2021/10/11

【注目】非エンジニアが知らないエンジニアコミュニティ「Qiita」

NewsPicks Brand Design editor
ITエンジニアの人材不足が深刻化している。経済産業省によると、「2030年には79万人のIT人材が不足する」と言われており、企業の人材獲得への影響は計り知れない。
そんな時代を目前にして、「国内ITエンジニアの3人に2人が使うサービス」として注目を集めるのが、約70万会員を有する日本最大級のナレッジ共有コミュニティ「Qiita(キータ)」だ。エンジニアへの理解を深め、採用に「効く」ツールとして、活用をはじめる企業も多い。
なぜエンジニアはQiitaに集い、自らの知見をオープンにするのか。企業はQiitaをいかに活用できるか。Qiitaを運営するIncrements代表の柴田健介氏に話を聞いた。

エンジニア採用に成功する企業、失敗する企業

Webサービスの広がりはコロナ禍で加速し、エンジニアを必要としない企業はなくなりつつあります。これまで開発を外注していた企業も、リソースの内製化を進めなければビジネスに遅れを取り、生き残れないことに気付きはじめている。
このようにエンジニアニーズは急増しているのに、エンジニア人口はそこまで増えていない。一部の外資系企業や国内の優良企業が、高い給与でエンジニア人材を寡占している、という指摘もあります。
そうした事情もあって、ここ数年でエンジニア採用はますます熾烈になっています。この状況は、残念ながら今後も続くでしょう。
一方で、給与の多寡に関わらず、優秀なエンジニアの採用に成功している企業もあります。給与はもちろん重要な要素ですが、それよりも開発環境やエンジニアカルチャーの浸透度を重視するエンジニアも多いからです。
大事なのは、企業側がエンジニアの価値観やカルチャー、「何を魅力と感じるか」を理解して、それを具体的に発信すること。たとえば、CTOなど経営層にエンジニアがいるか。エンジニア組織が採用にちゃんと関わっているか。
あるいは、スクラム(チームが自発的に一体となって行動する、先進的なアジャイルソフトウェア開発手法の一つ)を導入している等、どのような開発体制で仕事をしているのかという具体的な情報の発信。
面接などにおいても、代表やCTOが自らエンジニア組織の魅力、開発環境の魅力を話したほうが説得力があるのは言うまでもありません。企業側ができる「努力の伸びしろ」はとても大きいのです。
そして、私たちが運営する「Qiita」には、エンジニアへの理解を深めるためのヒントが詰まっています。
では、「Qiita」とは何か。Qiitaは、2011年にリリースされた、エンジニアに関する知識を記録・共有するためのサービスです。
当時は、エンジニア個人のナレッジがブログやサイトに散らばっていて、情報を探すのに相当時間がかかっていました。だから、問題の解決方法を調べることに時間をとられて、創造的なことにパワーを割けない。
そんなもどかしさを解決するべく、プラットフォームで知見を共有し、同じ悩みを持つ全エンジニアの仕事を効率化する=「Qiita」の構想が生まれたのです。
その後、Qiitaはユーザーの書き込みによって内容が生成されていくCGM(Consumer Generated Media)型サービスとして成長し、日々の業務で得たプログラミングの知見や新しい言語のインプット方法、マネジメントの進め方など、あらゆるナレッジを投稿するコミュニティになりました。
現在、累計会員数は70万人超。国内約100万人と言われるITエンジニアの3人に2人が使ったことのある、一大プラットフォームになっています。
ユーザーが投稿した記事にコメントがついたり、LGTM(Looks Good To Meの略。Qiitaのいいねボタン)が押されたりと、インタラクティブなコミュニケーションが生まれ、投稿記事数は常時300〜500件/日ほど。累計で約63万記事が投稿されています。

無償でナレッジを共有するエンジニアのカルチャー

SNSやテックブログ等での発信も活発な今、Qiitaの価値はこのアクティブさにあります。
記事を投稿すると、1日で数百人に必ず見てもらえる。内容がよいものなら、LGTMの反応が増え、翌日のトレンドランキングに上がり、1万PV、2万PVになることもあります。
記事の間違いを読者が「ここが、こう間違っていますよ」と指摘するのは、エンジニアに特化したプラットフォームならではのカルチャーでしょう。
みんなで記事をブラッシュアップしていこうという空気があり、それが個人ブログではなかなか起こりえない、知識のアップデートにもつながっています。
 私自身、非エンジニアとしてQiitaの運営にかかわって驚いたのは、この「知識をみんなで共有していこう」というエンジニアの「オープンソース」のカルチャーでした。
Qiitaには、PV数によって個人にインセンティブが入るような仕組みは一切ありません。いい記事を書いて儲けよう、という意図が入る余地がない。
では、投稿するモチベーションはどこにあるのかといえば、同業の仲間からの「役に立った」という反応なのです。
最近では、SNSの浸透により、非エンジニアのビジネスサイドでもオープンソースの考え方が浸透しつつあります。
ですが、エンジニアの方々は「先人が作ってきたものによって、今自分が開発できている」という実感がより強いのでしょう。
だからこそ、自分が得たナレッジを次世代のエンジニアに渡していこうという意識が働く。それが上手いかたちで結実すれば、エンジニアとしてのアイデンティティの確立にもつながる。
技術の発展や業界への貢献に対するエンジニアの「心の広さ」のようなものが、OSSやエンジニアカルチャーの根幹にあり、Qiitaというサービスを成り立たせている。そう強く感じています。

なぜQiitaが企業とエンジニアの幸運なキャリアを生み出すのか

エンジニア採用という観点では、Qiitaに投稿された記事を含め蓄積されたデータは、エンジニア個人のスキルや経験、考え方を理解するための、とても貴重なヒントになるでしょう。
たとえば、エンジニア採用の課題の一つとして、「面接をしてみたら、求めている人材ではなかった」というものがあります。職務履歴書からは、必要とする言語など十分なスキルがあると読み取れたが、話を聞いてみたら開発環境が大きく違ってマッチしない。
こうした例は、エンジニアが採用に携わっていても出てくるものです。非エンジニアの採用担当者が書類スクリーニングをしている場合はなおさらで、現場のニーズを理解した上で求職者との相性や適性を見抜くのは非常に難しい。
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一方、Qiitaはエンジニア本人が記事を発信しているため、人となりを含めて文章から読み取れる情報が非常に多い。Qiitaを見た上で企業側からエンジニアをスカウトすることもできるので、ミスマッチは格段に減ります。
エンジニアにとっても、「Qiitaを通じて理想の開発環境に出会えた」「オファーによって人生がより良くなった」というミスマッチの少ない状況が生まれれば、双方Win-Winの関係です。
実際、企業からQiitaを通してスカウトされたエンジニアは、「自分でも手ごたえを感じていた記事を読んで、『あなたのこの考えに共感しました。ぜひうちに来てほしい』と言われて嬉しかった」と話していました。
究極的には、エンジニアの人生やキャリアに対してプラスになることがQiitaの存在意義です。それに貢献できたことを、私たちもとても嬉しく思います。
現在は、2020年に正式ローンチしたQiitaのエンジニアネットワークを活用した転職支援サービス「Qiita Jobs(キータ ジョブズ)」で、少しずつ転職事例が増えている段階です。
見ていて「うまく活用しているな」と感じるのは、CTO自らが採用に携わるようなIT系のベンチャー企業。エンジニアカルチャーが社内に浸透していて、採用と現場との連携スピードが速い企業は、着実に採用実績を重ねています。
2020年末からは、日立製作所様などの大企業とのコラボレーションもスタートしました。
日立製作所様の場合、Qiita内に「Qiita×HITACHI」の特設ページを開設。Qiita内オウンドメディアのような存在で、エンジニア組織の取り組みやキーマンインタビューなどのコンテンツを定期的に発信しています。
詳細は画像をタップ。
これは「ITエンジニアが活躍する環境」という採用ブランディングを高めていく意図があり、実際にQiitaユーザーからも「日立のイメージが変わった」という声が上がっています。

「エンジニア人口不足」という社会課題を解決する

企業がエンジニア採用に直接コミットしたいのなら、Qiita Jobsを。その一歩前の段階として、Qiitaを採用ブランディング、メッセージ発信の場として使うこともできます。
さらに、企業がQiitaアカウントを持ち、組織のナレッジや技術力をアピールする「Qiita Organization(キータ オーガナイゼーション)」という機能もあります。継続的な発信によって、オウンドメディアのように企業の本質的な「思い」の部分を伝える場として活用できます。
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サービス詳細は画像をタップ。
Qiita Organization詳細はこちら
そこで、どんな投稿をすればエンジニアに興味を持ってもらえるのか。運営側としては、定性・定量データを含めて発信し、双方にとって価値ある情報がQiitaに蓄積される体制づくりを進めていきたい。
今、エンジニアの働き方は多様化し、副業・兼業、業務委託系フリーランスもますます増えていきます。
エンジニアがQiitaに投稿し、企業が「この記事を書いたエンジニアに仕事を依頼したい」とオファーするサイクルが生まれれば、採用、転職という形にとらわれないキャリアアップにつながります。
「今後は、たとえばQiitaで活躍するエンジニアと書籍編集者をつなげて、本の出版を後押ししたり、セミナー登壇者を探している企業とつなげるなど、タレントマッチングの機会も広げて行きたい」と柴田氏。
より良い環境で働けるエンジニアを増やすことで、日本企業が成長し、エンジニアを目指す人も増える。そんな好循環を生み出せたら、「エンジニア人口不足」という社会課題にも貢献できるかもしれません。
Qiitaは、今も昔も運営側にいる私たちのものではなく、エンジニアコミュニティ全体のものだと考えています。記事収入など短期的なインセンティブがなくても、同じ悩みを持つ誰かのために自分の知見をオープンにしようというピュアな使命感が根本にある。
Qiitaはエンジニアコミュニティの素晴らしい思想の上にある。その原点は、ずっと大切にしていきたいと思っています。