2021/9/6

「壁を超えるアイデア」がスポーツに多様性をもたらす

Newspicks Studios Senior Editor
アスリートの「動き」を体験できる公園、異文化コミュニケーションを楽しむ電動アシスト自転車、レフェリーの動きや判定を翻訳するアプリ、聴きたい情報をビジュアル化するヘッドセット──スポーツとテクノロジーの力で、あらゆる「壁」を超えるアイデアが、真夏の東京に集結した。
パナソニック株式会社は、国際オリンピック委員会(以下、IOC)と国際パラリンピック委員会(以下、IPC)からの協力のもと、アイデアコンテスト「SPORTS CHANGE MAKERS」を開催。中国、アメリカ、欧州、日本の大学生から「スポーツとテクノロジーで、壁を超えるアイデア」を募った。
2019年9月から募集を開始し、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会延期決定後も取り組みを継続してきた。ファイナリストのアイデアは、今後のスポーツシーンでの採用を目指す。
本記事では、8月23日(月)に開催された最終プレゼンテーションで「Our Play Park」という新たな公園の在り方を提示したファイナリストの横瀬健斗氏と、本プロジェクトのアドバイザーでもあり、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー 澤邊芳明氏、そしてアイデア公募からプレゼンテーションまで、ファイナリストの近くで並走してきたパナソニック株式会社の福田泰寛氏が、今日までの道程を振り返る。
(写真左から)福田氏、横瀬氏、澤邊氏

遊具でアスリートの「動き」を体験?

──今回、横瀬さんが応募したプロジェクト「Our Play Park」とは、どのようなアイデアでしょうか?
横瀬 一言でいうと、「オリンピック・パラリンピックにちなんだ公園をつくること」がコンセプトです。
このプロジェクトに参加するにあたり「自分にとってのスポーツの楽しみって、なんだろう」と考えたとき、たどり着いたのが「公園」だったんです。
僕自身、幼少期の頃に公園に行くと必ず誰かしら友達がいて、一緒にボールを蹴ったり話をしたりしていました。次第にスポーツをするだけじゃなく、その延長線上で一緒に帰ったりご飯を食べるようになったり、仲良くなっていきました。
そういう、人間関係が続いていく一連のストーリーの機転として「公園」があって、そこに魅力を感じたんです。
そこで、公園で遊ぶ子どもたちが、遊具を通してアスリートの動きを体験できる設備を考えました。
具体的にいうと、オリンピック・パラリンピックに出場しているアスリートの動きを、パナソニックの映像機器・技術を用いて撮影した2次元(2D)のものを3次元(3D)のオブジェクトに変化させ、それを遊具に変換するという試みです。
さまざまな種目があるなかで、今回はケーススタディとして「走幅跳」の選手のものを制作しました。
パナソニックの映像機器・技術を活用し、アスリートの動きを撮影
撮影された膨大な2次元映像アーカイブから、3次元データを抽出
抽出された3次元データをもとに、砂場とオブジェを作成

アナログに落とし込む「新しさ」

──このアイデアを最初に見たとき、福田さん、澤邊さんはどう思いましたか?
福田 今回は「オリンピック・パラリンピック」を題材としたコンペティションなので、「スポーツがより良い世の中をつくっていく」というコンセプトを大事にしていました。横瀬さんのアイデアはそこに合致しましたし、そもそもの課題の捉え方や、ソリューションの手法もユニークで、秀でていた。
また、横瀬さんのアイデアはオリンピック・パラリンピックが大切にしている、「すべての人へスポーツをする機会の提供」「共生社会の実現」に沿っており、これから先の時代へ残す「レガシー」の象徴としても機能するのではないかとも思いました。
澤邊 こうして人間サイズのミニチュアと比較してみて大きさを想像すると、びっくりしますよね。
アスリートが実際に跳ぶ軌道を可視化しているわけですから、純粋に「こんなに跳べるんだ」と、改めて驚きます。
あと、他のファイナリストは、データビジュアライゼーションなどデータを可視化する方向性でのアイデアを出す人が多かったのですが、だいたいデジタルのみで終わっていたんですよね。
でも横瀬さんはデジタル一辺倒ではなく、アナログとしての表現に落とし込んだ。それが逆に新しく、突き抜けていると感じました。
走幅跳の跳躍軌道オブジェクトを公園に配置したイメージ模型
──このアイデアを実装するために、これからどのようなハードルを超える必要があるでしょうか。
福田 実現に向けてのポイントは2つあると思います。ひとつは、学生のアイデアの本質を崩さず、受け手にとってより魅力的であり、実装したくなるものにブラッシュアップすること。
そして2つ目が、受け手側にコンセプトをしっかり理解してもらうことです。ただの提案資料ではなく、対話の場をつくることで理解が深まり、プロジェクトが進んでいくと思っています。そのためにも、関係者との対話の機会を創出して、オリンピック・パラリンピック関係者や他パートナーとも連携しながらさまざまな縛りやルールを超えていきたいですね。
年内には実際のエグゼキューションに向けて具体的な対話の場をつくり、将来のスポーツシーンへの採用を目指し、追加プレゼンテーションの機会を設ける予定です。
澤邊 安全性の面からいって仕方ないのですが、ここ10〜20年くらいで「公園がつまらなくなったな」と、個人的に思っていました。都市公園法が改正されるなど、ここ数年で行政も活用法を変えているタイミングですが、遊具の設置はまだまだ難しい部分がある。
そういった規制をどうクリアしていくかは大きなポイントになると思います。

世代壁を超えるユースエンパワーメント

──今回は「ユースエンパワーメント」がテーマです。横瀬さんはZ世代の一人として、こうしたテーマを掲げているコンペティションに参加してみて、どうでしたか。
横瀬 学生の身からすると、こうした大きな場で自分のアイデアを発表するって、なかなかない貴重な体験です。また、自分のアイデアを形にするにあたり、十分なサポートをしてもらえたのもとてもありがたかったですね。
──サポートする側としては、どうでしたか。
澤邊 コロナ禍でいろいろなイベントが中止になったり、コミュニケーションが広がらなかったりするなかで、このコンペティションをきっかけに、若い人たちがアイデアを考えて、それを世界に発信できる機会が生まれた。とても意味のあることですよね。
福田 今回のプロジェクトでは、リクルーティングのように「上から目線」で若者を見るのではなく、並走しながら一緒にプロジェクトを進めていけました。
「ユースエンパワーメント」というと「若者世代の将来のために」という表現になってしまいがちです。でもそうじゃなくて「今、主役である若者たち」の意見をしっかり聞いて、みんなで提案し、実現していくことを大事にしています。
日本はどうしても年齢や経験値でのダイバーシティが欠如しがちですが、このプロジェクトを介してその壁を取り払うことができたと思います。

テクノロジーがスポーツに多様性をもたらす

──今回は「スポーツとテクノロジーで、壁を超えるアイデア」がテーマでしたが、今後、テクノロジーの力でスポーツはどう変わっていくと思いますか? 
福田 テクノロジーによるアクセシビリティの拡張は、スポーツ参加におけるダイバーシティの実現に大いに貢献していると思います。
テクノロジーの力によってスポーツを「見る側」の体験価値もどんどん向上していますが、「する側」のアクセシビリティをもっと広げられると、これまで競技できなかった人ができるようになったり、スポーツへの目標が生まれたりして、より良いサイクルが生まれるのでは。
そんな未来をつくるための一歩として、このプロジェクトを推進していきたいと思っています。
パナソニックは、オリンピック・パラリンピックがスポーツを通じて目指すより良い世界 ・ インクルーシブな社会の実現がパナソニックの理念に通じ合うものと考え、1987年からオリンピック・2014年からパラリンピックのワールドワイドパートナーとなっています。これまで、“Sharing the Passion”というスローガンのもとオリンピック・パラリンピックを支えてきました。
アスリートや大会を支える人たちの夢へと向かうパッションは、スポーツの素晴らしさを伝え、それは世界中に伝播・共有され新しい感動や元気をあたえます。これからも、イノベーションや社会課題解決を通じて、人々の暮らしや社会に寄り添いながら、世界中の人々とパッションを分かち合い続けます。
*これらのプロジェクトのいずれかが将来実現される際に、パナソニックのカテゴリー製品/サービス以外が含まれる場合、それぞれの製品カテゴリーに応じて、他のTOPパートナー / オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会パートナー / NOCパートナーと連携を行います。