【長友佑都】成長の「余地」は、「発信」が作り出す

2020/7/9

ガラタサライとの別れ

6月30日、僕はガラタサライに別れを告げた。
2018年の1月、ロシアワールドカップを目指して7シーズンを過ごしたインテルを離れる決意をしてから2年半。
トルコでの日々は素晴らしいものだった。
最初はレンタル移籍だったし、大好きなインテルを移籍することは悲しかった。活躍が保証される世界でもない。ワクワクはしたけれど、不安がなかったかと言えば嘘になる。
けれどその思いは、一度チームに加入するとすっかり消え去った。
素晴らしいチームメイトとともに、リーグ2連覇、2度のカップ戦優勝。名門クラブの重みと、そのチームメイトたちが持つプロフェッショナルな姿。一方で、若いタレントが揃ったチームをベテランとして叱咤することもあった。
全てがいい思い出だ。
【長友佑都】「成功は約束されなくとも成長は約束されている」
今回、ガラタサライを離れる決断したのは、自分自身の成長のためだった。2019−2020シーズンのチャンピオンズリーグ(まだ優勝チームが決まっていない)で僕らは、パリSGとレアル・マドリーという世界的なビッグクラブと同じグループに入った。
ワクワクして臨んだ試合、いずれも完敗を喫した。
成長が必要であることを痛感した。自身にミスもあったし、力不足を感じたシーンもある。
とても重要な瞬間だ。
ミス、力不足。
それらは全て成長の余地があることを示している。トルコ国内では勝てても、世界のビッグクラブの基準から逆算すれば、今、必要なことがたくさんあった。
トレーニングを見直し、取り組む姿勢を再考し、やるべき目標も定め直した。その中で、重要な要素の一つが、クラブを変えることだった。
昨冬からその可能性を模索し、1月の移籍市場で実現はもう一歩のところまで来ていた。残念ながらその移籍は消滅してしまったが、そのときから成長のために必要なことに取り組み始めていた。

YOU TUBEを始めた理由

ガラタサライでは、シーズン後半から出場選手枠から外れた。
試合に出られないことで今後を疑問視する人もいたけれど、僕にとってはいいチャンスでしかなかった。
例えば、体は休息を欲していた。このシーズンは、リーグ戦、カップ戦そしてチャンピオンズリーグに出続け、日本代表のワールドカップ2次予選もあった。過密日程で走り続け、人生で初めて「交代したい」と申し出たこともあるくらい体を酷使ししていた。
過密日程には体の問題以上に深刻な問題もあった。
インプットが足りないのだ。チャンピオンズリーグで感じたように、「明らかな成長の余地」を感じているにもかかわらず、それに対する勉強やトレーニングの時間が取れない。
だからこの時間を有効使おう、そう思えた。世界最高の「エンジン」を手に入れるんだ、と。
そんな中で直撃したのが今回の新型コロナウイルスだった。ガラタサライでも僕が父親のように慕ったテリム監督が罹患するなど、20万人以上が感染し、5000人以上が亡くなった。
この中断期間中、自身の成長の「エンジン」を手に入れるだけでなく、何をすべきか。そこで考えたのが「発信」だった。
一つは感染拡大で大変な思いをしている人々に対し、できる限りの援助ができるようクラウドファンディングやチャリティ活動の発信。
そしてもう一つがYOUTUBEだ。

アウトプットはインプットがセット

「NewsPicksExclusive」でも話したけれど、タイムリーに自分の思っていること、考えている「熱量」を発信できることは、すごく有意義なことだと思っている。
そして、最も大きいことは「発信」することによって自分自身のインプットになることだ。
この辺りの詳しい話は、是非動画を見て欲しい。
自分の意見を発信して、それに対して賛否さまざまな反応をもらうことはとても勉強になる。もちろん、自分の意見を伝えたいだけということも否定はしない。ただ、僕にとっては人の考えを聞くことまでがセットでなければ意味がない。
結局、アウトプットとインプットは一つになっていて、そうでなければ成長のエンジンにはならない。Twitterは特に炎上を避けられるキライがあるけれど、人を傷つけたり悪意があるわけでない限り、自身の成長の糧にするための発信を恐れるべきではないと思う。
YOUTUBEにしても同じだ。
このプロジェクトを始めること自体は、今年の頭あたりからスタッフと検討を始めていた。それが加速したのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。
僕のYOUTUBEは大きく三つのテーマがあって、一つは「料理をする」もの(飯友)、もう一つがトレーニングをするもの、もう一つがサッカーについて語るものだ。
いずれも、このコロナ禍において大変な思いをしている人たちに微力ながら役立つのではないかと考えた。
料理については、全くできない僕が挑戦することで作る人の気持ちがわかるんじゃないか。
トレーニングは、自宅待機で緩みがちな生活に必要な運動を一緒に解消できれば。
サッカーは、こんな機会じゃないと深掘りできない選手のメンタリティやピッチ上での姿を披露してみたい。
やってみると「コロナ禍で大変な人たちに伝えたい」という思い以上に、自分が勉強になり、成長していることを実感した。
料理は想像以上に大変だった。それを日頃からこなしてくれている妻に対する感謝の思いや、子育ての大変さをより強く感じることができた。
対談は何より刺激的だ。たくさんの選手たちと話してきたけれど、例えば(本田)圭佑はいつも僕の固定概念を「ぶっ壊してくれる」。決して、彼がいつも正しいとは思わない。それでも、自分の感じていたことやものの考え方の外側から殻を破ってくれる感覚になる。
ヤットさん(遠藤保仁)の言葉は本当にすごかった。日本代表の出場記録や、Jリーグのベストイレブン、出場記録などさまざまな大記録を保持する、今なお現役の大先輩は「近くのパスなんて見なくても出せる」と言った。
一体どんな感覚なのか──、翌日の練習から試してみるとピッチの景色が変わった。
そもそもサッカー選手と真面目に対談をする機会はほとんどない。
発信することで、ここまで深いインプットを得ることができることに想像以上の収穫を感じている。
34歳になる年を迎えて、こうやって「成長の余地」を見つけ、それに対するインプットができることは、とても重要だ。
その一つの手段として「発信」=アウトプットはとても大事である。
アウトプットには常に、批判や挫折の可能性がある。誰だって怖い。ただし、それとともに「成長のエンジン」=インプットも一緒に存在していることを忘れてはいけない。
これからの僕のサッカー人生がどうなるか自分でも想像がつかない。
でも、もっと上手くなれる。もっと上を目指せる。
僕はそれを確信している。
(構成:黒田俊、デザイン:九喜洋介、松嶋こよみ、写真:GettyImages)