2021/3/19

日本の次世代金融サービスを作る「キーパーソンの素質」とは

NewsPicks Inc. brand design, editor
2019年2月に始動したKDDIの「スマートマネー構想」。スマホを使った銀行預金の振り込みから、ショッピング時の決済や投資、そして保険手続きまで、スマホひとつであらゆるマネーの管理を目指している。

この構想の一翼を担うのがauフィナンシャルサービスだ。目まぐるしく変化するネット金融業界において、新しい価値を生み出す覚悟と挑戦とは。代表取締役社長の中井武志氏に伺った。

「真のスマホ・セントリック」とは何か

──KDDIグループが掲げる「スマホ・セントリックな金融サービス」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
 スマホ・セントリックというのは、簡単に言えば「あらゆる金融サービスをスマホで完結させる」仕組みのことです。
 その一例が、2019年4月に当社が提供を始めた「au PAY スマートローン」です。
 この商品は、スマホからローンの審査申し込みからご利用までできます。従来のローン商品では、近くのATMで現金を引き出すか、お客さま自身の銀行口座へ振り込むことが一般的でした。
 しかし「au PAY スマートローン」は、スマホで全て済んでしまう。お借り入れ金額をau PAY 残高にチャージし、au PAY(コード支払い)でご利用が可能です。
 また、au PAY(コード支払い)でご利用いただくことで、ポイントも貯まります。貯まったポイントをau PAY 残高にチャージすることも可能です。もちろん、返済時の口座設定もスマホ上で完結できます。
 KDDIグループ全体で掲げる「スマートマネー構想」をより具体化させていくためには、2019年4月に発足したauフィナンシャルグループ各社との連携強化が鍵だと考えています。
 たとえば2020年には、自転車保険義務化地域に住んでいるau PAY カード会員のお客さまに向けて、au損保の自転車保険を提案するといった連携が開始しました。
 こうしたグループ内での取り組みの機会はもっと増やしていきたいと考えています。au PAY マーケットなど、KDDIグループ各社ともうまく連携していきたいですね。
 また、機能面だけではなくUI/UXの改善も大切です。
 実際にお客さまがサービスを使って満足いただけることで、はじめて構想が具体化されたと言えます。
 グループ各社との連携を深め、よりお客さまにメリットのあるサービスをお届けしていきたいですね。

「どうしたらできるのか」を考えて行動する人

──「スマートマネー構想」の実現に向けて、着々と取り組みが進んでいるのですね。構想の「戦略」と実装の「戦術」を、どのように両立させているのですか?
 まず、戦略と戦術の違いについて整理しましょう。
 組織で「戦略」を担う人は、ビジョンや進むべき方向性を定義しなくてはなりません。また、実現時期を設定し、バックキャストで今何をすべきかを考える必要がありますよね。
 一方で「戦術」を担う人は、その戦略をどのように実現していくかを考えて、施策として進めていく必要があります。
 特に重要なのが、戦術を担うリーダーの役割です。
 リーダーは、上司や部下、それに関係者を巻き込み施策を実行しなくてはなりません。この縦と横を繋ぐ結節点(ハブ)となれる人が、優れた戦術家と言えるでしょう。
 優れた戦術家とは、目標を設定するときに、やるべき範囲を限定しません。なぜなら、「できることだけ」をやっても、人は成長できないからです。
「自分は〇〇担当だから」と業務範囲を限定したら、そこから自身の成長も止まりますし、私たちが目指すビジョンの実現もできませんよね。
「真のスマホ・セントリックな金融サービス」を追求するならば、グループ内外の関係者を巻き込み、自身が「できること」から「やるべきこと」まで、業務範囲を広げていく必要があります。

「100点満点」でなくていい。まずは一歩進んでみよう

──必要なのは「やってみよう」という挑戦意欲と、「どうしたらできるのか?」を考える力、ということですね。
 おっしゃる通りです。たとえば、「全ての金融サービスがスマホで完結する」という大きなビジョンを実現するには、どうすればいいのか。
 この「どうすればいいか」を考えることが大切です。
 何かをやろうと思った時、できない理由は100個くらい並べられるのに、「どうしたらできるのか?」という“How”は、意外と出てこない人も多いですよね。
 失敗やリスクを考えることも大事ですが、まずは一歩踏み出さないと、何も始まりません。
 最初から満点じゃなくても良い。「この方法なら80点取れますよ」という提案を2個でも3個でも出したら、少なくとも前には進むことができます。
「考えること」を苦痛に感じたり、思考が停止したりするなら、インプットの量が足りていないかもしれません。
 そのため、私はよく社員に「とにかくインプットの量を増やして欲しい」と言っています。
 どんなこともインプットの材料になります。たとえば、街を歩いている時、誰かと話している時に感じたことでも、本から得るものでも良いんです。
 自分の中に知識やアイデアの量さえあれば、何かテーマを与えられた時に、「AとBを組み合わせたらできるかも」と物事を多面的に考えることができますよね。
 常にインプットの量を増やし、知識やアイデアを磨くこと。
 そうすれば急にテーマを振られても「そういえばこんなアイデアがあったな」とアウトプットが出せるようになります。

「自分の成長」への主体性が強みに

──金融×通信で新しいサービスを創り出すには、さまざまなスキルが求められそうです。御社で活躍する人材には、どんな経歴の方がいるのですか?
 もちろん金融業界出身者もいれば、当社に来て初めて金融について学ぶ人もいます。実際、社員の半数以上は金融業界以外の出身者です。
 活躍する人材に共通するのは「動機」と「意欲」の2つだと感じています。
 実際に、入社した社員を見ていると「なぜ当社を転職先に選んだのか」「金融業界をどう見ているのか」「当社で何を成し遂げたいのか」と動機をしっかりと考えてきている人が多い。
 また、面接でよく聞くのが「最近、自分の成長のために何をしましたか?」という質問です。
 その人の意欲や、常に真摯に学び続ける人柄が、この問いの答えから見えると思います。
──しっかりとした動機と強い意志が、活躍する人材の共通事項なのですね。御社に入社したら、どんなことができますか?
 まず、当社はスピードを重視する会社なので、どのような職種で入社してもスピード感を持って物事を進めていけます。
 小さい組織なので、「(自分が)やってみよう」と判断すればすぐに着手できますし、そう言い出せる環境は整っています。
 ただし、矛盾しているようですが、スピードは重視しながらも細部までこだわることも重視しています。
 無鉄砲にスタートして失敗したら元も子もない。それは「挑戦」とは呼べませんよね。
 慎重に、でもスピード感を持って進める。その上でさらに細部まで考えてこそ、ユーザーにとって最適なサービスがつくれると考えています。
──「細部」へのこだわり、ですか。
 私自身これまで数々のサービスをつくってきましたが、その業界にいると当たり前のことでも、専門外の人から見たら理解できないことは多いですよね。
 だからこそ、いま自分たちが世に出そうとしているサービスが、パッと見てわかりやすいか、使いやすいか、と常に細かくチェックしています。
 そのためには、私自身が「素人のプロ」であり続けなければならない。新しいサービスをリリースする際には、今でも私自ら実機で確認しています。
 リーダーの立場になってもメンバーに完全に任せきりにするのではなく、いちユーザーとして「ここが使いにくいんじゃないか」と慎重に軌道修正していくことが必要です。
──スピードを重視しながらも細部までこだわる慎重さも求められるわけですね。こうしたバランスも、御社ならではのカルチャーなのでしょうか。
 私は近頃よく「大企業とベンチャーの良いところを組み合わせたような会社」と表現するのですが、実はこの言葉は、先日1on1を実施した2年目の新卒社員から出たものです。実に言い得て妙だと感じました。
 当社には、大企業ならではのアセットやユーザー基盤があります。それはどんどん使っていって欲しいし、グループ内で協力して拡大していきたい。
 一方で、設立8期目の若い会社なので「まずは前へ進んでみよう」というベンチャーらしい気質もあります。
 自分たちがチャレンジャーであることを楽しんで、どんどん挑戦してみて欲しいですね。
──中途採用で、この新しい領域で自分のキャリアを試したい、実力を磨いてみたいという人にとっては、面白い会社ですね。
 まさにその通りです。
 こんな事例があります。同業他社でマネージャーの立場にいた人が、明確に当社で成し遂げたいことを掲げ、入社してきました。
 前職では部下もいましたが、新しい職場で最初からマネージャーになっても、周りがついてこないと考えたようで、「最初は部下を直接持たず仕事を始めたい」と自ら提案してきました。
  実際に仕事を始めてからは周囲もその実力を認め、入社4ヵ月後にマネージャーになりました。今では社内から広く信頼を勝ち得て、高いパフォーマンスを出し続けています。
 当社には色々な経歴の人がいます。年功序列は完全に撤廃しており、成果に応じてポジションを用意しています。
 実際にプレーヤーで入社して、4年後には部長、本部長といったポジションに就いた30代の人もいます。
 そういった観点からも、明確な動機と強い意志を持っている人には、チャンスしかない会社だと思います。
 異業種出身者でも、新しい領域で世の中に新しいサービスを送り出したいと考えている人には絶好の場です。一緒に働き、ともに成長していきたいですね。