2021/10/25

DXの本質は、秀逸な戦略でも最新のテクノロジーでもない

NewsPicks Brand Design editor
 DXの必要性が叫ばれ、デジタルツールの導入を急ぐ企業は多い。だがツールやシステムを導入しても、使いこなせる人材がいなければ意味がない。

 DXの本質は、デジタルを活用して変化を促せる、社内のデジタル人材の育成にあるのだ。

 組織のDXを推し進められる人材は、どのように育てられるのか。日本マイクロソフトのクラウド&AI人材育成プログラム(ESI)を活用し、デジタル人材の育成に取り組む富士フイルムシステムズの事例から読み解く。
INDEX
  • DXはなぜ失敗するのか
  • 誰もがクラウドを使いこなす時代に
  • 社内に「共通言語」が生まれる
  • ビジネスまで描けるエンジニア集団へ

DXはなぜ失敗するのか

──近年はあらゆる企業がDXに取り組んでいるものの、成果につながらないケースも少なくありません。企業のDXを支援する日本マイクロソフトから見て、うまくいかない要因はどこにあるとお考えですか。
廣瀬 顕著なのは、経営が現場にDXを「丸投げ」しているケースです。「予算は用意したから、あとは現場の君たちに任せた」という風に。
 しかし本来DXは、経営と現場が両輪となって進めるべきもの。
「IT投資に対してどれくらい効果があったか」は、現場からは見えづらい。だからこそ経営側が、IT投資による生産性やコストの変化を月次で把握しながら、ROI(投資収益率)を最大化できるよう、現場と並走していく必要があるんです。
豊福 経営と現場の両輪でDXを推進する重要性は、私も実感しています。
 そもそも富士フイルムシステムズは、富士フイルムグループ企業向けにIT戦略の立案から、システムの設計と構築・運用までを担う企業。
 我々にとって、グループ全体のDXを実現するために、AIやクラウドといった技術の活用は不可欠です。
 ですが、これらの技術はあくまでツールであり、導入しただけで効果があるものではありません。ですからまずは、経営が目指すビジョンITを導入する目的を掲げなければいけません。
 例えば「在庫を圧縮し、キャッシュを増やして投資に回す」といった経営目線の目的をしっかり設定する。すると初めて、「そのためにツールをどう使うか」という手段を現場が考えられるのです。
──富士フイルムホールディングスは、今年7月に「DXビジョン」を新たに策定しました。グループを挙げてDXに注力する背景を、改めてお聞かせください。
豊福 デジタル活用によって一人ひとりが生産性を飛躍的に高め、顧客への提供価値を向上させ社会課題の解決に貢献する。それが富士フイルムの掲げるDXビジョンです。
 このビジョンを掲げた背景には、DXを実現できなければ生き残れないという我々の大きな危機感があります。
 かつて富士フイルムは、写真フィルムをコア事業としていました。しかし、2000年代に入ると写真フィルムの需要は激減し、会社は創業以来の危機に直面しました。
 この時はヘルスケアや液晶用フィルムなどの新規事業に力を入れ、多角化を進めることで乗り越えました。
富士フイルムには、時代の変化に適応するために事業の多角化を図り、危機を乗り越えてきた歴史がある。
 いまはまさに、当時に匹敵する変革期。その鍵を握るのがDXだと考え、ビジョン策定に至りました。
──具体的には、どのようにDXを進める方針ですか。
豊福 「3つのDX」を柱として施策を展開していきます。1つめは、ロボティクスやAIなどの技術を、幅広い事業の製品・サービスに応用する「製品DX」。2つめは、経営データを一元管理できるシステムを刷新し、業務効率を高める「業務DX」。
 そして3つめが、「人材DX」です。先ほども話したように、クラウドもAIもあくまでツールであり、それを使うのは人間。
 製品DX・業務DXを加速するには、ツールを使いこなせるのはもちろん、テクノロジーを活用してどんなビジネスを生み出せるかまでデザインできる人材の育成が、不可欠なのです。

誰もがクラウドを使いこなす時代に

──DXを実現するには、社員一人ひとりのデジタル教育が必要なのですね。一部の専門家だけがテクノロジーを理解しているだけでは、不十分ということですか?
廣瀬 社内システム構築において当たり前となった「クラウド活用」を例にとれば、クラウド環境の構築、クラウドでのアプリケーション構築、運用保守などができるクラウド人材の獲得競争は、どんどん激しくなっています。
 人件費ももちろん上がっており、日本のクラウド人材市場は、慢性的な人手不足状態です。
 さらに運用だけでなく、自らコードも書けるような人材は、より高度なスキルを身につけて、AIなどの領域にシフトしていってしまう。
 つまりエンジニアはもちろん、ITが専門ではない社員も、ある程度のクラウドの知識を身につけておかなければ、もう現場が回らなくなってしまう時代なんです。
 車でたとえるなら、 これまでは一部の専門家だけが運転免許を持っていて、免許を持たない人たちはプロが運転する車に乗せてもらっていた。
 でもその専門家が、普通車の運転免許に加え、高所作業車やフォークリフトなどの特殊車両の資格も取得して、より専門性が高い仕事に特化している、ということなんです。
 すると従来のように、乗用車で一般の人たちを送り迎えする仕事まで手が回らなくなる。だから全員が普通免許を取得して、最低でも軽自動車くらいは自分で乗りこなす必要が生じるわけです。
豊福 DXビジョンで掲げた通り、富士フイルムが目指すのは、一人ひとりの生産性を高めること。
 私としては、エンジニアだけでなく、ビジネスのフロントラインにいる社員も含めて、全員がテクノロジーを使えるようになってほしい。
 テクノロジーを専門家だけが扱う特別なものと考えるのではなく、スマホのように誰もが当たり前に使いこなす会社にならなければまずいと思います。
──社内システムが、従来のオンプレミス(自社所有型システム)からクラウドへ移行したことで、システムの開発者や利用者に求められるスキルも変化したのでしょうか。
豊福 クラウドの時代になっても、技術の本質的な部分は変わりません。
 ただし、明らかに変わったことがある。それはスピードです。
 自前で新たなシステムを構築する場合、数ヶ月から半年はかかります。ところがクラウドなら、極端な話、明日までに1万台のサーバーを立てることも可能です。
 昔は設備投資に莫大なお金と時間がかかったので、「これだけの投資をして本当に儲かるのか」という議論が延々と繰り返されて、なかなか結論が出ないことも多かった。
 ですが、短期で投資を回収できるクラウドなら、意思決定も迅速に行えます。
廣瀬 おっしゃる通り、クラウドによって経営も現場も求められるスピードとアジリティ(機敏性)が大きく変わりました。裏を返せば、スピードもアジリティも上がらない使い方では、導入する意味がない。
 ある企業で実際にあった話ですが、現場がクラウドの導入を会社に申請したら、膨大な書類を書かされた上に、許可が下りるまで2ヶ月半かかった。これではクラウドの利点を全く活かせていません。
 人材育成では、テクノロジーを学ぶだけでなく、それを使う際のマインドや姿勢を変えていくことも重要なのです。
取材は、オンラインで実施した。

社内に「共通言語」が生まれる

──富士フイルムシステムズでは、DX人材育成の施策として、2020年秋から日本マイクロソフトが提供するクラウド&AI人材育成プログラム(ESI)を導入しました。これはどのようなプログラムですか。
廣瀬 クラウドを理解するための基礎的知識から、開発者やインフラ技術者に必要な上級レベルのスキルまでを学べるプログラムです。
 ESIの基本は、対話型のオンラインセミナーによるトレーニングコース。このコースを経た学習者には、さらに認定資格の取得を目指してもらいます。
 また、ESIと同様の内容を自己学習できるクラウドスキルチャレンジというプログラムもあり、こちらはスマホやPCがあれば、通勤時間や隙間時間を利用していつでもどこでも学べます。
──ESIの開始から約1年が経ちますが、富士フイルムシステムズの現場ではどのような変化がありましたか。
 私が所属するデジタルイノベーション統括部は、クラウドをグループ全体に推進することをミッションとするチームです。
 富士フイルムシステムズ全体では、ESIを通じて技術者の70%が認定資格を取得することを目標にしていますが、デジタルイノベーション統括部では100%の取得を目指しています。
 ESIを導入して最も変わったことは、社内に「共通言語」が生まれたこと。
 グループでは5年ほど前からクラウドを使い始めましたが、当初は私が新しいクラウドの使い方を提案しても、他のエンジニアになかなか受け入れられない場面もありました。
 クラウドの本質を理解しきれていないメンバーもいて、どのような効果が得られるのかを説明するところから始まりました。
 それが人材育成プログラムの導入により、受講した人たちの技術力が上がって、同じ意識を共有できるようになった。
「グループのビジネスに貢献するには、どのようなアーキテクチャがベストプラクティスか」といった、より高い視座での議論もできるようになりました。
 生産性が高まったというだけでなく、仕事の楽しさも増したと感じます。一人が孤軍奮闘するのではなく、皆で一緒にシステムの設計や構築に取り組めるのは、やはりやりがいがありますね。
廣瀬 私も、研修のご提供等を通して富士フイルムシステムズの皆さんと関わってきましたが、組織の中に学ぶ文化が醸成されたことを実感しています。
 さらに、会社としてESIの導入を決定したことで、社員の方たちにも経営陣が本気で人材育成に取り組もうとしている姿勢が伝わっているとも感じますね。
──人材育成プログラムは、組織全体へのメリットがあるだけでなく、エンジニア個人の評価やキャリアアップにもつながるのでしょうか?
 学ぶ範囲を広げていけるのは、キャリア形成の面でもメリットがありますね。私のようなインフラ系エンジニアは、これまでサーバーやネットワークを中心にスキルを習得してきましたが、このプログラムを活用すればAIやデータ活用の領域にも手を伸ばせます。
 こういった積み重ねで、キャリアの選択肢は広がっていくと思います。
豊福 このプログラムが資格取得に重きを置いているのも、社員のキャリア形成にプラスに働いています。資格という客観的な物差しを持っていれば、「クラウドならこの人が強い」といった周囲からの評価につながる。
 会社としても、どの分野に強い人材がどれくらい社内にいるのかを対外的に示せるのは、メリットが大きいと感じています。

ビジネスまで描けるエンジニア集団へ

──クラウド人材を育成した次のステップとして、富士フイルムシステムズはどのような未来を描いているのでしょうか?
豊福 学びによって“How=どのようにツールを使うか”を身につけたら、今後はさらに“What=何を付加価値として提供するか”を考えられる人材を増やしたい。
 技術力を土台とし、ビジネスまでデザインできるエンジニア集団へと成長し、顧客や社会に高い価値を提供できる組織としてDXの最先端を走り続ける。それが私の思い描く将来像です。
 もともと富士フイルムグループには、チャレンジを好む組織風土があります。2000年代の危機を乗り越えられたのも、新たな挑戦を続けて写真フィルムに代わるビジネスを次々に生み出したからです。
 先ほども話した通り、富士フイルムは今まさに変革期にあります。グループ全体で10を超える事業を持ち、それぞれの現場で変革すべき課題を抱えている。それをテクノロジーの力で解決し、「我々が富士フイルムを変えていくのだ」という気概でDXを進めているところです。
 新しい技術をどんどん吸収し、自分の力で会社の変革を加速させたい。そんな熱意を持ったエンジニアの皆さんには、ぜひ私たちのチャレンジに加わっていただきたいと思います。
富士フイルムシステムズ株式会社 採用情報
私たち富士フイルムシステムズの仕事は、富士フイルムグループのビジネスの進化を、AIやIoTをはじめとした先進技術やDXで加速させること。私たちは、いわば「チーム・富士フイルム」のエンジンです。単なる情報システムづくりではなく、グループの経営課題に深く入りこみ、広い視点でソリューションを提供することで、ビジネスの価値を高める「ビジネスコンサルタント」です。
「解決すべき課題がこの世界からなくなるまで私たちは決して止まらない、”NEVER STOP”」という強い意志と姿勢で、グローバルに社会の課題解決へ貢献する「チーム・富士フイルム」として、一緒に挑んでみませんか。
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