2021/4/2

【必見】新生活に取り入れたい、あたらしい「読書習慣」

NewsPicks Brand Design Editor
 忙しくて本を読む時間を作れない人は多い。しかし、どんなに忙しい人も、1日10分なら時間を確保できるはずだ。では、その「たった10分」で「1冊の本の大筋がつかめる」としたら、どうだろう。
「flier(フライヤー)」は、約10分で読めるよう要約したビジネス書や教養書を取りそろえたサービスだ。
 2013年の創業以来、多忙なビジネスパーソンを中心に会員数は右肩あがりに増え、コロナ禍の影響で法人契約も好調。今や、累計約78万人が利用するサービスへと成長した。
 本当に10分で1冊分のエッセンスが得られるのか。だとすれば、本を提供する出版社側に「本が売れなくなる」などのデメリットはないのか。
 躍進する「本の要約サービス」の秘密を解き明かす。
INDEX
  • 20冊以上の本を「効率的」に読む方法を考えた
  • 1冊の本をどう「4000字」に要約するのか
  • 「要約が出ると本が売れない」は本当か
  • 法人ユーザーが急伸。その理由とは
  • 本を介した「知の循環」を作りあげる

20冊以上の本を「効率的」に読む方法を考えた

 話題の新刊やベストセラー、同僚からすすめられた本。
 私たちの身の回りには数多の「読むべき本」があるが、本棚に「積んでいるだけ」の本が何冊もある人も多いだろう。多忙なビジネスパーソンが読書に使える時間はあまりに短い。
 ビジネス書・教養書の要約サービス「flier(フライヤー)」は、そんな私たちの救世主的存在だ。1冊の本の要旨が、約4000字=10分ほどで手軽にインプットできる形に要約されているのだ。
 フライヤーの大賀康史CEOは、「一番このサービスを欲していたのは私自身なんですよ」と語る。
「きっかけは、新卒で入社したコンサルティングファームでの経験です。
 クライアントの課題解決がコンサルタントの仕事ですが、若手にはクライアントと同程度の業界知識もありません。大量のインプットで追いつくために、週末には図書館にこもって20冊以上の本を読む生活が続きました。
 ただ、通常の業務も忙しいので、それがインプットの限界。そこで、通勤や休憩などのスキマ時間に本の概要を知ったり、次に読む本の『あたり』がつけられたりするサービスがあれば、と考えたのです」(大賀氏)
「スキマ時間で本の大筋がつかめる」という明快なコンセプトが刺さり、2013年の創業以来、フライヤーの会員数は着実に増加。
 コロナ禍での在宅時間増加や学びニーズの高まりを背景に、会員数は直近2年で2倍強(前年比で 1.5 倍)の累計約78万人へと急拡大を遂げている。
 ローンチから7年間で、世に送り出した要約は、約2400冊分。毎月大量の書籍が刊行されることを考えれば少々少ない印象だが、すべてを要約することは最初から目指していない。
「創業初期は、さまざまな方からコンテンツの量産に関するアドバイスもありました。
 ですが、私たちが扱うのは、出版社や著者が魂を込めて世に送り出した『作品』です。量を求めて質がおざなりになっては、その価値が正確に読者に伝わらない。
 クオリティを追求するために、毎月200〜300を超える候補から約30冊を選書し、丁寧に要約を作成しています」(大賀氏)
 選書が行われる「選書委員会」は、フライヤー社員のほか、大学講師、出版社経験者といった外部識者を交えて構成される。
 大賀氏いわく、そこでの判断基準は、①革新的か、②(論旨が)明確か、③応用が利くか、の3点。
 単に「書店で売れているか」という基準だけで選書していないからこそ、真の学びを求めるビジネスパーソンから評価されるのだ。

1冊の本をどう「4000字」に要約するのか

 とはいえ、利用する側としては一番に解決しておきたい疑問がある。
 1冊の本の10万字、20万字という情報量を、たった4000字に要約できるものなのか。それで「本を読んだ」と言えるのかということだ。
「創業以来、一貫してクオリティにこだわってきたので、要約としての完成度の高さには自信を持っています。
 文字数の関係上、書籍にある具体的な事例などは割愛することもあります。ですが、フライヤーの要約を読めば、少なくとも一冊を通して著者が伝えたいメッセージのコアは抽出できるでしょう」(大賀氏)
では、どのようにして要約のクオリティを担保しているのだろうか。
 一つは、「公式要約」であることだ。たとえば、ネットなどで個人が投稿している「要約」は、完全に本を読んだ個人のバイアスで書かれた、いわば「非公式」なものだ。
 しかし、フライヤーは版元である出版社、制作者である著者とも連携し、厳しい要約原稿のチェックを受けている。
 彼らから見て「本のエッセンスとして正しい」とお墨付きを得たものしか掲載されていないという点で、非常に信頼性が高いと言えるだろう。
 もう一つは、「公式チェック」を受ける前段階での編集体制だ。
「専門性の高いライターと社内の編集者がタッグを組んで要約原稿を練り上げ、そこからさらに何度もチェックを重ねます。
 要約原稿は、書評ではなく、著者の言いたいことを客観的にサマリーしたものでなくてはいけません。
 なるべく主観を含めずに、端的に情報をまとめる高いライティング能力が必要なので、面接やテストライティングを重ね、時間をかけてライターを選出しています」(大賀氏)
 こうして選ばれたライター陣は、業界専門のジャーナリストや経営コンサルタント、大学講師、元新聞記者など。いわば、元となる書籍が書けるようなプロたちが顔をそろえている。
 選書の段階で有用な書籍を見極め、専門性の高いプロフェッショナルが制作し、著者のチェックを受ける。フライヤーの要約原稿は、このようにして生まれるのだ。

「要約が出ると本が売れない」は本当か

 となると、もう一つ湧いてくる疑問がある。質の高い「本の要約」が世に出ると、肝心の「本」が売れなくなるのではないか、ということだ。
 この質問に対し、大賀氏は「その逆なんですよ」と言う。
「質の高い要約だからこそ、読者は本当にその本が自分に必要かがわかります。
 フライヤーの要約ページには、すぐに書籍を購入できるようネット書店のリンクを設置していますが、アクセス率は15〜20%ほど。
 ありがたいことに、『要約を掲載した書籍の売上が上がった』という声が出版社から届くことも多いですね」(大賀氏)
フライヤーは、現在約200社の出版社と要約書籍の提供のパートナーシップを結んでいる。そのうちの一社・PHP研究所の山岡勇二氏も、「むしろ売れる」と強調する。
「以前、ビジネス誌の編集長をしていた経験から、雑誌で書籍の内容をかなり詳細に紹介しても、むしろそれが読者の書籍に対する興味喚起につながることはわかっていました。
 ですから、フライヤーさんのビジネスモデルを初めて聞いたときから、『これは書籍のプロモーションになるだろうな』と思いましたよ」(山岡氏)
 PHP研究所がフライヤーと提携を開始したのは、2018年春のこと。以来、約3年でフライヤーへの要約掲載件数は77冊にのぼる。
 フライヤー内での要約ランキングで上位にのぼった書籍は、いずれも売り上げが好調だ。
「昨今はインターネットとリアルを組み合わせて、どのように販促を行うかが重要です。
 ですから、書籍の『認知』や『ブランディング』の段階で、web媒体であるフライヤーは、出版社にとって重要な販促パートナーでもあるのです」(山岡氏)

法人ユーザーが急伸。その理由とは

 このように、さまざまなステークホルダーから求められるサービスへと成長したフライヤーだが、直近で特に会員数の増加が顕著なのが「法人ユーザー(契約)」だ。
 法人利用者数は、2018年度(2 月期)、2019年度(同期)と 、2期連続で3倍の伸びを見せ、人材育成や福利厚生、イノベーション促進を目的に企業への導入が進んでいる。
 監査やアドバイザリー、コンサルティングサービス等を提供するPwC Japanグループは、2018年より希望者を対象にフライヤーを導入。人事部の田中聡史氏は、経緯を次のように語る。
「私たちのビジネスの根幹は、プロフェッショナルサービスの提供を通じて、社会からの信頼を構築し、顧客の課題を解決すること。
  激しい環境変化と課題の多様化・複雑化のなかで、社員にはプロフェッショナルとして自律的に学ぶ姿勢が欠かせません。
 必須のトレーニングカリキュラムに加え、自発的な学習機会をサポートする場として、手をあげた社員を対象とした募集型のプログラムを提供。
 DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成プログラムや、フライヤーのような社外コンテンツを拡充しています」(田中氏)
 現在、グループ全体でフライヤーを利用している社員は、約1300人。特に、コンサルティング業務に従事する社員の利用比率が高いという。同人事部の齊藤ふみ氏はこう語る。
「フライヤーを利用している社員にアンケートを行ったところ、さまざまなメリットを感じていることがわかりました。
 まず、なんといっても手元のデバイスで気軽にあたらしい本、話題の本が“立ち読み”できること。
 それにより、①短時間で情報のキャッチアップが可能、②内容の“予習”ができるため、後で書籍を読むときにも頭に入りやすい、③普段あまり手に取らないジャンルにも知見を広げられるといった利点があります。
広範な知識を求められるコンサルタントという仕事において、フライヤーは有効な『情報収集ツール』になっているようです」(齊藤氏)
 そして、これは副次的な効果だが、フライヤーは社内の交流促進にも効果をもたらしているという。同社でフライヤーを利用するユーザーで、有志のコミュニティ『フライヤー友の会』が立ち上がったのだ。
「リモートワークによって社内でのコミュニケーションが減っているなか、社員主導でこういった動きが出るのは、人事としてとても喜ばしいことです。
 しかも、『友の会』に所属している社員は、実務では関わりのあまりないメンバー。ここから、新たな化学反応が起きたり、有志活動が生まれたりすると面白いですね」(齊藤氏)
 こうしたメリットが理由だろうか。PwCで提供されている社外コンテンツのうち、最も社員からのリピート率が高いのがフライヤーだという。

本を介した「知の循環」を作りあげる

 このように唯一無二の価値を提供するフライヤーだが、「挑戦はまだまだこれからです」と大賀氏は語る。
 2022年には 120万人ユーザーの突破を目標に掲げ、さらにその先を目指しているのだ。
「フライヤーを、個人のユーザーの方に対してはもちろん、企業の経営や人材育成にとっても欠かせないサービスにしていきたいですね。
 たとえば、社会人1年目のユーザーに『これだけは読んでおきたい◯冊』とレコメンドするなど、ユーザーのライフステージにあわせた体験を作れないかと考えています。
 ほかにも、PVだけではない多様な切り口のランキングを拡充する、そのためにUIをリニューアルする、といったアイデアもありますよ」(大賀氏)
 加えて大賀氏は、特に法人ユーザー開拓への意欲を見せる。
 企業や部署ごとに最適な選書をレコメンドするだけでなく、本を介した社員同士のコミュニティやアイデア交換の場をプロデュースする、などの構想もある。
iStock:bee32
 もう一つの構想が、「本」を中核としたコミュニティの構築だ。
 すでにオンラインで本の感想を交わしたり、本に関する情報を配信したりするブックサロン「flier book labo」や、「学びメモ」と称した要約へのコメント機能を解放している。
「私たちはこれからも本の要約にコミットしていきますが、それに加えて『知』に触れ、それを分かち合う喜びを感じてもらいたいのです。 著者との読書会を開く。一冊の本を起点とした学びコミュニティを形成する。いろいろな方法が考えられます。
 ユーザーの体験を最大化し、人々の知と知がつながる『循環』を生み出していきたいですね」(大賀氏)
 フライヤーは、すべてのビジネスパーソンの「マストハブ」となれるのか。その成長に期待がかかる。