【潮流】グローバル配信で変化する、ヒット作品のポイントとは

2021/4/8
NewsPicksコミュニティチームでは、ジェンダーギャップについての連載を4回にわたってお届けいたします。第4回目は韓国出身で、国際社会文化学者や歌人、起業家として活躍するカン ハンナ氏が、韓国コンテンツから見る韓国の女性像の変化を解説します。
INDEX
  • 世界中でヒットする、韓国フェミニズム文学
  • 「白馬の王子様」にはもう期待しない
  • グローバル配信で変わる、コンテンツ制作
 世界経済フォーラムによると、2021年のジェンダーギャップ指数は156カ国中韓国が102位、日本が120位であり、両国ともジェンダー格差問題は深刻な状況にあるといえると思います。
 韓国の統計庁で行っている経済活動人口調査によると、女性の平均賃金は男性の67.8%であり、女性の非正規労働者の比率が45%で、男性の29.4%と比べると1.5倍以上と高く、女性の働き方や働く環境にも多くの課題があるかと思います。
 ジェンダー格差についてまだ多くの問題を抱えている韓国社会ですが、小説、映画、ドラマなど韓国コンテンツ界では、ジェンダーギャップや男女平等を意識する大きな変化が起きています。

世界中でヒットする、韓国フェミニズム文学

 日本でも注目を集めているのが、韓国フェミニズム文学。日本など海外にも韓国フェミニズム文学波及のきっかけとなったのが、チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』 (筑摩書房)です。
 韓国ではすでに130万部の売上を記録していますが、2018年12月に翻訳版が出版されるやいなや大ヒットを記録。すでに日本で18万部以上を売り上げていますが、そのほか、台湾でもベストセラーとなり、ベトナム、イギリス、イタリア、フランス、スペインなど16か国でも翻訳・出版されています。
Photo:筑摩書房
  女性が社会で直面する様々な困難や差別を、精神科医のカルテという体裁で描き出すストーリーに世界中の女性たちが共感したのではないかと思います。また世界中で#MeToo運動が広がりを見せ始めていた時期とタイミング的にも注目を集めやすかったのではないかと思います。
 実は、韓国フェミニズム文学は1990年代から韓国国内で大きく関心を集め、定着してき ました。韓国を代表とする女性小説家がジェンダーをテーマにする優れた作品を次々と発表し、韓国人ならほとんどの人が知るほどのミリオンセラーも多数あります。
 1992年に韓国で出版された梁貴子(ヤン・グィジャ)の『私は望む私に禁止されたことを』(日本語未訳)から、孔枝泳(コン・ジヨン)の『サイの角のようにひとりで行け』(新幹社)、申京淑(シン・ギョンスク)の『母をお願い』(集英社)は、韓国フェミニズム文学に興味を持っている方にぜひ読んでほしい作品群です。

「白馬の王子様」にはもう期待しない

 韓国ドラマでも大きな変化が起きています。グローバル動画配信サービスの影響もあり、韓国ドラマ人気が世界的に勢いづいていることは記憶に新しいことかと思います。
 そこには、韓国ドラマが描く女性キャラクターの変化もまた見て取れます。一番の変化は、自立した女性キャラクターが主人公となる作品が急増している点です。
 日本でも人気を集めたドラマ『梨泰院クラス』は、LGBT、階級社会、人種差別など、現代の社会問題を数多く映し出していますが、その中で注目したいのが女性の主人公であるチョ・ イソというキャラクターです。
 チョ・イソは、自分の才能や実力を発揮し、愛する男性の成功を全力でサポートするキャリアウーマン。正しくないことにははっきり「これは違う」 と言える、自立した女性像として描かれています。
  10、20年ほど前に韓国ドラマでよく登場した女性像は、受け身で、力がなく、白馬の王子様を待っているキャラクターが非常に多く、ある男性と出会い、人生が劇的に変わる物語が主流でした。例えば、『パリの恋人』(2004年)、『シークレット・ガーデン』(2017年)、『相続者たち』(2013年) などが好例でしょう。
 しかし、このようなストーリーは今の時代に共感を失ってしまいました。事実、『梨泰院クラス』と同じく2020年に Netflix で配信された『ザ・キング: 永遠の君主』は、韓国ドラマの大物脚本家と、韓国トップスターのキャスティングなどが話題となり、始まる前から期待が高まりました。
 けれども、蓋を開けてみると白馬の王子様が突然現れ、初対面で「皇后になってほしい」というような、昔ながらのセリフが出てくるシンデレラストーリーが展開され、韓国国内の視聴率も最初こそ10%ほどだったのが、視聴者の離脱により、最終的に5〜7%となりました。
 『梨泰院クラス』のほか、自立した女性キャラクターが人気を集めた韓国ドラマとしては、 『椿の花咲く頃』(2019年)、『愛の不時着』(2019年)、『サイコだけど大丈夫』(2020年)、『スタートアップ:夢の扉』(2020年)などが挙げられます。

グローバル配信で変わる、コンテンツ制作

 では、このような変化がなぜ韓国コンテンツ業界に訪れたでしょうか。それにはいくつかの理由や背景が考えられます。
 まず1つ目は、韓国コンテンツのグローバル化です。今やNetflixを中心に韓国コンテンツは世界に配信されています。世界の流れを敏感に感じ、新たなトレンドを積極的に反映することは必然の流れといえるでしょう。
 韓国コンテンツがグローバル市場で受け入れられるためにも、アメリカから始まった#MeToo運動は、多かれ少なかれ作品作りに影響を及ぼしたと言えます。
Photo: iStock/towfiqu ahamed
 そしてもう一つ挙げられるのが、2018年頃から韓国芸能界で大きく注目を集めたセクハラ問題です。韓国国民誰もが知る有名な男性役者のセクハラ疑惑が次々と浮上し、女性たちの批判が殺到しました。
 このような状況の中、視聴者や観客といった受け手の声を最も大事にする韓国コンテンツ界では、作品の中の女性像を、より自立したキャラクターに変えるほか、ジェンダーギャップに関する社会問題なども作品の中で描くようになりました。
 特にドラマの場合だと、視聴者の多くは女性です。現実世界で「白馬の王子様」を期待しなくなった女性たちに共感を得るためにも、作品のストーリーやキャラクターが変化していくことは当然の流れだったといえるでしょう。
 まだ社会全般としては ジェンダーギャップなど深刻な課題を抱えていますが、韓国コンテンツが描き出す女性像 の変化や男女平等に関する問題意識がきっと長い目で見た時に韓国はもとより、世界的にも大きな役割を担っていってくれるのではないかと期待しています。
カンハンナ 国際社会文化学者、BeautyThinker CEO

タレント、国際社会文化学者。韓国淑明女子大学卒。韓国で、ニュースキャスター、経済専門チャンネルMCやコラムニストを経て、2011年に来日。現在、横浜国立大学大学院で博士後期課程在学中。主な研究分野は、国際社会文化学とメディア学(特に日韓社会文化研究、またはグローバルコンテンツ研究。)日本文化にも詳しく、2017年にははじめて外国人として角川短歌賞の次席に入選、2021年には第一歌集『まだまだです』(KADOKAWA)で第21回現代短歌新人賞を受賞など入賞を重ねる。そのほか、2020年11月には100%ビーガンコスメブランド「mirari」を日本でローンチし、展開している。

(執筆:カン ハンナ、編集:染原 睦美、企画・構成:下總 美由紀、デザイン:九喜 洋介)