2021/1/29

「広さより深さ」がカギ。デジタル革命の主戦場は“日本の地方”へ移行する

NewsPicks Brand Design 編集長
 2000年代初頭からデジタルテクノロジーを活用する新規事業をプロデュースし、BizRobo!などRPAを使ったプロダクトやサービスをリリースしてきた。そのRPAホールディングスが、2020年7月に100%出資の子会社「OPEN VENTURES」を立ち上げ、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)事業に乗り出した。
 その狙いはどこにあるのか。RPAホールディングス代表取締役・高橋知道氏に聞いた。

テクノロジーの「大衆化」が変えたこと

── RPAホールディングスはこれまで、RPAによるホワイトカラーの業務の自動化に取り組んできました。今CVCを立ち上げる狙いは?
 まず、我々はミッションとして「知恵とテクノロジーで新しい事業を創造し、個性が輝く楽しい時代に進化する」を掲げています。
 2020年に立ち上げたCVC「OPEN VENTURES」も、このミッションを実現するひとつの事業表現として展開していきます。
 社名にもなっている「RPA(Robotic Process Automation)」は、あくまでもデジタル情報革命によって生まれた“新しい道具”のひとつ。人がやらなくてもいい仕事を自動化するツールでしかありません。
 それを使って創るべきなのは、知恵とテクノロジーを活用して、人間が人間らしく、創造的で個性を生かした仕事が次々と生まれる世界です。
 そもそも、私が2000年に創業した当社の前身であるオープンアソシエイツは、インターネットという当時最先端のデジタル情報技術を活用した「新規事業創出集団」としてスタートしました。私のなかにあった課題意識はその頃から何も変わっていません。
 大衆化されたデジタル情報技術を使って、どうすれば個人の能力を拡張できるか。業務から無駄なプロセスを減らせるか。それぞれ得意なことに集中し、それを惜しみなく社会に提供できるか。
 これが、我々がさまざまな事業という表現手段を通して解こうとしている課題です。
── テクノロジーを使って生産性を上げる。20年前からそこにフォーカスしたのはなぜですか。
 きっかけは、もっと前ですね。平成の30年間というのは、デジタル情報革命が加速度的に進んでいった時代です。私の世代では、学生時代から社会に出るまで、コンピューターは縁遠い存在でした。
 新卒でアンダーセン・コンサルティング(現・アクセンチュア)に入社した同期の大半はPCに触ったことすらなかった。世界を代表するデジタルカンパニーであるアクセンチュアですら、いわばコンピューターの素人集団だったというのは、今では信じられないでしょう。
 当時の初任給で買えるコンピューターなんて、300MB程度のHDDに、今のスマホの100万分の1程度の処理性能のCPUしか備えていなかった。今だったら、スマホで撮る写真100枚分、動画なら1本分。個人で買うには高価で、処理能力も低く、できることも少なかったんです。
写真提供:iStock / gyro
── デジタル技術がどれほど加速度的に進歩したのかが分かりますね。
 そうです。私が入社直後に携わったプロジェクトですが、クライアントの大手企業は営業マン全員にそのおもちゃのようなPCを持たせ、数十億円を投資して自前で顧客管理システムを構築しました。サーバーのハードディスク容量はたったの1TB。それを何百人もの営業社員がシェアしていました。
 今からすると信じられない話ですが、大企業だってバカではありません。おもちゃレベルのコンピューターリソースに数十億円を投資するビジネス上の価値があったから投資したのです。その処理能力と人件費を比較したとき、圧倒的にコスパが良く、生産性が上がったということです。
 当時、それだけの投資ができるのは、銀行やテレビ局、商社など、一部の限られた大企業だけでした。
 ところが10年も経つと、コンピューターはどんどん大衆化し、一部の企業の特権だったデジタルテクノロジー、つまり、膨大な情報処理や通信の力を、個人が簡単に使えるようになりました。
 それどころか、同じ値段で買えるコンピューターリソースの情報処理力やインターネット回線の通信容量は、毎年倍々ゲームのように増えていきます。
 今、何か新たなイノベーションを起こしたり、個人の生産性を高めたりすることについて「デジタル」を抜きにして語ることはできません。
 ツールが大衆化したということは、その力がパーソナルになったということ。誰もがそのビジネスリソースを使えるようになった。
 PC、インターネット、スマホに続いて、これからの5〜10年はAIとRPAを組み合わせた「スマートロボット革命」の時流になるでしょう。そして、その変化のもとで莫大な事業機会が新たに生まれるのです。
ビジネスの根底が変わる。第4次産業革命は「AI+RPA」で起きる

誰もが、数千人分の経営リソースを使える時代

── 確かに、この30年間で個人が扱える情報量は格段に上がっていますが、日本企業はテクノロジー活用で大きくおくれを取っています。
 そのとおりです。誰もがなにげなく使っているスマホには、かつて数千人単位の従業員を抱える大企業が扱っていたような情報量があり、処理能力は比較にならないほど高度化している。にもかかわらず、ビジネスの生産性が上がっていない。
 今回のコロナ禍でも顕著でしたが、残念ながら、日本企業はグローバルなデジタル情報革命に完全に乗り遅れてしまった。
 デジタルテクノロジーの活用が不十分で、会社に行かなければ仕事ができない。テクノロジーを生産性向上とその先にある顧客への付加価値提供に活用できない。これは、過去の成功体験やレガシーに囚われている経営者の問題です。
 アメリカや中国など、海外企業のボードメンバーの経歴を見ると、CxOの多くがデジタルテクノロジーに深く関わってきたキャリアを持っています。いまやデジタルを抜きにして経営やビジネスを考えることはできない。デジタルを起点にしてその先の戦略や未来を語れない限り、日本企業が再び世界をリードすることはありえません。
 しかし、圧倒的なおくれをとった日本企業が、今後もこれまでの30年間と同じ道を進むとも思っていません。大きく遅れたということは、リープフロッグ型でその先へ行ける。つまり、一気に時代を追い越せる土壌が整ったとも言えるのです。
── 数年前に比べ、最近では「RPA」という言葉も認知され、活用する企業も増えています。
 まず、ツールとしてのRPAでいうと、大企業は比較的うまく使いこなせているケースが増えています。
 たとえば管理部門などで行われている複雑な反復作業を、スマートロボットというデジタルレイバー(仮想知的労働者)が担えば、スピードも正確さも飛躍的に向上します。それによってコストを大幅に削減できている。
 ところが、多くの人材を抱えられず、テクノロジーを活用する必要性の高い中小企業の意識が追いついていません。業務プロセスを見直すことや、テクノロジーを導入することに対する切迫感が、まだまだ弱いと感じます。
 もうひとつはツールに限らない、より広義な「RPA」という概念についてです。スマートロボットを使ってバックオフィスの業務プロセスを自動化する。それは素晴らしいことですが、一方で企業の業績にもっともインパクトを与えるのは、中核業務であるフロントオフィスの領域です。
 現在、事業会社の営業部門やマーケティング部門、金融機関のトレーダーやファンドマネージャー、広告代理店など、フロント領域でもデジタルレイバーを活用する事例は増え始めています。
ある中古自動車販売の企業では、海外顧客からのオーダーに応じてネットで情報を集め、マッチングを図るという業務をデジタルレイバーに実行させたことで、売上を3倍に伸ばした事例もある。写真提供:iStock  / Joe_Potato
 つまり、コストセンターの業務や人件費をカットするという「マイナスを減らす」発想だけではなく、それによって人間のリソースをフロント領域に集中させ、「プラスを増やす」という発想こそが、RPAというテクノロジーを活用する本質的な意義なのです。
 今、私たちはビジネスにおいて、コンピューターにはまだ処理できない非定形の情報を、人間的な文脈とともに数多く交換しています。ここがフロントであり、一次情報の生産現場です。しかし、このバックエンドには、さまざまな「事務作業」が付随してくる。
 たとえば営業だったら、見積もりを取り、請求し、入金し、購買し……。膨大な事務に忙殺されてしまっています。
 これからの人間は、その作業に自分のリソースを費やすべきではない。大衆化されたデジタルテクノロジーを使えば、その時間でもっと大きな価値を生み出すことができるからです。
 既存・新規に関わらず、これからのビジネスはこの概念を前提に、あらゆる事務プロセスを自動化するフローでデザインすること、いわば「ハイパー・オートメーション化」していくことが求められるのです。

次のデジタル革命は「地方」から始まる

── RPAホールディングスがCVCを立ち上げる目的も、今お話しいただいたような「プラス」を増やすことにある。
 そうです。OPEN VENTURESは、広義なRPAの本質的な考え方を活用することで、ハイパー・オートメーション化された新事業創出のプラットフォームになることを目指しています。同じ志を持つアントレプレナーを巻き込んで、デジタル情報革命のリープフロッグを起こしたいのです。
 かつての起業家には、資金やコネクションが必要でした。ファイナンスやガバナンスを任せる人材を高給で雇い入れ、バックオフィスを作らないとビジネスが行えなかった。
 今は、それらすべてをロボットに委ねられます。「アイデア」と「行動力」さえあれば、安価になったデジタルリソースを活用し、新しいビジネスとして社会に広めていける環境が整ったのです。
── OPEN VENTURESでは、どんな事業領域への投資を想定しているのでしょうか。
 我々が注力したいのはローカル。特に、まだデジタルのインパクトが浸透していない日本の地方にある生産現場にこそ、膨大な事業機会が眠っていると考えています。
 いわゆるGAFAに代表されるプレーヤーは、全世界で平準化されたサービスのレイヤーで共通の課題を解決し、成功を収めました。つまり、ヨコ方向(グローバル)の広がりで圧倒的な勝者になったのです。
 それによって、ある意味でグローバルが平準化していく一方、ローカルではより個別性が高く複雑でシリアスな課題が進行しており、人が対応しています。たとえば地方創生と一口に言っても、各地方によって直面している課題は異なり、環境もプレーヤーもまったく違うという現実があります。
 これから先にデジタル領域で変革が起こるとすれば、それはより細かいメッシュを持ち、特定の複雑でシリアスな深い課題を解決するようなビジネスになるはずです。
 RPAを活用したスマートロボットでこの個別課題を解決できれば、顧客当たりの提供価値を圧倒的に高められるはずで、たとえ1000人の個別課題を解決するだけでもビジネスになる。つまり、狭く深いタテ方向の個別課題(ローカル)に対して、テクノロジーを活用して解決するビジネスにこそ、チャンスがある。
 個別課題の解決を通じて、その地方や企業が持つ得意分野を成長させ、個性が輝く楽しい時代を創る。そのための事業創造をOPEN VENTURESで実現していきたいのです。
 このようなビジネスのフロンティアは、東京のような大都市ではなく「地方」にあります。
 日本が人口減少社会の課題先進国と言われながら、それらを解決するソリューションを生み出せないのは、あらゆる産業に適用できるような薄く広いサービスを必死で考え続けているからです。
 たとえば、老人介護、医療、教育などの社会課題。または、製造加工や産廃処理などの産業領域には、デジタル化が遅れ、非効率な仕事に圧迫されている人たちがいます。それぞれの産業や地域には固有の状況があり、それを解きほぐさなければ個別の課題は解決できません。
 逆に言えば、その課題を深く掘り下げ、ひとつの地域課題をピンポイントで解決できるビジネスがあれば、面を広げなくても十分にビジネスとして勝てる。
 安価なデジタルツールを活用して少ないリソースでビジネスを動かすことができれば、「1000人に深く届くビジネスアイデア」が大きな価値を持ち、全国各地で多数のプレーヤーが勝利できる可能性があります。
── ローカルな個別課題の当事者こそが、いわば次のデジタル革命の最前線になる。
 PCやスマホがあっという間に大衆化したように、AIやロボットの技術も10年後には当たり前のツールになり、その機能や性能も格段に向上しているでしょう。
 肝心なのはデジタルテクノロジーを通じた平準化ではなく、人、企業、地方が持つ得意分野=個性を輝かせるためにデジタルテクノロジーを活用すること。個性が輝く楽しい時代に進化させるための事業創造です。
 私が一貫してやりたいことは、オポチュニティ・メイキング。すなわち、可能性を持った人材に、テクノロジーという武器を提供し、思う存分に個性を輝かせる挑戦ができる場を提供すること。OPEN VENTURESでは、単なる投資にとどまらず、そのアイデアを持っている人たちの事業創出機会を最大化することを目指しています。
「世の中の課題を本気で解決したい」という強い思いと、アイデアさえあれば、誰もがアントレプレナーになれる。RPAホールディングスは、そんな革命を起こしたいのです。