(ブルームバーグ): 東京エレクトロン元社長で、経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略検討会議」で座長を務めた東哲郎氏は、日本の半導体産業を強化するには国を挙げた支援が重要だとし、政府の今年度補正予算で最低でも1兆円の計上が必要になるとの考えを示した。

東氏は、世界最大の半導体受託生産企業、台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県つくば市に設ける拠点で、日本企業や研究機関と連携して進める「3Dパッケージング技術」関連投資などに予算を充てる必要があると説明。先行する台湾や韓国勢と伍していくには今後さらに「数兆円の規模」を要すると述べた。

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政府は国内半導体の生産・供給能力を高める一つの手段として、日本企業と海外企業との合弁による先端ロジック半導体工場の設立などを促している。東氏はTSMCについて、世界有数の製造技術を持っており、「そういう企業が日本でやってくれるということは非常にありがたい話と考えていい」と述べた。

ただ、資金面だけでなく税制優遇や企業間の技術協力を促す包括的支援も重要だとし、「台湾にとっても日本のメーカーにとっても、ウィンウィンの構図ができてこないとなかなか活発な動きにはなってこない」と言う。TSMCは日本での工場建設計画についてコメントを控えるとしている。

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あらゆる産業でデジタル化が進み、経済だけではなく安全保障の観点からも半導体の重要性が増している。TSMCや韓国のサムスン電子への依存が世界的に高まる中、米国や中国をはじめとした各国の政府も半導体の確保を重要課題に掲げ、自国の半導体産業を支援している。

日本も18日に閣議決定した成長戦略で、先端半導体技術の開発や工場立地の推進方針を打ち出した。経産省は4日、外国企業との合弁も活用しながら事業基盤を固めると同時に、サプライチェーン(供給網)でも世界に貢献できる体制構築を目指すと発表。特例扱いの措置を講じる制度も検討する。

経産省、半導体・デジタル産業基盤強化へ国家戦略-特例措置も検討

東氏は半導体はもはやデジタル産業の一環にとどまらず、自動車、農業、医療など多くの分野で必要となる「生活のコメ」だと指摘。自動車向けを中心に半導体不足問題が浮上し、地政学リスクや脱炭素化社会実現などの課題もある中、半導体投資を加速しないと「産業が非常に弱くなるという危機感がある」と語った。

東氏は東京エレクトロンで社長、会長を歴任したほか、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)会長も務めた。40年以上半導体業界に携わった中で、今回の国の危機感は1976年に当時の通産省が主導した「超LSI技術研究組合」の時と似ていると話した。

「当時はコンピューターを国の中に産業として入れていかないと国際競争に負けると緊迫した中で、基幹的な産業として半導体が位置付けられ、国を挙げた強化に動いた」と振り返る。その後、1980年代は日本半導体の全盛期となった。「国家としての重要性という観点から考えると、今はその時に非常に似ている」と言う。

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