2021/7/20

【銀のさら 社長】なぜ我が社の宅配寿司だけ生き残れたのか

ライター&編集者
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う外出の自粛や飲食店の休業などを受けて、フードデリバリー需要が増加。その中、順調に売り上げを伸ばすのが、宅配寿司「銀のさら」を手掛けるライドオンエクスプレスホールディングスだ。2021年3月期の売上高は253億円(前期比20.7%増)、経常利益は24.3億円(同84.9%増)を達成。過去最高益を更新した。

宅配寿司における「銀のさら」のシェアは50%を超え、圧倒的ナンバーワンだ(※富士経済「外食産業マーケティング便覧2020」より)。かつて宅配寿司チェーンは、宅配ピザチェーンよりも多く存在したというが、なぜ「銀のさら」だけが生き残り、急成長を遂げたのか。

創業者で社長の江見朗氏の半生を振り返りつつ、その秘密を「商品づくり」「販促」「ビジネスモデル」「怒らない経営」といった視点から探っていこう。(全7回)
江見 朗(えみ・あきら)/ライドオンエクスプレスホールディングス 創業者・社長
1960年大阪府生まれ、岐阜県育ち。79年に県立岐阜高校を卒業後、単身渡米。ロサンゼルスで寿司職人として7年半を過ごして帰国後、92年に松島和之氏(ライドオンエクスプレスホールディングス副社長)とサンドイッチ店「サブマリン」を岐阜市内に開業。98年、宅配寿司「銀のさら」に業態転換。全国にフランチャイズ展開し、急成長を果たす。2001年、レストラン・エクスプレス(現ライドオンエクスプレスホールディングス)を設立。13年に東証マザーズ上場、15年東証一部に市場変更。
INDEX
  • フードデリバリーの本質的な問題
  • 「銀のさら」だけ生き残れた理由
  • ピザより難易度が高い宅配寿司
  • 生産性
  • データ分析

フードデリバリーの本質的な問題

フードデリバリーなんて簡単だと思っていませんか。
これが簡単なようで、難しい。なぜなら、即時配送サービスだからです。利用者から「欲しい」と言われたときにすぐに届ける即時配送は、常に待機している必要があります。いつ欲しいと言われるか分からないからです。
「銀のさら」店舗外観
問題は、ただ待っているだけの時間にも人件費がかかることです。福利厚生なども加味すると、配達員の時給は1200円ぐらいになります。
いつオーダーがくるか分からないサービスを黒字化するのは至難の技です。単価が高い、例えばダイヤモンドのような高価なものであればいいですが、単価が低い商品では配送コストを吸収できません。
では配達代行サービスを利用したら、どうでしょうか。
飲食店は配達代行サービスにかなりの額の手数料を支払わなければなりません。飲食店の場合、食材費と人件費が売上高のおよそ60%を占めます。そのほかに家賃や水道光熱費、販促費などがかかるため、10%も利益が出たら御の字。
それなのに配送コストとして手数料を取られたら、利益なんて出るわけがありません。
ではどうするか。
1000円の商品を1500円、2000円で売るわけです。もちろん顧客に受け入れられれば成立します。
しかしそう簡単ではないでしょう。一度は購入しても、リピートにはつながらないかもしれません。
「銀のさら」吟(ぎん)5人前
ただし、これは日本の場合で、欧州では事情が異なります。なぜなら日本は20年間ずっとデフレだったからです。
例えば、牛丼の値段は、私が18歳だったときと60歳の今も変わりません。日本以外の先進国の初任給は45万円ぐらいに上がっているのに、日本だけが20万円のまま。加えて、海外にはチップ制度があります。
いずれにせよ、単価が低くて利幅が少ないものの即時配送は、商売が成り立たない。理論的に成立しないものは一時的に存在しても、続かない。
フードデリバリー需要が増えようが、配達代行サービスが盛んになろうが、本質的な問題は何も解決されていない。そうした問題を抜きにしてコロナ禍の今、フードデリバリーが広がっているのです。
フードデリバリーがいかに難しい商売か分かっていただけたと思います。

「銀のさら」だけ生き残れた理由

ではなぜそんな難しい市場で私たちは生き残ってこられたのかをお話ししたいと思います。