を知る機会は、そうありません。まるで存在しないかのように錯覚されがちです。
ですが、支援の現場を歩けば、「経済による死」のリスクはますます高まっていることがわかります。
しかも、継続的に現場を歩いてきたなかで実感するのは、コロナ禍のもたらす貧困は「これまでとは異質」ということです。
たとえば、“派遣村”が話題になったリーマン・ショックのとき、相談会や食料配布会に訪れる人は、中高年の男性が中心でした。一方、今は20代の若者や女性、外国籍の人などさまざまです。貧困層が悪い意味で“多様化”してしまったと感じます。
全国の女性の自殺者数が前年同月に比べて8割以上も増えた昨年10月から年末にかけては、相談者の半数が女性で、そのうち8割が10代、20代でした。
彼ら、彼女らは、仕事も住まいもスマホの通話機能も失い、ホームレス状態であるにもかかわらず、服装は比較的こざっぱりしています。つまり、最近までかろうじて仕事も住まいもあった人々が、路上に放り出されているのです。
なぜ、そうした事態が起こっているのか? 「貯蓄がないのがいけない」「生活保護を利用すればいい」という声もあるかと思いますが、実情はもう少し複雑です。

民泊の皮を被った「脱法ドミトリー」

コロナ貧困で浮き彫りになった問題のひとつが、「住まいの貧困」です。
2007年、「ネットカフェ難民」が新語・流行語大賞に選出されるほど問題化しましたが、事態は当時よりも複雑、深刻化しています。
当時、東京都は治安対策の面からネットカフェを利用する際の身分証提示などを義務付けましたが、この結果かえって受け皿が分散し、不可視化されてしまいました。その受け皿のひとつが“脱法ドミトリー”です。
新宿の都庁からほど近くにある「脱法ドミトリー」
写真は今年5月、同行取材を続けている反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さんとともに、ある30代女性の“夜逃げ”を手伝ったときのものです。
場所は、都庁から徒歩10分ほどの住宅街にあるワンルームマンション。その一室に2段ベッドが4つ置かれ、8人が暮らしていました。当然、密です。
“家賃”は1泊1000円。