2021/10/18

【斎藤幸平】なぜ今、Z世代は「左傾化」しているのか

NewsPicks編集部
コロナ禍によって拡大した、世界的な経済格差。
先進国では株高や不動産価格の上昇で、もともと資産を持つ富裕層が富を膨らませた一方、エッセンシャルワーカーなど、経済的苦境に陥る人々が続出した。
パンデミック以前からも、ウォール街占拠運動(Occupy Wall Street)運動など、経済格差に対する怒りの声は、各地で上がり続けている。
そうした中、一つの言葉に注目が集まっている。「ジェネレーション・レフト」──
イギリスの政治理論家、キア・ミルバーン氏が同名の著書で取り上げた言葉で、Z世代(1990年代後半生まれ〜)を中心に、左派的な政党・政治家への支持が広がっている現象を指す。
たとえばアメリカでは、18〜29歳のうち51%が社会主義に肯定的という調査もあり、その比率は資本主義(45%)を上回っている。
一方、総選挙を控える日本では、左派政党はそこまで勢力を伸ばしていない。しかし数の少ない若年層に対して政治の目が向きにくい構造になっており、「持たざる若者」の経済的苦境は続く。
こうした現象を、どのように読み解けばいいのか。本特集では、世界規模で起きている「若年層の左傾化」の背景や、日本人にとって「望ましい社会」を考えていく。
第1回は、経済思想家の斎藤幸平氏が登場。ベストセラーとなった著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)で、資本主義の問題点を舌鋒鋭く指摘した斎藤氏が、同書の内容も踏まえながら、この現象の真因に切り込んでいく。
INDEX
  • 「贅沢できない世代」の怒り
  • 気候変動のリスクにさらされる人々
  • 日本の左派政党が伸びない理由
  • 時代は「新たな封建制」?
  • パリやバルセロナから何を学ぶか
  • マジョリティでなくてもできること

「贅沢できない世代」の怒り

──斎藤さんが著書『人新世の「資本論」』や監訳された『ジェネレーション・レフト』でも指摘されているとおり、イギリス労働党のジェレミー・コービンや、アメリカ民主党のバーニー・サンダースなど、左派的な政治家が若者の支持を拡大しています。
世界規模で起こっているこの現象の背景には何があるのでしょうか?
斎藤 資本主義が、2つの大きな困難に直面しているからだと考えています。
1つ目の困難は経済格差の問題です。2011年のウォール街占拠運動(Occupy Wall Street)で“We are the 99%”というスローガンが掲げられたことは、記憶に新しいと思います。
「アメリカでは最も裕福な1%の人々が資産の約35%を所有し、その比率がどんどん高まっている。我々は持たざる99%の人間なのだ」という意味ですが、実際、アメリカでは、金持ちトップ50人が資産2兆ドルを有しており、下位50%の1億6500万人分の資産に匹敵します。
さらにコロナ禍にあっても、富裕層が資産運用などでますます豊かになる一方で、普通の市民は給料も上がらないどころか、失業した人も多く、社会保障も当てにできない状況で、人口の2割にあたる人々が貯蓄すべてを失っています。
日本でもそうなりつつありますが、そもそもアメリカではローンを組んで高い学費を払い、大学を卒業しても、まともな雇用がない。不動産価格は高騰し、医療費は逼迫していて、将来の不安が解消されない。
そのことへの怒りが「ジェネレーション・レフト(左傾化する世代)」を生んでいます。
若年層から支持を集める民主党のバーニー・サンダース上院議員(2018年。写真:Tom Williams / Getty Images)
もう1つの困難は、気候変動です。
『人新世の「資本論」』でも気候変動について詳しく論じましたが、気候危機の問題は世代によって深刻さがまるで異なります。
自民党のトップに居座り続けているような高齢者であれば、50年後にどれだけ暑くなろうが海面上昇しようが、そのせいで恒常的な水不足や食料危機に見舞われてもまるで関係ないでしょう。
でもジェネレーション・レフトの主力たるミレニアル世代(1980~95年生まれ)やZ世代(1996~2012年生まれ)にとっては、気候変動は住んでいる場所を奪ったり、夢を諦めさせる要因です。いや、それどころか生存さえも左右する大問題になりうるでしょう。
気候変動をはじめとする環境危機の問題は、30年以上前から警鐘が鳴らされていました。人類の経済活動、すなわち資本主義が地球を破壊するほど拡大してしまった、「人新世」の時代に私たちは生きています。
有限の地球環境で、無限に利潤を追求する資本主義システムのもと、大量生産・大量消費を続けてきた帰結です。
科学者たちからの警鐘はずっと前からあったのに、我関せず、便利で快適、海外旅行も高級ワインもステーキも思いのままの暮らしを享受してきた人たちが、社会のトップに居座っている。
何ひとつ贅沢もできない世代が、贅の限りを尽くしてきた世代の尻拭いをし続けなければならないことに激しい怒りがあり、「レフト」がその受け皿になっています。
このまま資本主義を継続しても、格差拡大と気候変動が加速する一方なのであれば、もう社会主義の方がいいんじゃないのか? という想いが世界の若者のトレンドとなっているということです。

気候変動のリスクにさらされる人々

──ずっと警鐘が鳴らされてきた気候変動問題への関心が、ここ数年で高まったのはなぜだと考えますか?
近年、山火事や洪水、土砂災害など、気候変動が関係する災害は頻発しており、大都市住民でもその影響から逃れられなくなってきています。その際、社会的に弱い立場の人たちほど、気候変動のリスクにさらされるからです。
たとえば9月にはハリケーンから変わった温帯低気圧が、ニューヨーク中心部に歴史的な大豪雨をもたらしましたが、半地下の部屋に住んでいた人たちが多く亡くなっています。
ハリケーン「アイーダ」によって浸水の被害を受けた、ニューヨーク地下階のアパート(2021年9月。写真:Spencer Platt / Getty Images)
その人たちがどのような仕事に就いていたのか、正確にはわかりませんが、一般に家賃の安い地下に住む人たちの多くは、清掃や、スーパーのレジ打ち、守衛といった低賃金のエッセンシャル・ワーカーです。
社会を維持するために不可欠な仕事を、低賃金で行っている人たちが、真っ先に気候変動の犠牲になる。彼らは資本主義に見捨てられた人たちともいえます。
また、世界が排出する二酸化炭素の15%は、上位1%の富裕層の活動によるものです。その量は、所得が中央値以下の人たちの排出量の実に倍以上となっています。
上位1%の人たちが乗る飛行機や自動車のエネルギー消費や排気、彼らが食べる牛肉の生産のために排出される二酸化炭素のために、貧しいエッセンシャル・ワーカーが犠牲になっている現実がある。