2020/12/7

勤労が義務化された日本で、もっと幸せに「はたらいて生きる」には

NewsPicks Brand Design editor
コロナ禍で価値観が大きく変化するなか、私たちは「はたらく」をどのように捉え、行動すべきか。
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げるパーソルグループはオンラインカンファレンス「今、ニッポンのはたらくを考える大会議」を11月23日、勤労感謝の日に開催。あらゆる角度から議論を展開した。
本記事では、2つのKeynote Sessionをレポート。転換期にある現代において、自分らしくはたらく未来につながるヒントをお届けする。
幸せが長続きする報酬は「金銭」ではない?
石川 今日は勤労感謝の日。日本は、「勤労」が憲法で義務化されている珍しい国です。昨今ではコロナ禍の影響もあり、仕事や生活の価値観はますます変化しています。
昨今の「はたらく」をめぐる価値観の変化のなかには、報酬に対する価値観の変化もあります。楽天大学の仲山達也学長は、働き方には「加(+)・減(−)・乗(×)・除(÷)」という4つのステージがあると提唱しています。
最初の「加(+)」は、できることを増やすステージで、仕事の報酬は「仕事」。次の「減(-)」は自分の強みに集中するステージで、仕事の報酬は「強み」。
さらに次の「乗(×)」は磨いた強みに別の強みを掛け合わせるステージで、仕事の報酬は「仲間」になり、最後の「除(÷)」は効率的に複数の仕事ができるようになるステージで、仕事の報酬は「自由」になります。
報酬というと「金銭」をイメージしがちですが、すべてのステージで「金銭」が入っていませんね。
前野 「お金・地位・物」の報酬による幸せは長続きしません。「やりがい」や「つながり」のほうが長期的な幸せにつながります。
だから、人生をかけてやりたいことと仕事がつながっていたら、その仕事そのものが生きがいになりますし、自分の仕事が役に立っていると思えることが報酬になる。
人間本来の「はたらく」とは、お金を稼ぐためではなくて、仲間がいてやりがいがあり、“みんなで生きている”と感じることだと思います。最近はそういった考え方に戻っているように思います。
石川 幸せが長続きしない報酬があるのですね。
前野 課長に昇進したことを1年間ずっと喜ぶ人は、なかなかいないですよね(笑)。「地位材」というのですが、他人と比較できるものを手にしても幸せは長続きしません。
もちろん、足りない状態から足りる状態になるのは大事ですが、一定以上の収入を得られるようになると、お金が幸せに寄与しなくなる。それよりも、心と体が社会とつながっている状態が続くと幸せは長続きします。
石川 酒向さんは社長として報酬を設計する立場にいますが、報酬は何だと思いますか?
酒向 生活の安心と安全を守るのを前提とした上で、仕事の報酬は、未来に対する責任を果たしている実感を得ることだと思っています。
これ以上環境が悪くなると生きていけないし、経済格差が広がると生きられなくなる人が増えてしまう。格差が広がっていくなかで「自分だけひとり勝ち」はできない、と思っています。
山積している社会課題を切り崩して、少しでも社会を良くして次の世代に渡すことが、いちばんの報酬ですね。
前野 僕らが若い頃は高度成長期だったから、かっこよくて速い車が欲しかった。でも親子ほど離れている酒向さんの世代は、環境を配慮した車を選ぶのが当たり前になっていますよね。
人類のため、地球のためにと考える利他的な人が増えたのは、昔よりも職業を自由に選択できるようになり、多様な生き方ができる時代になった証拠だと思います。
石川 たしかに昔は、頑張って勉強して、いい学校に入学していい会社に入社すれば、いい人生が待っているといわれていました。いわゆる「報酬のレール」が敷かれていた。
いつかは夢のマイホームといった幻想があったけれど(笑)、まさにそうした「地位材」を得ても幸せは長続きしないから、報酬に金銭が入っていないのですね。
ライフとワークの境界が融合
石川 「はたらく」の価値観の変化として、コロナ禍では「時間」と「場所」の使い方が大きく変化したと思います。
前野 オンラインとオフラインのハイブリッドで自由に働けるようになりましたよね。これはコロナ以前からできたはずの働き方ですが、日本は新しいことをしたくても制度が邪魔して、なかなか進みませんでした。
それが一気にリモートワークが浸透したことで、満員電車の苦しみから解放された人は増えたはず。ただ、時間と場所をうまく使える企業と使えない企業は二極化し、格差も生まれています。
僕自身は、今まで新幹線や飛行機で移動していた時間がなくなり、家族との時間が増えました。
みんなが在宅になったから、一緒に食事ができるし家事も以前より行える。オンラインミーティングを近所の公園ですることもあり、現代人が忘れかけていた豊かさを得られています。
前野氏は香川からオンラインで登壇。
酒向 株式会社GoodMorningでは、今まで渋谷のオフィスに通える人を限定で採用していましたが、フルリモートになったので自由に採用ができるようになったのは大きな変化です。実際、今年の夏に新しくチームに入ってくれたメンバーにはリアルで会ったことがありません。
個人的な変化として、コロナ禍は価値観の変動に振り回されました(笑)。
今まで家は寝るだけの“巣”と位置付けていましたが、リモートワークになってからは、冷蔵庫を買って料理を作るようになり、銭湯通いから自宅のお風呂に入るようになりました。すると、必然的に仕事の時間を減らさないといけなくなったんですね。
今までは仕事で成果を出すことが自分にとっての幸せだったのが、家での生活も大事なことに加わって、価値観の判断軸が増えたんです。
前野 価値観の判断でいうと、現代人はライフとワークは区切るものだという価値観を持ってますが、原始人は教育も仕事も家事も、みんなで同時にやっていたんですよね。
今こそ、そのような本来人間がやっていた「価値観の調和」や「同時解決力」が求められているのではないでしょうか。
受動的で“やらされ感”のある人の幸福度は低い
石川 これからの「はたらく」に対して、提言をお願いします。
酒向 自分なりに楽しく働いて生きようと思っても、例えば制度やルールなど、足かせになっているものもありますよね。自分の力だけではどうにもならない場合、国のルールを変える必要もあると思います。
だから、私個人が自分の働き方や幸福を追求していくためにできることは、政治に関わっていくこと。自分が暮らしている国や市町村のルール、政治は、自分の生活や「はたらく」に密接に関わっていると考えています。
前野 格差の問題を含めて、今の日本では制度疲労が起きています。明治維新から第2次世界大戦までは77年、第2次世界大戦から77年後が2022年。制度疲労をクリアするタイミングが来ているのだと思います。だから、政治も大企業も教育も官僚も、変えていくことが急務ですね。
また、ウェルビーイングの研究では、自己決定する人の幸福度は高く、受動的で“やらされ感”のある人の幸福度は低いことがわかっています。
政治が動かないからと諦めるのではなく、小さくてもいいから自分の意思決定で行動を起こせば、世の中はポジティブに変わっていくはず。人生は一度きり、誰もが幸せに生きて働いて、幸せに一生を終えられるようになるといいですね。
日本人の「はたらく」の原点は江戸時代?
石川 江戸時代は日本人の「はたらく」のorigin(原点)だったのではないかという説があります。
江戸町人の1日の大まかな生活スケジュールは、朝は近所を回って変わったことがないかをチェックし、朝食後の午前中はお金を稼ぐ仕事をする。昼食後の午後は他者のためにボランティアをして、夜は明日のためにリフレッシュする遊びの時間。そんな過ごし方をしていました。
平野 中学や高校で習った江戸時代のイメージは、士農工商など身分制度のイメージが強くありますが、実はそうじゃなかったこともわかってきています。
江戸時代後期から職能の分離が起こり、必ずしも農業従事者だけではない、いろんなことを生業にする百姓が村にはたくさんいました。また、江戸時代は社会の機能的分化も進み、それに応じた職業も始まったようです。
水田 古今東西、食べるために働くというベースは変わらないと思いますが、それが満たされると「人のために何かしたい」「誰かの役に立ちたい」と思うようになる。
それが江戸時代の働き方で、長時間労働の現代人に比べるとうらやましくも感じます。
喜多 たしかに江戸時代は「はたらく」の原点だと思います。
江戸時代はそれまでに比べ人口が2倍になっているので、食べるために働くという要素は切り離せなかったと思いますが、同時に他者の役に立つ「はたらき」をして、みんなで生きていた。現在の働き方に近づいたのは明治以降ですね。
時間は神が作り、時計は悪魔が作った
石川 歴史の中により良く「はたらく」ためのヒントがあるとすると、何だと思いますか?
平野 僕は「時間」の存在が「はたらく」に大きな影響を与えたと思います。
フランスで鉄道が走り始めた頃、地方の農民たちは農産物をパリに運ぶため、汽車の出発時間に合わせた行動をとるようになりました。
でももともと農村地帯は、教会が鳴らす鐘の音や太陽の位置などに合わせた生活をしていたから、きっちりとした時間感覚に同期する必要が出てきた。
こうした例などから、社会の分業体制が複雑になるほど、時間や納期に縛られるようになって働き方は苦しくなっていったということがわかります。
今、働き方に大きな変化が起きているとしたら、時間の融通を利かせられるようになっている点が大きいのではないでしょうか。それは、近代以降の労働の苦しさを解きほぐすのではないかな、と。
実際、僕も小説を書いていて苦しいのは締め切りがあることです。もちろん、納期は必要ですが、調整できるようになるだけで労働の苦しみからは随分解放されると思います。
石川 ヨーロッパの言葉で「時間は神が作り、時計は悪魔が作った」というのがありますからね。時計に合わせて働くようになってから、歯車が狂ったのかもしれません。
水田 私も「時間」は「はたらく」に最も影響するものだと思います。コロナ前、私は毎朝8時前には会社に行って、帰宅するのは夜中の23時や0時。土日も働くのが当たり前だと思っていました。
だけど、コロナ禍で「その働き方は間違っている」と気づいたんですね。もしかしたら、社長の私が早く来るからと、周りも気を使って早く出社していたかもしれず、今思えば私は迷惑なことをしていましたね(笑)。
人生100年時代をどう生きるか
石川 「はたらく」の原点となった江戸時代と現在の大きな違いは、人生100年時代といわれるほど長寿になったこと。少し前までは人生80年だと思っていましたが、今は予防医学で老化研究が進んでいるので、人生120年時代はすぐに来るかもしれません。
寿命によって働き方は変化しており、たとえば戦後直後の平均寿命は50歳で、老いも若きもとにかく働いていました。それが、東京オリンピックが開催された頃には、定年55歳・平均寿命70歳に。70年の人生を3分割した「学ぶ」「働く」「休む」という1本のレールが敷かれ、いい学校に進学していい会社に入社することが素晴らしい人生だといわれるようになりました。
でも人生100年時代になった今、60歳で定年になるとその後40年休むことになるし、75歳まで働くと働く期間が半世紀になります。そのバランスを取るために、人生を春・夏・秋・冬の4ステージに分けることが提唱されるようになっています。
たとえば、25歳から50歳までは一生懸命働き、その後は週3〜4日働いて人生も楽しみ、75歳になったらそれまでに蓄えた資産で老後の自分を養う。
みなさんは、人生100年時代の働き方はどのように考えていますか?
喜多 私の周辺や特に20代の若い世代では、副業や越境で働くのが当たり前になっている。稼ぐために働くのではなく、幸せになるために働く方向にシフトしているように感じます。江戸時代のようなパラレルワークですね。
一方で、何がしたいかがわからずに踏み出せない人もいます。そういう方に伝えたいのは、「考えるな、感じろ」です。難しいことを考えるよりも、自分の興味や関心があるもの、感性が動くものを選んで、幸せになるための働き方にシフトできればいいですね。
喜怒哀楽を大事にしながら、自分の人生をデザインしていける人が世の中であふれてほしいです。
平野 あらゆる前提となる社会構造が、不確実で予想がつかなくなりました。過去10年間のテクノロジーの進歩を見ても、正確に予想できた人はほとんどいなかったし、今後の10年間でどうなるかも本当にわかりません。
激変する環境の中で、いつまで会社が続くかわからないし、いつまで自分がそこで働けるかもわからない。僕らは戦後の終身雇用制と日本的な「はたらく」を相当強く植え付けられているので、就職にうまくいかないことが“アイデンティティクライシス”として大きな傷を残してしまうし、60歳で定年すると自分自身を失ったようになりがちです。
今はその考え方を緩和していくのがすごく重要なので、副業によってリスクヘッジをする働き方はあり得ると思います。
ただ副業化には、やりがいのあるハッピーな副業化と、追い詰められてせざるを得ない副業化の2種類があるのは事実。後者の、不安定な状況の人を社会が下支えするシステムを作る必要があります。
たとえば、労働過多にならないような時間管理ができて、次の仕事に就くまでの保証があり、銀行からの融資を受けられるなど。こうしたことに取り組まないと格差は拡大する一方です。人生100年は長いからこそ、人の動的なバランスを社会全体で肯定する仕組みをつくる必要があると思っています。
「はたらく」に幸せ革命?世界118カ国、約12万人を対象に調査
水田 私は人生100年時代のキーワードは、「はたらいて、笑おう。」です。
これはパーソルグループのグループビジョンなのですが、「はたらいて、笑おう。」が意味するのは、納得感のある仕事や働き方を自分で決めて、「自分の仕事が世のためになっている」「自分は組織や社会にとって必要な存在である」と実感を得られること。
この働き方をパーソルグループだけでなく、全世界で一人でも多くの人に実感してもらうことで、「はたらいて、笑おう。」を実現できる社会を作りたいと考えています。
そのためにもまずは世界118カ国、約12万人の方を対象に「はたらいて、笑おう。」指標を定め、調査分析して、広げていきます。
石川 測定されないものは改善されないですよね。パーソルグループでやろうとしているのは、「幸せ革命」ともいえることかなと思いました。人生100年時代、働く期間が長いからこそ、笑えるようになるべきということですね。
水田 これからは、物質的ではない、“エネルギー”が必要になってきます。私たちパーソルグループの“エネルギー”となるのは、世界中の人に「はたらいて、笑おう。」を実感してもらえるということ。これからの多様性の時代には、「共感」をキーワードに歩んでいきたいです。
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