ビジネススクールが「コロナ後」に向けた経済再建で果たす役割

2020/7/5
ビジネス界のリーダーたちは、新型コロナウイルスとの闘いの最前線に立ち、事業再開が認められるまでの間、ビジネスを存続させるベく奮闘している。彼らの多くは「コロナ後」、つまり感染拡大のリスクなしに顧客にサービスが提供できるようになった時の計画を立てる時間も余力もない状態だ。
明日のビジネスモデルを構築することよりも、今日生き残ることを優先しなければならないのだ。
不確実な状況にあって、ビジネススクールは障害を克服し、コロナ後の需要に応じるための企業の進化を支援するまたとない機会を得ている。特に、中長期的な深刻な混乱に見舞われている以下の3つの産業に重点を置くべきだ。

①観光業界

観光業界は深刻な損失が続いており、収束の兆しは見えていない。国連の世界観光機関(UNWTO)は、2020年は世界の国際観光客数が20〜30%減少すると予測している。
この状況をサポートすべく、たとえばコーネル大学ホテル経営大学院は、ホスピタリティ・マネジメントの学位を提供するだけでなく、現在の危機の最中にホテルの責任者らがベストプラクティスを導入するためのオンラインセミナーや調査記事、その他のリソースを開発している。
観光産業が再び力を取り戻す後押しとなるには、ビジネススクールは企業を教育し、学生が産業再建に立ち向かえるよう、リソースを活用し続けなければならない。

②輸送業界

大量輸送産業もビジネススクールの助けを必要としている。
旅好きの人ですら自宅にとどまっている今、多くの輸送会社が破綻寸前だ。エアカナダ、ブリティッシュ・エアウェイズ、ルフトハンザは大規模なレイオフを実施し、米国の複数の主要航空会社もそれに追随する。
幸いなことに、高等教育機関は豊富な研究能力を持つ。最近では、一流のビジネススクールはどこもビッグデータやビジネス分析の分野の豊富な専門知識を持つ研究者を採用している。
重要な政策決定に正確なデータが必要とされる、急速に変化している状況においては、彼らの専門知識が大きな目的に貢献する。ニューヨーク大学の交通研究機関「C2Smart」の研究チームは、移動のパターンと動向をリアルタイムで更新するインタラクティブなダッシュボードを開発した。
ビジネススクールの研究者はこうした取り組みに追随し、圧力が増している自動車、航空、航空宇宙の各業界のリーダーのための長期的な解決策を示すべきだ。

③小売業界

観光や大量輸送産業と同じように、小売業界も苦戦を強いられている。
業界団体「小売業界リーダー協会」は、サプライチェーンと小売業者、特に店舗の閉鎖や入店者数の制限を余儀なくされている実店舗のみの小売業者が継続的な打撃を受けていると強調している。
一部の州では規制が撤廃され、営業再開に向けて準備を進める小売業者も見られるが、大半の業者は再開に向けた慎重かつ段階的な措置を取るだろう。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は最近、州内の小売業の営業再開を認める方針を発表したが、カーブサイド・ピックアップ(注文した商品を実店舗の駐車場などで受け取るサービス)に限るとした。楽観的なシナリオでも、ビジネスが完全に通常に戻るには数か月かかるだろう。
経済が再び回り始めれば、ビジネススクールにとっては軋轢を減らす絶好の時だ。
マギル大学のベンサドン・スクール・オブ・リテール・マネジメントは、カスタマー・エクスペリエンス、持続可能なサプライチェーン、健康などの分野に関する最先端のデータを提供する革新的なラボを開設予定だ。
ラボと関連して、小売業の効果的かつ迅速な回復を支援するための実践的なアイデアを競う、学生のコンテストも行われることになっている。

研究からビジネスの現場に貢献する力

ソリューションの研究から苦境にある業界のビジネスリーダーの育成に至るまで、ビジネススクールのサポートを過小評価すべきではない。ビジネススクールは世界中の大学で、多様な視点から情報に基づいたソリューションを生み出すイノベーションラボとして機能しているのだから。
ビジネススクールの研究者らはアカデミックの世界にこもることなく、地元企業と協力し、彼らのビジネスモデルについての知見を提供している。
学生らは、専門的なスキルを身につけて実社会に出る。インキュベーターらは、オンラインデリバリーの促進からサプライチェーンの再構築まで、他のビジネスがパンデミックに適応する支援を行う起業家を生み出している。
遡れば、現代のビジネススクールの概念は、パリ高等商業学校が設立された1819年に生まれた。同校の創立者で、「アントレプレナー(起業家)」という言葉を作ったジャン・バプティスト・セイは、第1期の学生らに対し、より効率的で豊かな社会に向けて努力するよう鼓舞したのだ。
今こそ、ビジネススクールが困難に立ち向かい、ビジネス界が「コロナ後」を築く助けとなる時だ。
(執筆:Isabelle Bajeux-Besnainou、 翻訳:中丸碧、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.