2021/7/18

【長期投資】いま日本企業に求めている価値づくり

NewsPicksアンカー
隔週木曜22時〜お届けしている、投資リアリティショー『INVESTORS』。

7/15(木)公開の実践編が番組最終回でした。番組のアナザーストーリーである「アトカの投資塾」も今回で最終回をむかえます。
最終回は、奥野氏が考える構造的に強靭な日本企業について深堀りしました。
初っ端から「日本」企業という枠組み内に囚われてはいけない、という指摘を頂きながら、奥野氏のもつ理念にも迫ります。
今後の日本企業のあるべき姿、そしてどんな希望が待ち構えているのか、番組内で取り上げた「本当に長期投資するべき企業」の見分け方を最後に伝授いただきました。
INDEX
  • 属性で語るのはやめよう
  • 主体性と民族性に関連はない
  • モノづくりは価値づくりの手段に過ぎない
  • 先進国のモノづくりとは
  • 断捨離で成功を掴み取ったソニー
  • 形を変えていくことが成功への鍵
  • ベンチャー企業こそが日本の未来
  • 最後に約10ヶ月の総括

属性で語るのはやめよう

 INVESTORSの配信が最終回を迎えましたが、奥野さんお気持ちはいかがでしょうか?
奥野 寂しいね。でも、この約10ヶ月間でインベスターズ3人の著しい成長が見れたのは嬉しいです。
徐 それと同時に「アトカの投資塾」の連載も今回で最終回を迎えます。
最終回ということで、今回は構造的に強靭な日本企業について伺いたいのですが、いかがでしょうか?
奥野 そもそも日本企業とか日本人とか「日本」と付けていることが良くない。
というのも、日本企業や日本も負けていないぞといった属性ではなくて、個人で語るべき。アメリカ人に「アメリカ企業はどう?」と聞かないし、世界はグローバルに物事が進んでいます。
奥野 なのに、日本人はすぐに日本人と集まって気持ち良くなっている。
日本が褒められたら嬉しい、という企業が多いのと、そういったメンタリティーを持った日本人が多いことが今の問題。
なので、属性で語るのはやめましょう。
徐 「日本」という枠組みに留まっていたらいけないということですね。
奥野 日本企業の中でも良い企業はあるけれど、そういった企業は「日本」を意識していないです。
そもそも、日本が良くなったら日本企業が同時に良くなる、もしくは日本のマーケットが良くなる、といった考え方は捨てるべき。
むしろ、個人がいて、その個人が頑張ると、その個人が属している企業が良くなる、そしてその企業が集団になって、そのマーケットが良くなる。
すぐ日本の問題と言うけれど、日本の問題ではなく個人の問題です。
 つまり、そもそも論が間違っていると。

主体性と民族性に関連はない

奥野 日本が何かをしてくれる、又は日本がこう変わったらハッピーになれるのに、みたいな人が多すぎる。だから、そういうところから変わっていかなければいけないです。
徐 日本は国民的にも主体性があまりないと言われていますが、、、
奥野 その「国民的にも」という発想自体が間違っています。主体的な人は日本にもいるので。
そういう人がいるのにも関わらず、「私は日本人だから主体性がなくてもいいや」といったことを言っているのが良くない。
「社会が変えてくれる」ではなく、「個人が変えていく」というメンタリティーでないとそもそも経営者にはなれないし、いつまで経っても日本は盛り上がらない。
徐 実際に日本で主体性がある方々にはどういった特徴が見受けられますか?
奥野 他の人が何をやっていようと、自分を信じていること。
自分が良いと思っていることをどう実現できるかを常に考えている。良い企業の経営者は常にそうです。
奥野 例えば、徐さんがINVESTORSの番組内で取り上げたディスコの関家社長。
彼は凄い。自分で全部考えて、会社がどうあるべきか、それを実現するために組織はどうあるべきか、と考え続けています。
しかも、考えるだけではなく、行動し続けている。
普通の企業だと、会社は給料を貰うところでしょ、と思って働いてしまっている人が多い。
でも、会社は個人のために存在するのではなく、本来は会社は社会の問題を解決するためにあります。これ以外に会社の存在意義はないと思います。
顧客の問題や社会の問題を解決するために、異なる才能を持った人が集まって企業というものが出来ている。
そういう資本主義そのものの成り立ちに馳せる想いについても、日本は立ち遅れているのではないでしょうか。
資本主義と社会主義を取り混ぜて、経済は資本主義なのが中国です。

モノづくりは価値づくりの手段に過ぎない

徐 隣接国である中国や韓国が凄まじい技術発展を遂げていますが、技術大国日本が誇る技術、具体的に「今」の日本で世界の中でもトップなのはどういった技術なのでしょうか?
奥野 過去、日本が技術大国だったというのは確かかもしれないですが、今も技術大国と言えるでしょうか?
技術があったというのは確かにそうでした。だけど、そこに参入障壁がなければ、中国も韓国も追いつく。もうその時点で競争優位性が無いと思った方が良いです。
私たちはモノづくりで頑張ります!みたいなモノづくり神話が強すぎる。
そもそもモノづくりは価値づくりのための手段にしか過ぎないのに、モノづくりだけが目的となってしまっています。
徐 モノづくりをするために企業が存在するということではないですもんね。
奥野 企業は何のために存在するのか?顧客と社会のための価値を作るためです。
それなのに、自分の会社はずっと扇風機を作っていたからずっと扇風機を、テレビを作っていたからずっとテレビを、鉄を作っていたから、ずっと鉄を作ります、となってしまっている。
それって何のために作っているんでしたっけ?それって顧客の問題を解決するために鉄を作っているんですよね?
「顧客の問題を解決する」という根本的な部分が抜け落ちるから、単純なモノづくりが中国、韓国、そして台湾に駆逐されるんです。
アメリカの単純なモノづくりを駆逐したのが日本の60、70、80年代でした。
これを乗り越えるように、ナイキは今までのような単純な靴を作るのではなく、アスリートの問題を解決するべく、ヴェイパーフライを作るようになったのです。
徐 日本の企業は顧客の問題に寄り添うことが出来ていないということですか?
奥野 そう言えます。モノづくりは出来ているけれど、価値づくりが出来ていない。
昔は安く作るというのが価値づくりの要素でしたが、今は安く作る国がどんどん出てきた。よって今や「安く作る」ということは価値ではなくなったのです。

先進国のモノづくりとは

徐 今の日本においてモノづくりで価値をしっかり作っている会社にはどんな会社がありますか?
奥野 素材企業が多いかな。
徐 素材といえば、半導体に関するニュースを目にしない日がないほど、いま注目されているのが半導体の領域かと思いますが、半導体も入りますよね?
奥野 もちろん。半導体の素材では信越化学工業とかも強いですし、半導体そのものを作るというより、半導体製造装置を作る東京エレクトロンやディスコも強い。
徐 先日、大手半導体企業のサムスンが昨年度の営業利益から、5割増しの好調な決算を発表しましたが、日本の半導体関連技術はこれからも伸び続けるでしょうか?
奥野 そこの技術はまだ大丈夫だと思っています。
半導体自体は、TSMCやサムスンといった圧倒的な規模感で作る企業がいるので厳しいですが。
徐 このような日本の素材企業はなぜ強いのでしょうか?
奥野 一番川上に近いからです。
川下に行って、顧客に近くなればなるほど、日本はきちんとしたモノを作れなくなっています。
だから、川下の家電や扇風機は危ない。
徐 川下で成功している企業だと、ダイソンがパッと頭に浮かんだのですが。
奥野 ダイソンが4万円で売るモノを、日本は頑張って4,000円で作っています。
ダイソンが作った掃除機と似たような掃除機を日本企業が作って安く売っているだけ。
でもそんなことをしていてはいけないんです。
なぜあのようなデザインが顧客の心を掴んだのか、そういうところに切り込んでいかないとダメです。

断捨離で成功を掴み取ったソニー

徐 様々な日本企業が既存の儲けの泉を活用し、新規事業、又は新たな分野に進出し始めていると思うのですが、その中でも構造的に強靭な日本企業はありますか?
奥野 INVESTORSで取り上げた会社といえば、ソニーとか。
ソニーはソフトの面に力を入れていて、単純なモノづくりをしなくなっています。実は20〜30年前からずっとやっていて、やっと花開いてきたというところです。
出井さんがソフト化しましょうと言っていたのが、当時はまだ少し早すぎたのかもしれないし、やり方が最適ではなかったのかもしれない。
ソフトに移る中でゲームを久夛良木さんが作って、今の形となったのです。
時間をかけてここまで来た。産みの苦しみを20年ほど味わった。
徐 ではその転換点というか、変わったきっかけは何だったのですか?
奥野 単純なモノづくりを全部切り離したのは大きいです。
パソコンを作るのをやめた。このような決断をできたことかと思います。
既存のことをやり続けながら、新しいこともやろうとすると経営資源に限りがあるので。
徐 ソニーの営業利益の比率の中で多くを占めていたのがゲーム事業ですが、ゲーム事業にフォーカスを当てたのがよかったのですか?
奥野 無駄なことをやめたことの方が大きいです。
ゲームに注力し始めたのは、久夛良木さんの時からやっているので、90年代からずっと作っています。でも、従業員がいると従業員を切れなかったりするので、そのまま価値のないことを続けてしまう。
日本企業はそればっかり。良いこともやっているが、同時に無駄なこともやり続けている。
「集中する」って良い言葉に聞こえますが、何かに「集中する」ということは何かを「切り捨てる」ということなんですよね。
だけど、何かを切り捨ててまで集中するという経営者は少なかった。

形を変えていくことが成功への鍵

 他に何かを切り捨てた有名な企業はありますか?
奥野 上手くいっているところですと、小林製薬。
小林製薬は単純なコンシューマーグッズではなく、アイボンやコリホグスとか、少し薬の要素が入っている商品を製造しています。
でも、小林製薬は元々薬の卸からスタートしていて、薬の卸の方が売上が大きい。
そんな中、新しいマーケットを開拓していく所に利益率が高いところがあることを小林さんが発見し、元々の祖業である儲からない薬の卸を売却しています。
徐 決断力が凄いですね。
奥野 やっぱりそういうことが出来ないとダメなんですよね。でも一般的な日本企業はそれが出来ない。
だからこそ、今残っている技術に拘泥していますが、今この技術はまだ大丈夫だからと思っている会社が10年後に残っている可能性はゼロ。
徐 ゼロですか、、、
奥野 新しい技術をどんどん開発し、顧客の問題解決のために、アメーバのように、企業はどんどん形を変えていかなければいけないんです。
徐 変化をおそれていけないということですね。
奥野 最近沢山のベンチャー企業が出てきていて、これは凄く良いことです。
例えば、Googleが買収するということで脚光を浴びている送金アプリの「pring(プリン)」。
プリンの買収額は100億円規模になると言われています。
つまり、プリンを作った会社の方々はこれだけで大金持ちになるし、自分の持っている技術でどう顧客の問題を解決できるか、それは大企業でやるより、人生を掛けてやるべきです。

ベンチャー企業こそが日本の未来

徐 確かに日本国内でベンチャー企業も沢山出てきていますよね。
奥野 もう一つ面白いなと思ったのが、モニターで撮影した映像をクラウドで分析する「セーフィー」という会社。
株主にセコムの他にも大企業がいます。
この技術は、お店の中に不審者が入ってきた場合の監視用に使えるし、実際にそれが泥棒なのかどうかも判断できる。
徐 2014年創立で、まだ創立から7年しか経っていない若い会社ですね。
奥野 結果的に構造的に強い企業の特徴は、世界で戦っていけるかどうかにあります。
日本で戦って、ちょっと上手くいって満足しているだけではだめ。最初から世界進出を見据えている規模の大きさがないと。
そういう意味では日本電産の永守さん。
「回るもの、動くもので地球社会に貢献する」という会社理念を掲げ、京都の桂に工場を作って、4人でスタートした会社です。
最初はその試作品を日立、東芝に持って行っても、年齢や資本金の小ささで相手にしてもらえなかった。
だから、永守さんは試作品をスーツケースに詰めてアメリカに持っていった。
その時にその価値を認め、試作品のサイズをもう少し小さくして、数万個作れるのであれば発注する、と言った会社が3Mです。
3Mは誰がやっているかより、どのようなものを作れるかを重視したのです。
つまり、顧客の問題を解決するには、パッションやその目的に向けていかに論理的に行動できるか、が重要だということですね。

最後に約10ヶ月の総括

徐 約10ヶ月間の「INVESTORS」の配信、そしてこの「アトカの投資塾」の連載、いかがでしたか?
奥野 インベスターズの3人は最初の頃の企業分析やプレゼンに比べると、かなりクオリティーが上がりました。
大事なのは、雪だるまのように複利的にどんどん大きくなること。
種がない人は何年過ごしたって企業分析は出来ないですが、ある程度、種が出来ると後は新聞を読んで感じること、実際に就職して感じること、上司と喧嘩して感じることなど、全部が企業分析に積み重なって行くので、種を最初に作るのが大事だなと思いました。
徐 一生ものの種をいただいた気がします。
奥野 私自身は、いかに難しい言葉を簡単にするか、そしてそれを伝わりやすくするか、ということを学びました。
徐 奥野さんから難しいことも丁寧に噛み砕いて教えていただけたことに感謝しています。
奥野 これからもどんどん自分の得意分野を伸ばしていって、ぜひ「構造的に強靭な人間」になって欲しいです。
徐 企業だけでなく、私自身も構造的に強靭になれ、ということですね。引き続き頑張ります!
約10ヶ月間、続いた「INVESTORS」。
奥野さんや佐渡島さんからの的確なアドバイスや知識に加え、私たちインベスターズ3人の成長する姿でポジティブな影響をお届けできていたら嬉しいです。
ぜひシリーズ初回から見返してみてください。
応援ありがとうございました!