2021/4/30

キャリアのための「スキル」は期間限定。一生役立つ「教養」を学べ

NewsPicks Inc. brand design, editor
 様々な価値観が共存し、組織と個人の関係性が変わりつつある現代に、私たちの生き方や働き方、幸せのあり方が問われている。
 この変化の時代に自分らしく働くためには、これまでのビジネスに活きる「スキル」だけでなく、一見するとすぐには役に立たないように感じるが後に自分の軸を作っていく「教養」に触れることも重要だ。
 様々な世界やものに触れて「どんなものを見るとき楽しいか」「どんなことを考えるときワクワクするか」と感じ学ぶことで、自分の興味や情熱の方向を知ることができる。
 こうした「ワクワクした学び」こそが一生涯役に立つ「教養」だ。
 そんな「教養」を考えるオンラインイベント、「まなびの5じかん─未来に効く教養─」から、「アート」「テクノロジー」「歴史」の3セッションをレポート。
 様々な切り口から知識や学びを体験して考えることで、私たちは自分自身にどのような「好き」を発見できるだろうか。

「よくわかんない作品だな」も正解。自分の心を観察せよ

 普段はあまりアートを意識しないという人も、作品と対峙したり作者の思いを感じることで、今まで気付かなかった自分の感情や心の動きにハッと気付くことがあるだろう。
 アートに触れることで心が刺激を受けて、豊かな感情が育まれていく様子を「心を鍛える」と題した本セッション。
 ここでは、現代美術家の多田さん大小島さん、そしてキュレーターの山峰さんを招いて、実際に作品を鑑賞しながら語り合った。
「アートで心を鍛えるといっても、誰かに打ち勝つとか言い負かすような強さじゃないんです。
むしろ、自分の弱さを受け入れたり、人の気持ちの機微を理解するようなこと。
作品やメッセージに触れて、曖昧で繊細な表現や、気持ちの機微を自分なりにキャッチすることが、アートの面白さだと思います」(山峰)
 では、実際にどのような思いで作品を制作しているのか、作品を見ながら多田さん・大小島さんが語った。

今見えているものは「本当」か?

 絵の具を使って立体的なタイルや鎖を表現する多田さんは、次のように語る。
『trace / dimension #12』(2021)一見するとタイルや鎖、木片のようだが、全て絵具を型に入れて固めて作られている
「例えばゲームや映画のCG、撮影スタジオのセットなんかも表面部分はとてもリアルで、そこに存在しているように見える。
でも果たして『本当にそこにあるのか?』と。実在への問いかけが僕の作品のテーマにあります」(多田)
 人間の身体の中に森や海がある様子を描いた大小島さんの作品にも、目に見えない現象についてのメッセージが込められているという。
『私たちの海と森の肺 / Our lungs of the sea and forest.』(2017年制作)右の肺には森が、左の肺には海が細かに描かれている
「イメージとして、私たちは海と森がなければ酸素を吸うことができない、呼吸をすることができないということを伝えたくて描きました。
私たちが吸う酸素は、森や海中のプランクトンから光合成で作られて、森と海がなければ酸素を吸うことができません。
 私たちの体の中にも自然があるというのが、ある意味リアルだよね、事実だよね、と」(大小島)
「環境問題への意識をわかりやすく見せる。
そして科学者や専門家からではなくて、アーティストが表現して改めて問い直させるというのが面白いですよね」(山峰)

始まりは「自分の興味に全力で没頭する」こと

 こうした作品を生み出す「感性」をどう鍛えているのか。
 意外にも、多田さん大小島さん共に「自分にフォーカスすること」だと明かした。
「僕は普段ゲームしかしていないのですが(笑)。
自分がものすごく執着していることや興味に全力で没頭するというのが、もしかしたら感性を磨くことにつながるのかもしれません」(多田)
 大小島さんは、「人との対話や出会った風景などから気になったことをノートにメモしている」と、大学生の頃から書きためた『思考ノート』を紹介した。
「感性を磨くというか、日々の驚きを記録していて。
ノートがたまった時に過去を振り返って改めてみてみると、この時点の私は何を疑問に思っていたのか、今はどう思っているのか。その変化を感じられます」(大小島)
 自分の興味や心の変化を受けて、その想いを作品として昇華していくのは、アートの始まりにも通じるという。
「自分が伝えたいと思うものを見つけて、それを作品で表現できて、作品を見た人が共感したら嬉しいじゃないですか。
そういう気持ちがアートの大事なところだと思います」(山峰)
 以前番組でパフォーマンスをしたことがあったというバービーさんも「じゃあ、誰しもがアーティストだ」と共感した。
自身も「10代の頃から、不安な時はノートに書き殴っていました」というバービーさん。意外な共通点が見つかった
「アートをやるというと学校に通ったり、基礎的なものがないと駄目なのかな、と思っていたのですが、まずは自分なりにやっちゃえばいい、ということですよね」(バービー)
 一見敷居が高そうに思えるアートだが、こうした作品や作者の思いに触れることで、自身の感性に目を向けてみることができる。
「想像力が広がるというのは、自分のためにも人のためにもいいことですよね」(バービー)と、アートを自分ごとに感じさせるセッションとなった。

「知ろう」とする過程で興味に出会う

 このセッションでは、ジャーナリストの津田さんと「Z世代」の村木さん小澤さんが語り合い、未来を担う世代のインサイトを深掘りした。
 小学校5年生ごろからスマホを使い始めた村木さんと、iPadで高校の授業のノートを取っていたという小澤さん。
 津田さんは「生まれたときからデジタル技術があると、そのツールの強さと弱さ両方分かっていて、使われ方にどんどんこだわって質を高めていくというのがデジタルネイティブ世代のすごさ」と感心する。
「よくSDGsはいつ知ったんですか?なんて聞かれるのですが、気づいたらもう知っている、という感じ(笑)。
昔からわからないことがあるとスマホですぐ調べていたので、自然とSDGsに行き着きました」(村木)
「炭素回収」の領域で研究に携わる村木さんは、高校2年生の時に、100年以上見つかっていなかった二酸化炭素から直接天然ガスを簡単に生み出す化学反応を世界で初めて発見した。
 石油資源が乏しい日本でエネルギーを生み出すことには大きな期待がかかっている。
「知らないことを恥ずかしく感じる気持ちは僕らがずっと一生持たなくちゃいけないものだと思います。
知ろうとする過程で、少しずつやりたいことが見えてきた感じなんですね」(津田)
3つ目のキーワード『つくりたい未来』を、Z世代の2人がそれぞれの言葉でパネルに掲げた

環境問題は「考えて当たり前」のこと

 ここ数年、日本で続く豪雨や台風などの自然災害も、SDGsが掲げる目標の一つ「気候変動に具体的な対策を」に関連する。
 今では小学校の授業でも習うほど、若者世代にとってSDGsの目標は他人事ではなく、身近なものになっているのだ。
「社会課題は、様々な領域から常に生まれ続けていますよね。
その中でも、なにか自分の中で解決する手段や考える軸をひとつ持っておくと、解決したり他にステップアップした時にも自分なりに模索しやすいんじゃないかなと思います」(小澤)
「環境問題って、(時間をかけて顕在化するものなので)当事者は議論に参加できないんです」と語る津田さん。
 未来の当事者の立場から環境問題を考える意識は、若い世代にとって自然なことかもしれない。
 村木さんと小澤さんは、その若い世代をリードするひとりだ。
「この時代に大切なのは、何よりも目の前の情報に踊らされないように、情報にのまれないように生きていくこと。
みんな環境問題に目を向けて!とか意識高くなって!ということではなくて。
一人ひとりがまずその問題を知って、自分なりに考えて分析することを多くの人が続けていければ、未来について考える人が増えていくはずです。
そんな人が同年代や次の世代に増えていくよう、私も頑張りたいです」(小澤)
若い世代の意欲的な言葉を受け、「こんなに頼もしい下の世代が育っている、という希望を持てた」(津田)というように、未来への力強い意欲を感じさせるセッションとなった。

変化の時代にこそ「長い目」を養え

 ビジネスパーソンが日々触れるスキルやビジネス理論は日々進化し、1年も経てば時代はさらに変化してスキルは使えないものになっていくことも多い。
 だからこそ、変化の早い現代には大きな流れを読み、長い目で思考する力が必要だ。
 一見アップデートもなく、現代社会では役立たないように見える「歴史」の分野だが、逆に言えば歴史を学んで得た知見はずっと役に立つ。
「歴史は繰り返す」という通り、歴史を学ぶことは現代や未来の指針になるはずだ。
「歴史を現代に活かす」をテーマに、象徴的な年号を挙げて語り合ったセッションでは、パネリストの田中さん市川さん深井さんが登場。
 4つの歴史の年号を入り口に、その年にいったいどんなことが起こったのか、そしてその出来事が現代の我々にどう関係してくるのか語り合った。
 深井さんが挙げた年号は紀元前479年孔子が亡くなった年だ。
 深井さんは孔子を通じて、「自分自身の人生を、焦らず長い目で見ていく」ということを考えたと言う。
「『論語』で知られる孔子ですが、実は彼って何もしていないんですよね。
『論語』は弟子が後々聞いた話を集めて編纂したもので、彼自身が書いたわけでもないし、あまり出世もしていません。
だから孔子は亡くなる時、自分は何も成し遂げていない、と感じていたと思うんです」(深井)
「僕が歴史を勉強していて面白いと思うのは、孔子のように、ほとんど何もしていないのに、そのあとやたら世界史を変えている人たちがいること。
吉田松陰も、一年半くらい松下村塾を開いた後に処刑されています。
その塾の弟子から、明治政府の大臣や総理大臣が輩出されて、大きな影響を与えたことが後々わかるわけです。
歴史を知らずに生きていると、すごく短い時間軸で物事を考えてしまう。
でも、目に見える成果が出なくても、生きているだけで周りに影響を与えていることがあるんですよね」(深井)
「我々は今をどう生きるのか、考えさせられますね。彼らは一体、何がそんなにすごかったんですか?」(バービー)
「完全に振り切れてるんですよ。
周りから何を思われるか気にせず、自分の思いに振り切った結果、現代にも語り継がれている。
彼らを勉強して、振り切るのが大事なのかも、と感じました」(深井)
 自分の好きなものに振り切って、貫くこと。現代の私たちにも通じる生き方のヒントかもしれない。
 そして田中さんが挙げたのは1830年蒸気機関車が世界で初めて走った年だ。
「イギリスで産業革命が起きて、蒸気機関車が初めて作られました。
それまでの主な交通手段は馬車や船でしたが、それがこの年から機関車に変わったんです」(田中)
「最新技術への反応も面白いですよね。
ストラウスの交響曲などいろんな作品が生まれて技術革新に興奮したり驚嘆する人もいれば、恐怖の対象として見ている人もいる。
現代でもAIに対して好意的な人と、仕事を奪われるんじゃないかと心配する人がいたり。
いつの時代にも、その両極端の人が必ずいるんですよね」(市川)
 次に市川さんが挙げたのは、1830年から1865年ごろのアメリカ南北戦争の終わりに向けて変化した時期だ。

「史実」にもファクトチェックが必要だ

「アメリカ南部と北部の情勢が随分違う頃、南部の黒人奴隷たちが北部に逃げるため、優しい白人がキルトの模様に暗号を示して手助けしたという『フリーダムキルト』の逸話が語り継がれてきました。
しかし最近、どうやらこのキルトの信ぴょう性が薄い、ということが研究でわかってきたんです」(市川)
Freedom-Quilts-01@Lynn deLeariehttps://www.flickr.com/photos/26071682@N05/3948046077/in/photostream/
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「一見美談として広まってしまったこのキルトの例をきっかけに、学校で学んだことも自分自身でアップデートしないといけないな、と思わされました」(市川)
「ひとつ前のセッションであったように、見たものや手にするものすべてをのみ込むのではない、という話にも通じるところがありますね」(久保田)
 また、ペストの感染と現在の新型コロナウイルス感染拡大を例に、「歴史を知っているからといって、過去の失敗を繰り返さないわけではないから、学び続けなければいけない」(市川)と、歴史を学び続ける大切さを語った。
「歴史を自分や現代に置き換えると、グッと入り込める」とバービーさんが最後に語ったように、過去を生きた人々と地続きの生き方を実感するセッションとなった。
 アートや環境問題や歴史、そして他の分野でも、「自分はどう感じるのか?」と考えること。そして、自分事として考える視点を持つこと。
「自分の心にフォーカスする」(多田)、「興味に振り切る」(深井)というように、自分の「好き」を知るために、学びはその一歩となる。
「まなびの5じかん」で取り上げた様々な切り口は、新しい知識に触れ、新しい自分に気付くきっかけとなるだろう。
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