2020/8/22

【新時代】米津玄師が「未来のライブ」を見せつけた

柴 那典
ジャーナリスト
メタバース(オンラインの仮想空間)での音楽ライブが注目を集めている。
コロナ禍で世界的にフェスやライブの中止が相次ぎ音楽業界が大きな危機に直面しているなか、アーティストたちはオンラインの活動領域に新たな活路を見いだし始めた。
なかでも、特に話題を集めたのが、米津玄師が8月7日にゲーム「FORTNITE」(フォートナイト)内で開催したバーチャルイベント「米津玄師 2020 Event / STRAY SHEEP in FORTNITE」だ。
いまや日本の音楽シーンを代表する存在になった米津玄師によるこの新たなライブ表現は、シンプルにとてもワクワクさせられる、興奮に満ちたものだった。
これが音楽シーンにどんなインパクトを持つのか、そして、この先バーチャルな音楽ライブはどんな可能性を秘めているのか、その核心を探っていきたい。
© 2020, Epic Games, Inc.
なぜフォートナイトライブなのか
フォートナイトは、全世界でのプレイヤー数が3億5千万人を突破した人気バトルロワイヤルゲームだ。
先日、開発元のエピックゲームズがスマートフォンのアプリ内課金システムなどが独占に当たるとしてアップルとグーグルを提訴したニュースも報じられたが、逆に言えば、これはフォートナイトがテクノロジー企業の2大巨頭に真っ向から立ち向かえるだけの強さを持ったプラットフォームだということの証明でもある。
そのパワーの由来が、単なるゲームにとどまらないメタバースとしての魅力だ。
フォートナイトはオンライン参加した最大100人のプレイヤーが銃などの武器で最後の1人もしくは1組になるまで戦い合うというゲームだ。
ローンチ当初はバトルロワイヤルゲームのブームによって人気を得たが、ユーザーがゲーム空間内の建築物を自由に作れる機能があったり、ゲーム内のボイスチャット機能で会話できたりすることもあって、ユーザー層の広がりと共にオンラインのコミュニケーションツールとしての意味合いも持つようになっていった。
基本プレイは無料だが、課金することでアバターのスキン(コスチューム)やエモート(ダンスやしぐさ)の購入が可能で、アバターが自分の分身としての意味合いを持つようになっていった。
(写真:Christian Petersen/Getty Images)
1230万人の衝撃
そして2019年2月2日、初めてフォートナイト内のバーチャルライブが実現する。
同ゲームの熱心なプレイヤーでもあった人気DJのマシュメロが、ゲーム内の「ショータイム」モードでライブを披露。覆面キャラクターとしてステージセットの上に登場したマシュメロの周囲に、普段は戦い合っているプレイヤーのアバターが集まって思い思いに踊って楽しむという新たなエンターテインメントが実現した。
この日はアメリカの国民的イベント「スーパーボウル」も開催されていたが、同時接続数は1000万人を突破。歴史的な一日となった。
そして2020年4月24日には、人気ラッパーのトラヴィス・スコットがフォートナイト内でバーチャルコンサート「Astronomical」を行った。こちらの同時接続数は1230万以上を記録、特に目を見張ったのは、その演出だった。
ライブは、ゲーム内に用意されていた遊園地風のコンサートステージを、空から降りてきた巨大な3DCGキャラクターのトラヴィス・スコットが踏み潰し破壊するところからスタート。その後も火の海や水中や宇宙空間を移動しながらパフォーマンスが繰り広げられる。
自分自身がアバターを操作し360度視界が開けているため「CGムービーを鑑賞している」というよりも「異空間のライブに参加している」という感覚を強く覚える体験だ。コンサートの概念を根底から覆すクリエイティブで、バーチャルライブの常識を刷新する画期的なイベントとなった。
その後5月にフォートナイトは「パーティーロイヤル」モードを実装した。
ゲームフィールド内にバーチャルスクリーンを設置し、プレイヤーは本来のゲームの目的であるバトルを行わず、アバターを操ってゲーム内の会場に集まりスクリーンに映し出されるライブコンテンツを楽しむというモードだ。
ディプロ率いるメジャー・レイザー、スティーヴ・アオキ、デッドマウスなど数々のDJやアーティストがこの「パーティーロイヤル」に参加してきた。
「美しい一瞬をみんなと」
米津玄師のバーチャルライブも、この「パーティーロイヤル」モードで開催された。
筆者もフォートナイトを実際に起動しゲーム内でイベントに参加したのだが、まず実感したのは予想以上のライブ感だった。
開演時刻になると、ステージ頭上のバーチャルスクリーンに米津が登場。
アルバム『STRAY SHEEP』のジャケットに描かれたキャラクターと同じような羊のマスクをかぶったリアルなCGキャラクターの姿で、アルバムに収録された新曲の「迷える羊」や「感電」に加え、「砂の惑星」「パプリカ」「Lemon」といった人気曲を約30分にわたって披露した。
© 2020, Epic Games, Inc.
周囲には別のゲームプレイヤーのアバターが集まり、跳びはねたり、エモートでダンスを踊ったりと、思い思いのやり方でライブを盛り上げる。
© 2020, Epic Games, Inc.
一方、CGキャラクターとなった米津も、「砂の惑星」では砂漠と都会を行き来し、「パプリカ」では豊かな緑や花に囲まれて歌うなど、バーチャルライブならではのパフォーマンスや演出を見せる。
曲中では「変わっていく時代の中でより新しく、それでいて美しい一瞬をみんなと過ごしていたい。そういう思いを抱きながら今ここに立っています」と米津自身が肉声で語りかけるMCもあった。
© 2020, Epic Games, Inc.
ゲーム空間全体をゼロから作り上げたトラヴィス・スコットの「Astronomical」と違い、「パーティーロイヤル」モードで開催された米津のライブは、あくまでバーチャルスクリーン上で繰り広げられたものだ。
それでも、そのライブには「アバターを操りみんなで集まって映像コンテンツを見ている」という以上の没入感があった。
© 2020, Epic Games, Inc.
米津自身もプレイヤーと同じくバーチャルなCGキャラクターとなり、スクリーン内の演出とゲーム空間の演出がリンクすることで、同じ空間に参加しているかのような不思議な一体感があった。おそらく実写のライブ映像だったら受け取る印象は全く違っていただろう。
コンテンツがバーチャルであることによってリアリティが増すという、不思議な体験だった。
© 2020, Epic Games, Inc.
TikTok内でのライブも
また、8月9日にはザ・ウィークエンドがバーチャルライブ「The Weeknd Experience」を開催した。こちらはTikTokが新たにローンチしたライブストリーミング機能「TikTok LIVE」を用い、TikTok内で行われたライブ。こちらもとても興味深い内容だった。
今年3月にリリースしたアルバム『アフター・アワーズ』が自身4作目の全米1位を記録しR&Bシンガーとして当代随一の人気を誇るザ・ウィークエンドが行ったのは、テクノロジー企業Waveとタッグを組みXR技術を駆使したパフォーマンスだった。
TikTok内の画面には3DCGのキャラクターとなったザ・ウィークエンドが登場し、ネオンや花火が打ち上がるファンタジックな空間の中で「Blinding Lights」などの人気曲や未発表の新曲を歌った。
印象に残ったのは、ライブチャットでの視聴者の投票によって演出が変わったり、コメントがバーチャル空間の中にリアルタイムで登場したりと、インタラクティブな演出が繰り広げられていたこと。
やはり生身のライブと違って目の前でCGキャラクターが歌っていると「作り物の世界を見ている」というだけの感覚になりやすく、「その場に参加している」という感覚をどうもたらしてライブ体験を作り出すかがポイントになっていた。
おそらく、今後こうしたバーチャルライブの試みはより増えていくだろう。フォートナイトのようなゲームプラットフォームだけでなく、バーチャル空間でエンターテインメントを共時体験するためのシステムもより洗練されていくはずだ。
ボカロから続く参加型
コロナ禍はいまだ終息の見通しは見えず、ライブエンターテインメント産業の危機的な状況は長期化することが見込まれている。
しかしその一方で、電子チケット制の有料配信ライブが定着するなど、エンターテインメントの新たな様式も急速に広まりつつある。もちろんオンラインライブやバーチャルライブが実際に身体で音楽を体感する従来のリアルなライブの場の代替になるわけではない。
しかし、この状況は、アーティストにとって、新たな挑戦のきっかけにもなるはずだ。
© 2020, Epic Games, Inc.
そして、米津玄師のそもそもの出自であるボーカロイドカルチャーは、00年代当初からいち早くバーチャル空間における参加型のエンターテインメントを生み出してきた文化でもある。
そういう意味でも、米津玄師のフォートナイト内でのライブは、世界的に注目を集めるメタバース内でのライブエンターテインメントの新たな可能性を開拓する大きなきっかけになる予感がする。