2021/9/16

【新説】日本企業の財務戦略は日立の「さなぎ型」に学べ

NewsPicks ジャーナリスト
巨額の企業買収(M&A)はファイナンスの最高の教材だ。企業の飛躍へと結びつくかもしれないが、大きなリスクがつきものだからだ。
JTのようにリスクをとった買収でグローバルに飛躍した企業もあれば、東芝のように経営危機のきっかけにまでなったケースもある。
そんな中、近年、巨額M&Aを毎年のように連発している企業がある。それが日立だ。
2019年度は日立ハイテクの完全子会社化に5300億円強を費やし、2020年度はスイスのABBから電力網(パワーグリッド)事業を7400億円で買収した。
そして2021年度はアメリカの産業ソフトウエア会社グローバルロジックを1兆円で買収。金額は、年々ヒートアップしている。
ただし、日立が他社の例と違うのは、巨額買収にもかかわらず、負債増加などの「財務リスク」を抑えている点だ。
これは、並行して進めている事業・子会社の売却によって入ってきたキャッシュが、買収によるキャッシュの流出を「相殺」しているからだ。
過去に大きな巨額損失を出して以来、日立はファイナンス力に磨きをかけつつ、企業変革に挑んでいる。
それは、まるで「さなぎ」のように、財務リスクを抑えながら、将来の飛躍に向けて中身を変革しているように映る。
実際、日立の業績を10年前と今と比べると、売上高は9兆円前後、営業利益は4500億~5000億円とほぼ「横ばい」だ。
事業の売却と買収によって事業の中身が大きく入れ替えている日立は、この「さなぎ」の期間を経て、どんな飛躍を描いているのか。
日立CFO(最高財務責任者)の河村芳彦氏に、日立のファイナンス戦略について聞いた。
INDEX
  • 日立のバランスシート経営
  • 成長とリスクの境界線を引く
  • 「のれん償却」の功罪
  • CFOの4つのミッション