[上海 10日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は10日、インフレは「基本的に制御」されており、通常の金融政策を堅持すると述べた。

同国の5月の生産者物価指数(PPI)上昇率は12年ぶりの高水準に達しており、インフレ圧力に対する懸念が浮上している。

総裁は上海の金融フォーラムで「優先課題として、政策の安定を維持し、通常の金融政策を堅持する必要がある」と発言。今年のインフレ率は2%を下回ると予想した。

総裁は「金利を適切な水準に維持することが、市場の安定した健全な発展につながる」と発言。中国の金利は、先進国に比べて高いが、途上国や新興国との比較では、依然として低水準だと述べた。

さらに、人民銀行は中国の為替相場の仕組みを改善させながら、人民元相場の基本的安定を維持するとし、現行の姿勢を再確認した。

人民元は、中国の力強い景気回復や魅力的な見回りを背景に、対ドルで3年ぶりの高値に上昇しており、当局は急ピッチな元高を抑制するため、一連の措置を講じている。

<インフレ>

同総裁は、5月のPPI上昇率が約12年ぶりの高水準となったことについて、前年同月のPPIが低水準だったことが主因だと発言。原油などコモディティー価格の上昇を受けた世界的なインフレが、いつまで続くかを巡っては、様々な議論があると指摘した。

5月の中国の消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年比1.3%と、8カ月ぶりの高水準となったが、政府の公式目標である3%前後を大幅に下回っている。

総裁は、同国の今年のインフレ率は年間平均で2%を下回る見通しだと発言。経済およびマクロ政策を巡る不透明感がある中、物価上昇と下落圧力の双方に警鐘を鳴らした。

総裁は、中国の消費者物価は今年、上昇傾向にあるとした上で、年平均のインフレ率は2%を下回る見通しだと指摘。「海外におけるパンデミック(新型コロナウイルスの世界的大流行)の状況や景気回復、マクロ政策に不透明感があるため、多くの面でインフレとデフレ双方の圧力に警戒すべきだ」と述べた。

<潜在成長率>

総裁は、中国経済の潜在成長率は減速しており、将来の景気拡大は資本や労働力の投資よりも生産性の向上や改革によって推進しなければならないとの認識も示した。

通常の金融政策を引き続き実施し、構造変化が物価に与える影響に焦点を置く考えも明らかにした。

総裁は、高齢化社会では貯蓄が増え、消費が減り、インフレが抑制される傾向があると指摘。ただ、グリーン経済への移行では、化石燃料の利用コストが上昇し、インフレ率が押し上げられる可能性があるとの見方も示した。

また、同国の炭素中立化目標を達成するため、さまざまな措置を活用すると発言。(1)グリーンファイナンスの基準を欧州連合(EU)の基準と調和させる、(2)気候関連の情報開示システムを立ち上げる、(3)グリーン部門に対する資本面の支援を刺激する──といった措置を挙げ、経済のグリーン化を支えるために、構造的な金融政策手段を積極的に活用する方針を示した。