2021/6/20

【実践】経営層が考えるべき「最適な多様性のレシピ」

NewsPicks アナウンサー/キャスター
火曜夜10時からNewsPicksとTwitterで配信中の「The UPDATE」

6月15日は「日本企業が本当に『ダイバーシティ』を理解するためには?」と題し、ロバート キャンベル氏(日本文学研究者/早稲田大学特命教授)、コチュ・オヤ氏(Oyraa代表取締役社長)、ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(プロノイア・グループ 代表取締役/TimeLeap 取締役)、岡島 悦子氏(プロノバ 代表取締役社長)とともに徹底討論した。
「多様性がなければ生き残れない」と、多くの企業が頭では理解しているけれど「腹落ち」できていない。
同質性から多様性への変容が叫ばれて久しいが、企業の過半数がダイバーシティ推進に取り組めておらず、企業規模が小さいほど、実施率も低下していた。
「ダイバーシティ」とは、性別や年齢、身体的特徴などの可視化できる違いや、ライフスタイルやキャリアなどの価値観や経験の違いを認めること。
企業経営の視点で解釈すると、これらの特性に応じて、積極的に採用、活用しようという考え方となる。
また、ゴールドマン・サックスがまとめた「ウーマノミクス5.0」によると、男女の就業率格差の解消で、日本のGDPは10%押し上げられ、男女の労働時間格差がOECD平均になれば、同効果は15%にも達する可能性がある。
さらに働く女性が増えると出生率も高くなる。
各国の女性就業率と出生率を対比させたグラフによると、スウェーデンやデンマーク、オランダなど女性の就業率の高い国で出生率が高く、就業率が低い国で出生率が低いことが分かっている。
しかし、依然として日本はどちらも低い水準のままだ。
国内の企業がダイバーシティを重んじることは、日本の未来のために最も重要な要素のひとつだ。
しかし、どうすれば本当の意味で理解し、実践することができるのか。企業にとってダイバーシティを推進する価値を、改めて4名の論客と共に議論した。
INDEX
  • 属性ではなく「視点」を
  • インクルージョンの本質
  • ダイバーシティ経営は「トップの覚悟」
  • バイアスはあっていい
  • ダイバーシティの真の姿
  • 本日のキングオブコメント

属性ではなく「視点」を

キャンベル そもそも、ダイバーシティは個人の中にあります。
当たり前のようにあるんだけど、日常会話の中にはほとんど出てこないんですよね。地下鉄に乗って隣の人と多様性の話をしないですよね。
なので、制度からいろんなことができるようなチャンスを増やしていく。その為にできる場所を作り、やりがいを感じてもらう。
制度を変えないと人の心は変わらない。日本は制度や仕組みからまず足場を作っておかないと動けないと思います。
コチュ 昔は労働力に重きが置かれていたので、言われたことをそのままやるというだけで価値がありました。
しかし、インターネットの時代に入って情報化が進んできて、クリエイティビティが問われる時代になってきている。
価値が労働力からクリエイティビティにシフトしています。
また多様性は、性別や男女の割合だけではなくて、バックグラウンドやスキルといった価値観の多様性がすごく大事なんです。
面白い事例で言いますと、今年1月、Amazonがモバイルアプリのロゴを改定したのですが、「ヒトラーのヒゲっぽく見える」という指摘があり、反発が起こったんですよ。
しかし、日本で「このロゴを見てどう思いますか?」と聞くと、私が期待するような答えがほとんど出なくて。
何か新しいものを作る時でも、色んなバックグラウンドの人の意見を受けないと、全然違う方向性になっていたりするんですね。
ですので、イノベーションという観点だけではなく、違う価値観の人から見たらどうか?を重視していかないと、グローバルの競争の中では生きていけません。
岡島 コチュさんがおっしゃっていたように、多様性は性別や国籍、年齢といったわかりやすい属性の話ではなくて、いかに視点が多様か。
今までの成功体験とか固定概念とか、無意識の中で私達が持っている前提条件みたいなものを「それってちょっと違うんじゃない?」って言える人の視点です。
これが、意思決定に入ることで、不可能だと思われていた方法も可能なんじゃないかと言える。
これがダイバーシティの本当の価値だと思っています。
ユーグレナのChief Future Officerは、18歳以下のZ世代の人たちで、意思決定に入って実際に経営に提言してもらっています。
その中で、私たちが無理だと思ってるようなことだったり、ハッと気付くような視点が出てくるんです。
例えば、2050年のビジョンを私たちが作ろうとすると「岡島さん、失礼ですけど2050年、意思決定の場にいないですよね?」なんて言われる。
とても居心地悪いんですよ。ただ、そういった視点が、私達が固定概念として持ってる物を崩し、解き放つ、呪いを溶かすような力になるんです。

インクルージョンの本質

ピョートル そもそもダイバーシティは、ややこしくてめんどくさい。けれど、結局は、思考のダイバーシティによって売上・利益も個人の幸福度も上がるんです。
最近はダイバーシティから「ダイバーシティ&インクルージョン」というように、インクルージョン(個人の持つスキルや価値観を認めること)が大事になってきています。
まず、ダイバーシティを作るというのは、とっても苦労がかかるプロセスです。
例えば、このメンバーで、いきなり新しいプロジェクトを組もうというのは、自己開示ができない状態、かつ、相手がどんな属性でどんな人かわからないままでは、心理的安全性、相互信頼が生まれません。
そうすると、新しい価値を生み出すのに、とても時間がかかります。
コチュ 多様性は、めんどくさいとか、効率性が落ちるという意見もありますが、それはインクルージョンがうまくできてないから、そう感じてしまうんです。
ダイバーシティは「What」なんです。それをうまくインクルージョンできていないから、めんどくさいことになっていて、組織が滑らかに動くことが、できなくなってきます。
外国人や女性だけが、スポットライトを当てられて、あなたは違うよねっていう話ではなくて。インクルージョンがうまくできていれば、効率性は上がるんです。
奥井 インクルージョンがうまくできているのであれば、多様じゃなくてもいいってことになるんですか?
岡島 そんなことはないですね。今の議論で言うと一番重要なのは、心理的安全性と呼ばれる、それぞれがプロフェッショナルとしての存在のまま組織の中に仕組みとして溶け込んでいるか。
わかりやすい事例にすると、私は企業の女性活躍推進をたくさんお手伝いしてるんですけれども、名誉男性みたいな人を作りたいわけじゃないんですよね。
私が「チャック女子」と呼んでいる、女性なんだけど頭の中が男性と変わらないような人がいます。こういう人を増やすことが、インクルージョンの一環だとは言えません。
その人のありのままの感性や視点を受け入れて、だから意思決定が滑らかにできるということです。
キャンベル ダイバーシティの価値は、岡島さんがおっしゃるように創造的な破壊ですよね。風穴を開けるということ。
風穴を開けることを拒み続ける組織は、どこかで解散して淘汰されていくかもしれない。
地域社会の中では、その地域に密着していてそこにいるマーケットの人たちのアイデンティティに近いものを作っている企業もあります。
その地域の中でなくてはならないものは、その地域の人にしか分からない部分もあり、東京だけの視点とは違うところがある、というように感じます。
じゃあ、必ずしもそれが属性としてのダイバーシティを求めるのか、というとそうではなく、個の中にある経験の多様性は絶対に必要だと思う。
ダイバーシティとは、属性ではなく「経験」の多様性。目に見えないダイバーシティも重要です。

ダイバーシティ経営は「トップの覚悟」

岡島 ダイバーシティ経営とは、トップのコミットメント、すなわち「覚悟」です。
ダイバーシティ&インクルージョンがあった方が、うちの会社は長期に稼げる力が強くなるということを、頭じゃなくて、体で理解するか。
そうすると、今までのような昇格の仕組みではなくて、ちょっとめんどくさいことを言ってくれる異能の人を、プロジェクトリーダーにする。
そういう人たちがやっぱり価値を出しているっていう事例をたくさん出していく、ということが重要。
今はクオーター制のような「must」の風潮がすごく多い。そうではなくて、会社が顧客や社会の課題を解決していくことが、会社の発展に繋がるとみんなが思えるためには、そういった兆しを見せることが必要。
加えて事例もすごく重要なので、トップの覚悟と異能の抜擢が大事だと思っています。
コチュ まず評価システムを見直さないといけない。企業のパフォーマンスや売り上げ、人材のスキルだけで判断するのではなく提供した付加価値が大事。
そうなると、例えばいろんな個性を持っている、国籍もそうですし、性別、宗教の違いやLGBTだったり色々あると思うんですけれども、それを出して付加価値につながったことを評価してあげないと。
ダイバーシティ、ダイバーシティって言っても、評価システムに落とし込まないと言葉だけになってしまうと思うんです。
奥井 新卒採用などでも主にテクノロジーやデータに強い人を採用している印象がありますが、そもそも企業が多様性を求めていないのでは?
コチュ まさにおっしゃる通りで、私が日本で就活していた時に、外国人を採用したいという企業と話をしていて。
当時日本語があまりできなかったんですけど、日本語で手書きが出来ないと無理だと聞いて、ショックだったんですよね。
古坂 わかります。僕は芸能界っていうすごい特殊な世界にいるんですけど、業界で必要な人は、いまだに自分の意見に従って動いてくれる兵隊のような人。
それでもまあまあな大金を稼げているんですよね、日本は。でも今後はもう無理だってことを、今皆さんすごく伝えてくれている。
岡島 ダイバーシティのアプローチとしては混ぜることがすごく重要。
やってはいけないのは、女性だけの商品開発チームとか作っちゃったりすること。単一性が生まれてしまうので、横展開してしまう。
会社の組織を10年で解散、と決めた場合、ダイバーシティ&インクルージョンはやらなくてもいいんです。
でも、人生100年時代みたいなことになっている時に、企業が生き長らえていくことを考えると、今までのやり方だと成長していかないんです。
ですので、変化したくない企業は、もうどこかで解散するというアプローチもあります。
選ばれるような会社にならないと、人材が採用できなくなります。
社会課題の解決をこの会社はこんな事業を通してやってるんだよっていうことを、社員一人一人が理解し、自分の言葉で語れないと、会社って選ばれないはずなんですよ。
ピョートル おっしゃる通り。考えてみていただきたいんですけど、「この会社には立派なダイバーシティ推進室があります」あるいは「この会社では自分らしく働けます」であれば、どっちの会社を選びたいですか?
コチュ 一見ダイバーシティな組織に見えても、蓋を開けてみると、働く人たちがその中で気持ちよく働いてないこともあります。文化やワークスタイルは人によって違います。
例えばアメリカ人とかヨーロッパ人ですと、18時とかになるともうさようならっていうのがあるんですけども、日本人は本当に長い間働くとか。
でもそうなった時に悪い目で見られたり、嫌な空気が流れてしまう。すると日本人も外国人も誰も気持ちよく仕事してない組織になってしまう。
こうなると信頼が生まれず、コンフリクトを恐れるように。これは間違っているって勇気を持って言うことで、摩擦を乗り越えられたら、一気に組織の生産性は上がると思うんです。
岡島 イノベーションって建設的な摩擦があるところに初めて生まれてくる。そのベースには信頼がないといけない。これがインクルージョンだと思うんですよね。

バイアスはあっていい

キャンベル バイアス(偏見)っていうのは誰もが持ってるわけですよ。
アフィニティ(親近感)バイアスと言いますが、みんな自分に近い感覚や見た目を持った生き物を隣に置きたいんですね。
岡島 採用とかまさにそうですよね。自分に似た人を取っちゃうっていう。
キャンベル そうです。でもバイアスは必ずしも悪いものではないです。むしろあってもいいものもあるんですね。
ですので、まずは自分や組織の中にあるバイアスを棚卸し、在庫を確認して削っていけるもの、あるいは形としてあってもいいものを分ける。
岡島 バイアスの中で一番致命的だなと思っているのは、「女性に海外転勤をさせるのはかわいそう」とか、ワーキングマザーの方に「子供が病気の時は早く帰った方がいい」って言ってしまうこと。
「オポチュニティロス」が、そこで生まれるんですよね。
その人が置かれている環境が色々あってオプションも出せばいいのに、上司がいい人だと思われたいっていうこともあって、機会を奪ってしまうっていうことがすごくもったいない。
そういう傾向があるということを、上司が気づくのも重要ですよね。

ダイバーシティの真の姿

奥井 そもそもダイバーシティって明確な目標があればできると思うんですよ。成功例はこれですっていうのがあれば。
岡島 目標は実はわかんないです。「最適な多様性のレシピ」はそれぞれの企業で固有のものがあるべきで。各社で全然違うので、それぞれが考える必要があるんです。
キャンベル 日本でも履歴書から性別欄をなくしたり、写真を貼ることもやめましょうっていう会社も出てきています。
英語でいうアノニマイズする。完全に名前やその人の属性を伏せる。性別も年齢も身長も全部もう分からないようにして、メリットベースで考えて、そのタスクに適性があるかということだけをできるだけ測るようにする。
キャンベル 日本の文化には2つ、顕著に動かない柱があります。
1つは、文脈依存度が非常に高い。空気を読んで、文脈だけで判断して下さいというもの。
もう1つは分業主義。皆それぞれの持ち場を持っていて、自分の分野ではないところに何かを投げるのはよくないっていう文化がある。
この2つがダイバーシティをかなり低迷させていると思います。
岡島 属性よりも経験や視点の多様性だと言いましたが、そのためにも、横串のプロジェクトを通している会社がすごく多いですね。分業をあえて混ぜこぜにするっていう。
奥井 個人の意識を改革するにはどうすればいいでしょうか?
ピョートル ダイバーシティよりもインクルージョンが大事だと言いましたが、必ずしも全部受け入れる必要はないんです。受け止められるところだけでいい。
それよりも自己開示ができるかが大事。
「もしかしたら自分は病んでるかもしれない」だとか、「子供が病気になっちゃって何とかしなきゃならない」くらいの自己開示の会話ができるようになれば、プライベート全てをさらけ出す必要はありません。
働く上で共通のパフォーマンスに関係するものをお互いに相互信頼しながら、自己開示ができる場を作るというのはポイントなんじゃないかなと。なので、自己開示して受け止めるということですよね。

本日のキングオブコメント

トップが「自社をより発展させる」ための覚悟を決めると、自ずと取るべき行動は、ダイバーシティ推進になる。
結果、会社はダイバーシティに溢れた状態となり、トップが会社の未来のために取った行動として、社内でも多様性が重んじられる状況が続く。
利益を生むことによる信用・信頼ではなく、異なる価値観・経験を、新たな視点として信用・信頼することが第一歩になる。信用することで自己開示が可能になり、自己開示することで信用される。
この連続によって、日本全体で、ダイバーシティへの理解がますます深まると信じている。
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