2020/11/11

【ARナビ】フロントガラスがディスプレイになる日がくる

モビリティライター
コロナ禍で海外への渡航が制限されている中ではあるが、スタートアップ企業の活動も活発だし、投資家は相変わらず積極的な姿勢だ。
筆者も、年初までは世界を飛び回って、彼らと同じ場の空気を共有していた。今はオンラインでつながっているから、最新の動向がテレカンの画面越しに伝わってくる。
...とはいえ、人と人との出会いが生み出す”セレンディピティ”のためには、やはり直接会って議論したいとは思う。
スイス発のスタートアップ起業である「WayRay」との出会いは、まさにセレンディピティと呼べるものだった。

アリババの出資で一躍有名に

一番初めにその名を耳にしたのは、2017年のシリーズBでアリババが出資した時のことだった。ちょうどアリババに勤める知人と話していて、“そのこと”を耳にした。
ホログラフィックナビ!?
当時、アリババもようやく日本から注目を浴びるようになってはいたものの、車載のテクノロジーに注力しているというイメージとはほど遠かっただけに、筆者の目には非常に興味深く映った。
そもそも、ホログラフィックというだけでも、テック好きにとって胸躍る上に、それを車載できるなんて!と、いてもたってもいられないくらい興奮してしまった。

ホログラフィックのハードもソフトも包括

そんなことを言われても、興奮する理由がわからない人も多いだろう。この辺りで、簡単にWayRayと彼らのコアコンピタンスとなる技術の概要を解説しておこう。
2012年に設立されたWayRayは、初期に調達した1000万ドルを活用して、世界初の自動車用「ホログラフィックナビゲーションシステム」の開発に成功。
2018年の段階で、ホログラフィックシステムのハードウエアとソフトウエアを包括して製造できるまでに成長していた。具体的には、ドライバーの視野の上に指示や情報を表示できるARダッシュボード「Navion」を開発した。
アリババがWayRayに出資した意図は、その前年にSAIC(上海汽車)と合同で発売したスマートカーのプロジェクトで目玉となる新技術とすることだった。
実際、アリババとSAICによるジョイントベンチャー「Banmaテクノロジーズ」との提携も発表している。Banmaは車載関連のIT技術を軸にしたスタートアップで、2015年に行った初のラウンドですでに16億元(約250億円)もの調達に成功している。アリババが開発した「雲OS」とともに、中国におけるコネクテッドカーのエコシステムの重要な役割を担っている。

ポルシェ、ヒュンダイ、ケンウッドも

周囲では中国のバブルであふれた資金が投入されただけでは?という疑念を持つ人も多かった。
しかし、そのわずか1年後、ポルシェがシリーズCを主導したというニュースを聞くことになる。
ポルシェは独自に「スタートアップ・アウトバーン」なるイノベーション・プラットフォームを運営しており、将来の自動車テクノロジーに関連する戦略的開発を行っている。
加えて、ヒュンダイ、日本からはJVCケンウッドもシリーズCに参加している。
テック好きの気持ちになっていただきたい。みんなより1年でも早く目をつけたスタートアップが急成長して、ポルシェや日系企業の投資を受けたとなると、お宝を発掘した気分になるのもご理解いただけるはずだ。

2023年には30億ドル市場に

閑話休題。
車載ヘッドアップディスプレー(HUD)は、従来、日本精機、パナソニックといった日系企業が強い分野だ。そこにドイツの部品大手コンチネンタルが一気に攻めてきている印象だ。
市場規模は年々成長していて、2020年の8億6600万ドルから2025年には30億〜40億ドルもの市場に成長すると予測されている。
現状では、主にドライバーをサポートする役割を担っているが、今後、同乗者向けのエンターテインメントの提供も視野に入っている。
もちろん、車載ARの世界にライバルも存在する。しかし、現段階で、AIのアルゴリズムも含めたソフトウエア開発と最適化されたハードウエア開発まで包括的にホログラフィックAR車載ナビに特化して研究開発し、またこの業界をリードする技術を持つ企業は、WayRayと断言しても過言ではない。
加えて、自動車産業の視点から語っても、車載サービスの開発、つまりは「APIを活用した車載ビジネスの構築」に向けて、車載ARはカギとなる可能性を秘めている。

スマートシティへの応用も視野に

事実として、ポルシェのIT担当副社長を務めるLutz Meschke氏は、「単にドライバーを補助する機能の提供にとどまらず、顧客がポルシェに期待する品質の車載サービスを提供する基盤となると考えている」と語っている。
また、「もはや、フロントガラスは単なるガラスではありません。“ARホログラフィックパワードガラス”として、新しいサービスを提供し、新しいユーザー体験を提供するためのプラットフォームとして機能します」と、オープンイノベーション・グループのディレクターであるYunseong Hwang氏も語っている。
単なる車載ナビにとどまらず、AR技術を活用した新しいエコシステムを構築し、スマートシティなどにも応用して、新しいユーザー体験を提供する、といったところまで拡張しそうだ。