2020/12/7

混迷を極める新卒採用。これは「危機」か、慣例を壊す「好機」か

NewsPicks Brand Design Editor
新卒採用マーケットに地殻変動が起きている。通年採用やジョブ型採用の拡大にともない、「就活生全員が同じナビサイトを見て、6月から一斉に面接を受け始める」という慣例が変わりつつあるのだ。多様なサービスや情報を駆使し、自らのペースで就職先を選ぶ学生が増え、企業サイドの意識も少しずつ変化している。

この流れを後押しすべく、社員クチコミサービスを運営するOpenWork(旧Vorkers)は、今月1日に新卒学生のリクルーティング機能の一部無料提供を開始した。企業はOpenWorkをどのように新卒採用に活用するべきか。なぜ、このタイミングで「無料化」に踏み切ったのか。代表の大澤陽樹氏に話を聞いた。

今の「採用慣例」は就活生のためになっているか

──新型コロナウイルスの影響もありますが、新卒採用を取り巻く環境は、今どのように変化していますか。
 例年と比較して、就職活動に苦労する学生が増えています。
 「就職氷河期の再来か」とも言われるほどで、不安を感じている学生も少なくありません。
 悩みを抱えているのは企業側も同じです。今年は内定率の低下に加え、「大手企業が希望退職者を一斉に募る」といったニュースを耳にする機会も多かった。
 コロナの影響をダイレクトに受け、雇用・採用マーケットはドラスティックに変化していると言えます。
毎年11月に厚生労働省と文部科学省が発表する大学生の内定率データ。内定率が70%を下回るのは2015年以来で、リーマンショックに次ぐ下げ幅となった。
 また、経団連がこれまで取りまとめていた就活ルール(3月に情報開示、6月に選考開始)の廃止が表明され、21年卒までは現行ルールが継続。
 22年卒の学生以降には新ルールが適応される予定です。これにより、通年採用の導入を検討する企業も増えている。
 さらには「ジョブ型雇用」の導入を合言葉に、職種別新卒採用の機運も高まっています。
 コロナによって、少しずつ進んでいた採用ルールの改訂に拍車がかかり、新卒採用はまさに「転換点」に差し掛かっていると言えるでしょう。
 今こそ、慣例を変えるチャンスかもしれない。そう考え、「新卒リクルーティング機能」を一部無料で開放することに決めました。
 この機能によって、企業はOpenWork上でのスカウト送付や、自社のクチコミページでの広告掲載が可能になります。
OpenWorkの企業クチコミページと求人ページの様子。
  また、求人掲載時期を限定しないため、通年で採用活動ができますし、職種別の募集にも対応。
 自社と他社のクチコミを比較した、強みや弱みの分析を通して、採用戦略にも活用できます。
  今はコロナの影響で採用を中断している企業もあり、就活生の活動も長期化する可能性が高い。
 ですが、OpenWorkを活用すれば、今後の状況に合わせて、自由なタイミングかつコストをかけずに採用を再開できます。
 未曾有の状況だからこそ、目の前の状況に困惑している多くの就活生や企業に寄り添うプラットフォームでありたいと考えています。

なぜ新卒採用にOpenWorkが「効く」のか

── これまでOpenWorkは、採用ツールとしてはあまり認知されてきませんでした。企業が使うメリットはなんでしょうか。
 今までは、就活生・転職者向けのクチコミサイトと認知されることが多かったですね。ですが、最近は中途採用でOpenWorkを活用する企業が増えてきています。
 自社の「ありのまま」の情報を知っている候補者と話ができるので、スムーズに面接に進むケースが多い、と反響をいただいています。
 そこで、大きく3つの理由から、新卒採用でも同じようにOpenWorkを活用してもらいたいと考えています。
 1つは、企業の「採用慣例」を変える後押しをするため。先ほどお話ししたとおり、今は新卒採用のパラダイムの見直しが一層強まっているタイミングです。
 今回無料化することで、これまでOpenWorkを利用していた企業はもちろん、新規で登録いただく企業のリクルーティングを応援できるのではないか、と。
 2つ目の理由は、OpenWorkが多くの学生に利用されているサービスだからです。
 2021年卒業予定のOpenWork学生ユーザー数は22万人を突破、就活生の2人に1人が利用している計算です。
 東大、京大、慶應、早稲田では就職者の9割以上が登録しており、ここ数年で「就活ツール」としての立ち位置を確立しつつあります。
 そして、強調したいのが3つ目の理由。これは個人的な思いでもあるのですが、採用マーケットにおけるミスマッチをとにかく減らしていきたい。
 厚生労働省が毎年発表しているデータでは、大卒の就職者の入社後3年以内の退職者は3割を超えると出ており、この傾向は10年以上続いています。
 流動性が高いこと自体は問題ではないのですが、その理由に問題を感じます。
 というのも、ある調査によると、退職者のうち約3分の1が「入社前の情報収集が十分でなく、思い描いていたキャリアと違った」という理由を挙げている。
 裏を返せば、入社前に十分に情報収集をできていれば、ミスマッチにならなかった可能もあるわけです。
 だからこそ、OpenWorkのクチコミを通じて多角的な情報を就活生に届けたいと考えていますし、それを元に企業との認識のズレを埋めていってほしい。
 ミスマッチが解消すれば、不幸な離職者を減らすことにつながり、双方にとってプラスになりますからね。

企業は「クチコミ」をチャンスに変えられる

──とはいえ、OpenWorkに寄せられる社員クチコミはポジティブなものばかりではありません。企業にとっては、耳が痛いコメントもあると思います。
 たしかに、ネガティブなクチコミが寄せられることもあります。ですが、こうした情報に企業が正面から向き合わなくてはいけない時代に突入しているのも事実です。
 これからの企業には、 “As isとTo beの提示”が必要なのです。
 私たちは、「自社の現在の状況(=As is)」を説明しながら、「今後どう変わっていきたいのか(=To be)」を提示する、という意味で使っています。
 たとえば、「若手の活躍頻度が低い」というクチコミが書き込まれたとします。ならば、なぜそういったクチコミが寄せられたのか、と客観的に自社を分析する。
 そこで「若手の抜てき制度がないからだ」と答えが見つかれば、今度はその制度を整えつつ、「若手の活躍の場を拡充していくつもりだ」と、応募してきた学生に伝える。
 自社の現状と目標を誠実に発信していくのが、今求められる「オープン」な採用姿勢だと思うのです。
 学生と話をしていると、企業情報の「オープン化」に対する需要を強く感じます。
 以前、就活生から「就活のツールとして、ナビサイトよりも、TwitterやYouTubeを活用している」という話を聞いて衝撃を受けました。
 理由を聞いてみると、「覆面座談会」のようなコンテンツに人気があるそうなんです。
 たとえば、激務で有名な会社や、高給与の会社の仕事内容や実情について、現役社員や元社員が顔を隠して話す、という投稿です。
 学生は、企業の発信を見て内容は理解しても、100%それを信頼するかというと、そうではない。
 多様なチャネルを駆使して情報の可視化をはかり、その企業を立体的に理解しようとしているのです。
 ならば、企業側も情報発信のあり方、学生との認識の合わせ方を、どんどん見直すべきではないでしょうか。

採用市場に「新たな指標」を提示する

──情報のオープン化が進むことで、個人のキャリアへの意識も変わっていきそうです。
 そうですね。これまでは、配属や転勤などを会社に預ける「就社」が前提でした。
 ですが、今後はビジネスパーソン一人ひとりが自身の働き方やキャリアを主体的に築く、本当の意味での「就職」の時代がやってきます。
 自らのキャリアに向き合うとき、その第一歩となるのは「自分で情報を調べること」です。そして、OpenWorkにある1000万件を超えるクチコミと評価スコアもその一つ。
 情報を取捨選択し、自らの「働きがい」を模索するための手段を提供する。これが私たちの事業のミッションです。
 もう一つ、OpenWorkならではの特徴があります。それは、採用における「セレンディピティ(幸運な偶然の出会い)」を生みだすこと。
 というのも、毎年40万人超の就活生がいますが、人気企業100社に応募が集中しているのが現状です。でも、学生にはあまり名前が知られていなくても、「実は優良な企業」が日本にはたくさんあります。
 嬉しいことに、OpenWorkの「働きがい」スコアで上位ランクインしている会社は、必ずしも誰もが知る大企業とは限りません。
 こうした知名度では測れない企業の価値が、「クチコミ」という新たな指標によって発掘され、双方にとって幸せなマッチングに寄与できると考えています。
 情報のオープン化が進むことで、社員一人ひとりの「働きがい」の選択肢がどんどん広がっていく。その後押しを、OpenWorkとして今後も続けていきたいです。