2021/10/14

三井不動産の「奇人」たちと挑む「未来特区プロジェクト」とは

NewsPicks Brand Designチーフプロデューサー Next Culture Studioプロデューサー、UB Venturesエディトリアルパートナー
  2021年7月15日に会社創立80周年を迎えた三井不動産で、記念事業の「未来特区プロジェクト」が進行中だ。3つのテーマからなる本プロジェクトには、NewsPicks NextCulture Studio(以下、NCS)が伴走者として携わっている。

 なぜNewsPicksが不動産会社の周年事業に伴走するのか。三井不動産と共にどういった将来像を描くのか。未来特区・プロジェクト オーナーを務める三井不動産の川瀬康司氏と、NCS事業責任者の山本雄生が語り合う。

若手中心に未来を考えるプロジェクト

NewsPicks 山本 まずは80周年記念事業が立ち上がった経緯を改めてお聞かせください。
三井不動産 川瀬 80周年記念事業は災害・震災復興への情報発信、文化・芸術支援や記念寄付活動といった複数プロジェクトが走っています。その一つとして挙がったのが未来へ向け新しいパートナーと協業する「グローバルアイデアソン」でした。
 90周年や100周年といったマイルストーンを見据え、三井不動産が進むべき方向性を若手社員が主体的に考えて社内外に発信しようという、抽象的かつ定性的なひな形が「未来特区」の前提にあったのです。
未来特区・プロジェクト オーナー / ベンチャー共創事業部 兼 日本橋街づくり推進部 統括
1982年、北海道生まれ。2005年、三井不動産入社。「赤坂サカス」などの複合開発、ビルディング本部の経営企画を経て、日本橋エリアにおける都心型スマートシティや「ライフサイエンス」・「宇宙」領域等の産業エコシステム構築に従事。現在は、主に三井不動産の次世代事業パートナーの探索および共創を担当。
 社内から若手を中心に8人が集められました。私の目から見ると、とても個性的な……“奇人”です。私を除いて……ですが!(笑)
 この8人が、おのおのの思いや挑戦したいことを自由に話し合い、役割分担を決めていきました。私自身は個性的な彼らと未来像を一緒に練り上げていくサポート役としての立ち回りをしてきました。
山本 経営層からは方向性が明示されたのですか?
川瀬 基本的には「好きなようにやってみなさい」のスタンスです。若い感性で三井不動産という会社の事業を考え、正解のない道をいかに歩むか、その仲間探しに赴きなさい、ということだと理解しています。
山本 NewsPicks NextCulture Studioでは企業のカルチャー変革をお手伝いしています。その文脈では、経営トップが変革する意思を示し、ボトムがそれに応えて行動するも、ミドルがつぶしてしまう……というのが大企業でカルチャー変革が起こりにくい理由の大半です。
 川瀬さんたちは、ミドル。その人がボトムをたきつけた結果の事業なら、企業の空気も変わりそうです。
大学卒業後に広告会社へ入社し、営業、プランニングを経験。2016年3月よりNewsPicksに参画。Brand Design Teamの立ち上げに従事。2019年1月からはNewsPicks Enterpriseへ参加。2020年7月より組織カルチャーを変革するNextCulture Studioを立ち上げ、事業責任者として主導する。

キャンペーンで終わらせないネーミング

山本 80周年記念事業の伴走者としてNewsPicks へお声がけくださった背景は何だったのでしょう?
川瀬 社内外への発信で、これまでのコミュニケーション手法に一抹の古さを感じていたのです。
 たとえば、若手は新聞よりもWebをよく見ていますし。若手中心に未来をつくっていくならば、外部への発信も、Z世代やミレニアル世代が求めることへの感度が高そうなNewsPicksにお願いしたいと思いました。
 また、ビジネス面だけでなく、研究者やクリエイターも含めて、多様な人たちが発言・発信しているコミュニティがありますから、そことも接点を持ちたかったのです。
山本 ありがとうございます。立ち上げ初期に印象的だったのが、NewsPicks から提案した「未来特区プロジェクト」という名称です。
 不動産業は、単年ではなく長く続くビジネス。私自身、この記念事業も単なるキャンペーンにはしたくないと考えました。
 社員の皆さんも未来に続く事業にしていきたいというモチベーションを持たれていた。その伴走者としては、飛躍しつつも実現させなければならない。従来からあるようなアクセラレーションになってもつまらない。
NewsPicks NextCulture Studioが提案した「未来特区プロジェクト」のキービジュアル。さまざまな都市の機能をイラスト化。「未来特区プロジェクト」特設サイトはこちら

「未来特区」は「実験場」としての意志表明

川瀬 私自身としても「アクセラレーションプログラム」という型にはめる言葉を使いたくありませんでした。「未来特区」という言葉には、特別感と複数の意味の内包がありますよね。
 スタートアップなどのビジネスプレイヤーに限らず、アカデミアやクリエイターなど、さまざまな方に開かれた「未来特区」でありながら、三井不動産の中でも特別な場所であるという自負が見える、良い名前だと思っています。
山本 「特区」は不動産業界からしても特別な場所を示す象徴的なものですし、それも皆さんとのディスカッションで盛り上がった点でしたから、とても面白かったですね。
 外部から見ると、不動産会社はドアノックしにくいイメージがあります。特区とすることでスタートアップを含めて、外部からも入りやすい「実験場」であるという趣が出ました。

NewsPicksは「メディア」の枠組みでは語れない

川瀬 最初にNewsPicks に相談したとき、僕らはいわゆる「代理店」へ依頼するような意識でした。それがお付き合いを始めてみると「全然違うな」と感じました。かといって、NewsPicksだから「メディアだ」というのも違う。
 単に代理店やメディアといった枠組みでは語れないと思っています。「共同事業者」という感覚ですね。
山本 ありがとうございます。NewsPicksはニュースやビジネスを通じて社会と対話し、「社会との編集力」を養ってきましたから、それを企業にも実装していくことを大切に考えています。
 三井不動産が「未来特区」で社会との懸け橋造りに乗り出し、そこに私たちが編集力で貢献していく。個人的には、本当に五分五分のパートナーだと自負しています。
 皆さんから出てきたアイデアや思いを、いかに世の中とブリッジさせられるか。それこそが課せられた責務だと考えています。

10年、20年単位で取り組むのが「当たり前」

川瀬 三井不動産における事業の根幹は「街づくり」、そしてこれはとても時間軸の長い事業です。
 たとえば再開発事業などは、建物完成までに限っても10年・20年という時間軸になります。当社のあらゆる事業は、短期的な成果だけに縛られない発想で進めなければなりません。未来特区も同様に10年や20年という単位で世界観をつくっていくことを前提にしました。これは三井不動産の「ちょっと変わったところ」なんでしょうね。
山本 確かに、一般的な企業はもっと短期的な成果やプランが基本かと思います。私も三井不動産の方々とお話しすると、エゴイズムを持ちながらも「三井不動産がやるべきか否か」という判断軸を常に持っていらっしゃると感じます。
 今進んでいる未来特区の各プロジェクトも、会社と個人の成長をうまく一致させる座組になっているように見えます。
川瀬 都市はそれだけの時間軸で考える対象にふさわしいテーマだからでしょう。都市機能とは突き詰めると何か、その未来はどうあるべきなのか。
 そういった観点から改めて落とし込んでいったのが、現在進行中の「生存」「コミュニケーション」「文化」の3テーマだと捉えています。
未来特区プロジェクトは「生存」「コミュニケーション」「文化」の3つのテーマが並行して進行中
山本 ここで未来特区プロジェクトの全体像を今一度、共有いただけますか?
川瀬 わかりました。それぞれ、私個人が解釈しているテーマと共に紹介しますね。

テーマ1「生存」:都市インフラの更新と進化のあり方を考える

 インフラという重厚長大な領域においても、テクノロジーを取り込む担い手としてスタートアップなどのプレーヤーが増えています。彼らの世界は非常にスピードが速く、また多くの投資家もそれを求めています。
 一方で、都市インフラの更新・進化という観点で、三井不動産としてはもっと長い目線でのパートナーシップも考えたい。 そこで、じっくりと2030年代の世界や都市を変えていく仲間探しとして共創プログラムを実施していこうとしています。

テーマ2「コミュニケーション」:空間の提供から“コミュニケーションの場”の提供への転換

 我々が行ってきた建物や空間のプロデュースは、多様なコミュニケーションの場を提供してきたという解釈も可能です。
 だとすれば、リアルな場だけにとらわれない“コミュニケーションの場”を事業として提供していくこともあり得るのでは、と考えたわけです。三井不動産としても考え方の大転換ですから、チーム内でも模索のムードが色濃いですね。

テーマ3「文化」:都市と個人の、クリエイティビティの解放

 個人が自由にクリエイティビティを発揮し、都市はそのインスピレーションにあふれている、それこそが次世代に求められる都市のあり方ではないかと思っています。
 クリエイティビティの源泉になる好奇心や、良い意味での「好き嫌い」を自由に発信していける時代に、その交流接点を都市に設けていきたいのです。
 そのためにアート、教育、スポーツといった多様なクリエイティブを、サスティナブルに街へ配していくには、どういったシステムを築くべきかを、とことん考え抜く。
 従来のように建物や空間を創るだけでなく、個々人のクリエイティビティをいかに刺激し、発揮してもらえる都市を創れるかに焦点を当てています。

主語は会社でも実態は社員個人の変革

山本 いずれも無骨で、なおかつ事業の転換を含む、難易度の高い問いです。
川瀬 でも、それが現実です。
 これまでの企業が成し遂げていない「探索」領域ですから、挑戦と反省の繰り返し。2022年5月のスタートラインでいかなる発表ができるのか。そこでは、事業としてのイメージをさらに固めていきたいですね。
「未来特区」は三井不動産が主語となる取り組みではありますが、その実態は個々の社員が外部や社会に仲間を求め、共に形作っていくものです。
 社員一人一人が自らの世界観に基づいて外へ飛び出し、いろんな人と触れ合って、実現していく。その手段として三井不動産という会社のリソースを使う。
 そういうムーブメントが、ますます強くなっていくことを望みます。

NewsPickとはパートナーシップ関係

山本 最後に、ぜひNewsPicks NextCulture Studioへの期待も込めて、展望を聞かせてください。
川瀬 正直に言うと、メディアとしてのNewsPicksは知っていても、中の方々をよく知らなかったんです。そして、いまだに測りかねているところもある(笑)。
 だからこそ「未来特区」が落ち着いた後に、一緒に事業をつくることを改めてゆっくり話し合ってもみたい。
 今回は発信面や新しいコミュニティにアクセスするためのパートナーシップが基本ですが、山本さんはじめ、NewsPicksがはっきりとした世界観を持っている。文化やコミュニケーションに続くような新しい事業を立ち上げてみたいんですよ。
山本 うれしいです。私たちからすると、三井不動産の皆さんはリソースやアセットを数多くお持ちで、アイデアを話すだけでも前向きに打ち返してくださいます。
川瀬 三井不動産という会社は「装置である」といつも思います。巨大なリソースのかたまりであり、それをいかに引き出していくのか。良い意味だけではなく、そこに難しさもつきまといますけれど。
 また、今まさに多様化が進みつつある会社だとも感じています。世代によって社員の感覚が全く違います。
 60代は霞が関ビルや東京ミッドタウンといった巨大プロジェクトを間近に、事業がすさまじい勢いで巨大になっていくのを見てきた世代。50代はバブルがはじけたときの危機を知る世代。30代・40代ははざまの世界にいて、さらに下の世代はまた全く異なるメンタリティを持っている。 その世代間の違いを、いかに折り合いつけ、さらに力に変えていくか。

「巨大船」を若手の発想で変えていきたい

山本 メンタリティの違いを上層部が感じているからこそ、80周年記念事業も若手中心に担わせようと考えたのでしょうか。
川瀬 そういう部分もあると思います。三井不動産は多くの資産とステークホルダーを持つ巨大船ですから、航路をいかに取るかといったマクロな話をきちんと考えるべきだという感覚はあります。
 一方、航路によって、これだけの巨大船も、または巨大船だからこそ生き残れない可能性があり、それを若手の機動力や発想で変えていきたいという思いの発露が、未来特区でもあるのでしょう。
山本 今のお話を聞いても、皆さんがもがき苦しみながら模索していることを、コミュニケーションの力でエンパワーして事業化させ、社会へ実装していきたいと改めて感じました。
 三井不動産の持つアセット探索事業は、まさに企業カルチャーを変えるきっかけにもなるはずです。その成功を微力ながらお手伝いしているのは、NextCulture Studioとして大きなやりがいを感じます。
 NewsPicksは、経済情報で世界を変えることを掲げていますし、そこに寄与していけるかどうかは大切な観点。「未来特区」はその意味でも、実にチャレンジングなプロジェクトだと思っています。