2021/4/6

Yahoo! JAPANが語る「動画広告」のリスクとポテンシャル

NewsPicks BrandDesign ChiefEditor / NewsPicksパブリッシング 編集者
 2020年、コロナ禍の巣篭もり需要も相まって、インターネット広告費がマスコミ四媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)の広告費の2兆2536億円に比肩する2兆2290億円まで成長した。
(電通グループ「2020年 日本の広告費」より)
 その差わずか、246億円である。 
 そのうねりを駆動するのが、「インターネット広告媒体費」の中で22%を占める「動画広告費」3862億円だ。検索連動型広告、そしてバナーなどのディスプレイ広告の後ろにピタリと付けている。
電通グループ「2020年 日本の広告費」より
 デジタルシフトするユーザー動向に連動するように、あらゆるメディアやSNSでの動画広告も著しく成長した。
 その勢いは増し、2024年には動画広告市場が6856億円に到達しようとしている。
サイバーエージェント市場調査2020(オンラインビデオ総研/デジタルインファクト調べ)
 つまり、広告を出すのにあたりもっともメジャーな選択肢の一つに、WEB動画広告が躍り出てきているということだ。
 月間利用者(MAU)が8069万人と日本最大のデジタルメディア「Yahoo! JAPAN」においても、デジタル動画視聴回数は前年比170%である34.3億回を突破した。
※ニールセン デジタルコンテンツ視聴率 2020年10月 Monthly Total(PCとモバイルの重複率を除いた数値)
Yahoo! JAPAN提供
マーケティングにおいて、動画広告がスタンダードになりつつある状況。
ただ、同時に我々プラットフォームだけではなく、広告主や代理店などマーケターの意識変容が必要になってくる。
 そう語るのは、ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部の宮村 壮だ。
 国内における“デジタル広告の最先端”をリードしてきたヤフーは、動画広告市場の先行きをどのように捉えているのだろうか。
INDEX
  • インターネット広告の“光”と“影”を見極める
  • 真のユーザーフレンドリーのための3つの観点
  • クリエイティブの“最適化”で効果が倍に
  • 成果に直結する動画クリエイティブのコツ

インターネット広告の“光”と“影”を見極める

──なぜ“動画”という広告フォーマットが急増しているのでしょう。
宮村 非常にシンプルな理由ですが、やはり動画で表現できる“圧倒的な情報量”に尽きます。
 この10年余りのスマホシフトと通信環境の進化によってYouTubeやTikTokなどを中心に、動画へのタッチポイントが増えました。
 デジタル上で情報を取得する時間はどんどん短く、効率的に。ユーザーの中に「10分の記事を読むなら1分の動画を見たほうがいい」という潜在意識が浸透したと考えています。
 業種などによって差はありますが、動画は静止画やテキストに比べ、「認知」だけでなく、その情報量でユーザーの心を動かし、「理解」そして「獲得」まで促しやすい接触効果の高さがあります。
2015年にYahoo! JAPANに入社して以来、約6年間同社のマーケティング部門に従事。大手総合広告代理店 及び 旅行業界・不動産業界・化粧品業界など複数の業界の大手広告主の営業担当を経験した後、2018年より営業企画職へ。メディア会社、調査会社、制作会社など多数のパートナー企業との共同商品開発を責任者として推進した後、2019年に同部門の部門長に就任。2020年より同社における動画広告プロジェクトの責任者として動画広告領域の戦略策定・商品企画・営業企画を担い、株式会社リチカと共同プロジェクトを実行。動画クリエイティブのソリューション提供を進めている。
 2020年、Yahoo! JAPANでも動画広告が右肩上がりで伸びている状況です。
Yahoo! JAPAN提供
 こう伝えると動画広告が「良いことづくし」なフォーマットのようにも思えますが、一方、これからは動画広告の“光”だけではなく“影”の部分にも向き合っていく必要があると考えています。
──動画広告の“影”とは?
 まず、これはインターネット広告全般にまつわる課題でもあるのですが、デジタル広告がユーザーの生活に急速に溶け込んだ結果、ユーザーによってはインターネット広告全般を「わずらわしいもの」「課金して消すもの」として捉えるようになってきています。
 中でも動画広告はその情報量の多さゆえに、自分にとってあまり関心がない場合、わずらわしく感じられます。
 あまりメディア側がこういうことをお伝えすることは少ないと思うのですが、我々が2020年に実施した動画市場調査によると、デジタル動画広告にストレスを感じたことがあるか、という問いに対し78%が「ある」と回答しました。
──たしかにいちユーザーとして、興味のない広告だらけのメディアになってしまうと体験は悪そうです。
 我々、プラットフォーマーはもちろんですが、広告主や広告代理店のみなさま、すべてのマーケターが一歩立ち返り、デジタル動画広告の強みとリスクをしっかりと認識すること。
 その上でバランスを取っていくことが、今後の動画広告のプランニング・スタンダードになってくると思います。

真のユーザーフレンドリーのための3つの観点

──広告媒体として影響力を増すメディア、動画広告において、具体的な方策はありますか。
 広告が“真にユーザーフレンドリー”であるために、我々Yahoo! JAPANは、ユーザーへのアプローチとして、3つの軸があると考えています。

ユーザーフレンドリーの3つの観点


①メディア観点のユーザーフレンドリー
Yahoo! JAPANは動画特化型メディアではないので、一概にすべてのコンテンツ/広告を動画化するわけではありません。ユーザーによって動画を好む方もいれば、静止画やテキストのように静的なコンテンツを好む方もいるからです。
ヤフーは多くのユーザーにご利用頂けてるため、実際にかなり綿密にユーザーの反応を日々見て改善しています。

②広告効果観点のユーザーフレンドリー
広告主・メディア・ユーザーの三方良しの状況を大事にしています。つまりユーザーが広告を有益な情報と捉え、クリックや動画視聴率が増えていく状況が理想です。
そのためにも、どのようにすれば広告効果をあげることができるか?のサイエンスに組織として注力しています。

③クリエイティブ観点のユーザーフレンドリー
動画広告の情報量を活かすために重要なポイントは、認知・理解・獲得に至るまでユーザーフレンドリーに最適化されたクリエイティブである必要があることだと思っています。

──実際、広告主が動画広告を出稿する際には、ユーザーフレンドリーな最適化を達成するハードルが高そうです。
 おっしゃるとおり、クリエイティブの最適化という点から、静止画広告やテキスト広告よりも高い制作費をかけて作る必要があります。
 動画未出稿の広告主様に「なぜ動画広告の出稿を見送っているのか」と出稿のハードルを聞くと、非常に多くの方が「制作コスト」とおっしゃります。制作費を含む最終的な費用対効果を静止画やテキストと比較したとき、コストパフォーマンスの点で悩まれているケースが多かった。
 現在、我々は動画制作コストを弊社負担のうえで動画出稿できる、というキャンペーンを1年近く続けています。

クリエイティブの“最適化”で効果が倍に

──広告主のクリエイティブ費用を負担するというのは、かなり思い切った施策ですね。
 そもそもYahoo! JAPANはオーガニック検索窓を常にユーザーの視認に入れながら動画広告でマーケティングできる、国内でも稀有な特性を持っています。
YAHOO! JAPANにおける動画広告表示の例
 それを踏まえ、検索を促すために最適化された動画クリエイティブを出稿すると広告効果が高まる傾向にあります。
 ですが、効果が出にくい典型的なパターンとしてテレビCM用などの長尺素材を転用して入稿されることがあります。わざわざYahoo! JAPANに最適化した動画クリエイティブを制作するにはコストがかかりますから。
 その現状から、我々はYahoo! JAPANにご出稿いただく動画クリエイティブの制作コストを支援する必要があると考えました。
──どのように実現したのでしょうか。
 2020年7月、マーケティング動画生成ツール 「リチカ クラウドスタジオ」を提供する株式会社リチカ様と、Yahoo! JAPANの動画広告領域における協業を開始しました。まさにクリエイティブ領域の進化を目指した取り組みです。
「リチカ クラウドスタジオ」を利用することで、蓄積されたノウハウを反映した動画フォーマットで早く安価に動画を制作できます。
──なにか効果が上がった事例はありますか。
 動画クリエイティブをYahoo! JAPANに最適化したことで、ユーザーの反応率が2倍以上跳ね上がった事例もあります。
リチカ クラウドスタジオで制作した「一休」の動画広告
リチカ クラウドスタジオで制作した「一休」の動画広告
 現在は、ユーザー反応率の高い動画クリエイティブの傾向を業種別に研究し、いわゆる“業種別勝ちクリエイティブ”のテンプレート化をリチカ様と取り組んでいます。
 ユーザーにとって有益な動画広告の流通量が増えることで「三方良し」の状況がより進むと考えています。
──なぜ外部パートナーとの共同研究なのでしょうか。
 我々は国内最大級のユーザー様を抱え、かつユーザーフレンドリーを重視するからこそ、意思決定に非常に慎重にならざるを得ない時もあります。
 そのため機動力を持った外部パートナー様の存在が非常に重要です。その中でリチカ様は我々の求める「スピード感をもった制作PDCA」を実行できるパートナー。どこまでパターン化し勝率を上げてもクリエイティブに絶対はありません。最終的には効果を見ながらのPDCA、これをスピード感をもって行えることが大事だからです。
 パートナー様としてフラットな議論やフィードバックの場も頂けていることも非常に助かっています。

成果に直結する動画クリエイティブのコツ

リチカはYahoo! JAPANにおいてどのような取り組みをしているのか。株式会社リチカ事業開発Sec ビジネスプロデューサー・妹尾 浩充は次のように語る。
妹尾 Yahoo!JAPANさんはもともと、動画に関しては動画視聴の最適化に特化していましたが、昨年の夏頃からプラットフォームがUPDATEし、クリックにも最適化対応するなど動画の運用の幅が広がりました。
株式会社IMAGICA(現 株式会社IMAGICA GROUP)のデジタルメディア営業職として、キャリアをスタート。映画やコンテンツの企画・制作、配給、VOD事業など、プロデュース業務を中心に従事する。2014年には合同会社エクスペアードを設立し、新たにコンテンツビジネスを手掛け、2016年からはAmazonプライムビデオにて「ドキュメンタル」「バチェラー・ジャパン」などオリジナルコンテンツを中心にマーケティングマネージャーとして携わる。2019年から株式会社リチカにジョインし、成果フォーカスの動画コミュニケーション開発ツール&コンサル「リチカ クラウドスタジオ」をコアにした事業開発領域を担当している。
 我々のPDCAの回し方としては、まずシンプルに広告としてなにを訴求するか、いわゆるキーメッセージをいくつかの軸で設計し、徹底的に検証します。
 その上で、「もっとも成果を伸ばしていけるメッセージはなんなのか」を探し、その後具体的な文言をテストしていきます。重要なのはインパクトの大きいところから段階的に改善していくことだと考えています。
 実際に協業をスタートさせた結果、具体的案件での定量も定性も含めたフィードバックを通して、Yahoo! JAPANをはじめ各メディアへ広告出稿するのに成果を最大化するためのノウハウが、リチカ クラウドスタジオの動画フォーマットに反映されています。
 使える動画のフォーマットの開発も随時行っており、サイズ違いなども含めると年間で1200〜1400件程度リリースをしています。
 ナレッジの獲得という意味では、現在どこの企業さんも真似できないようなスピードとクオリティのインプットが生まれ、本当にいいサイクルが回っていると思っています。
──これからの動画広告への展望を教えてください。
 やはりワンクリエイティブ・マルチユースではなく、媒体ごとにマイクロコンテンツ化する広告設計、つまりクリエイティブと配信面をかけ合わせ、それぞれに最適な設計をし、検証を迅速に行うことで、はじめて成果に直結します。
 そして最終的にYahoo! JAPANのようなメディアおよび広告主の目的に沿った広告につながり、回り回ってメディアにおけるユーザーフレンドリーな体験の実現にも貢献できると実感しています。
 これからも、最終的にユーザーフレンドリーな広告環境が広がっていくことを期待してプロダクトとクリエイティブを磨いていきたいと思います。