2021/6/30

【解説】第一人者が語る、老化・寿命研究の現在地

NewsPicks編集部
サイエンスの急速な進展や超高齢社会を背景に、老化・寿命研究への関心が高まっている。
国内外の第一線の研究者による一般向けの本が次々とベストセラーになったのは記憶に新しい。
一方で、さまざまな学説や方法論が入り乱れ、全体像がつかみにくい分野であることも確かだ。
米国ワシントン大学の今井眞一郎教授は、「サーチュイン」という酵素が老化や寿命を制御する機能を持つことを発見し、その後も老化・寿命のプロセスの根幹に関わる研究成果を数多く発表してきた。
最近では、注目の抗老化物質「NMN」を人に投与した臨床研究の成果を、米サイエンス誌で発表している。
人はなぜ老いるのか。その仕組みは、どこまで解明されたのか。
日米両国に研究拠点を持ち、この分野をリードし続けてきた今井氏が、近年の研究の流れと現在地を解説する。
INDEX
  • なぜ今、この分野が注目されるのか
  • サーチュインの発見
  • 研究にもたらされた劇的な変化
  • サーチュインでマウスの寿命が延びた
  • 老化を制御する臓器と組織
  • 引き金はこれだ
  • NMNの抗老化作用を調べる
  • 老化研究について知ってほしいこと

なぜ今、この分野が注目されるのか

今井 ここ2~3年で世界的に、老化・寿命の研究に対する一般の方々からの興味が高まってきています。その背景には、老化とか寿命といった問題が、人類すべからく身近な問題であるということに加えて、研究がある程度、成熟してきたという状況があります。
では現在の老化・寿命研究の発展のルーツがどこにあるのかというと、1980年代の終わり頃から始まった、分子遺伝学や分子生物学を駆使した研究でした。
1987年、長生きする線虫の突然変異体からage-1という寿命に関わる遺伝子が世界で初めて発見されました。この遺伝子に変異があると、寿命が野生の約2.2倍に延びるのです。