【シバタアキラ】「3年先は闇」の人生を生きていたい

2020/7/8
急成長を遂げる米ベンチャーDataRobotの日本担当チーフデータサイエンティストとして「AIの民主化」を推し進めるシバタアキラ氏。
そのミッションをつかむまでのキャリアは異色だ。高校を中退し、ミュージシャンに憧れた10代を経て、ロンドン大学とニューヨーク大学で素粒子の先端研究に従事。ボストン コンサルティング グループに転じた後に起業。「絶望の時」を経て天職に出会った。
高速で成長を続けるシバタ氏の思考と哲学を追う。(全7回)

研究員として刺激的な毎日

ニューヨークでは、欧州合同原子核研究所(CERN)にも属しながら、「神の素粒子」と呼ばれるヒッグスボゾンを発見するための統計モデリングツール「RooStats」を開発しました。
ヒッグスボゾンの理論を提唱したピーター・ヒッグス博士は、すでに80代を迎えていたため、「早く発見しなければ」という焦りがありました。ノーベル賞は生きている人が対象だからです。
晴れてヒッグスボゾンの存在が証明され、2013年にヒッグス博士がノーベル物理学賞を受賞したニュースを聞いたときは、私はすでに実験チームを離脱していましたが、大変うれしく思いました。
シバタアキラ/DataRobot チーフデータサイエンティスト、物理学博士
高校中退。ピザ屋でフリーターをした後、パンクロックに憧れて渡英。ロンドン大学でプログラミングに目覚め、高エネルギー物理学博士課程修了。ニューヨーク大学でのポストドクター研究員時代に加速器データの統計モデル構築を手掛け、「神の素粒子」といわれるヒッグスボゾン発見に貢献。その後、ボストン コンサルティング グループで戦略コンサルティングに従事。AIニュースキュレーションアプリ「カメリオ」を提供する白ヤギコーポレーションの創業者兼CEO(最高経営責任者)を経て、2015年にDataRobot Japanの立ち上げに加わる。
LHC加速器で観測される大量のデータを統計解析しながら、いくつものデータ処理プロジェクトに参加する日々は刺激的でした。
ちなみにこのLHC加速器というのは、CERNによって建設されて2009年に運転を始めた世界最大の物理測定のための加速器で、その円周は27kmと山手線一周分に相当します。
スイスとフランスの国境をまたいで地下に張り巡らされた巨大な研究装置を使っての最先端の研究に携われたことは、とても光栄でした。

過去の延長は耐えられない

これらの実績はポスドクの研究員として積んだものでしたが、評価をいただくにつれて、だんだんと「助教授にならないか」という話も出てくるようになって、少し窮屈に感じ始めました。
研究者としての出世を喜ぶべきなのかもしれませんが、私は「先が見える」と途端にモチベーションが下がってしまうタイプです。