【ゲイツ財団幹部】コロナ後、世界が一つになる方法
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敵という概念があってこそ国家という秩序を構成することができる、と論じたのは、ドイツの法学者カール・シュミットです。『政治的なものの概念』の中で、敵とはすなわち他者、異質な者であり、敵の概念があるからこそ国家の秩序は成立しうるのだと1932年に説いたシュミットはナチスに高く評価され、用いられました。
シュミットの説自体は、数ある法哲学の説の中の1つに過ぎず、全面的に賛同する学者は少数でしょう。しかし、人種や宗教、イデオロギーを基準にした他者に対する殲滅戦争こそ20世紀の国家が進んでいく方向であるというシュミットの主張は、その後の第二次世界大戦、冷戦、ベトナム戦争などにかなり当てはまるものでした。
今後、敵という概念が、人間以外のものに向くことで、全ての人間がまとまるということはあるでしょうか?シュミットのいう敵とは他者で、異質な者ですが、それは人間であり、自分たちと見たところは同じなのに絶対に相容れないような考えを頭の中に持っている、からこその他者でした。具体的には、ユダヤ人や共産主義者でした。ウィルスとか気候変動は、そういう意味での他者や敵にはなりえないように思えます。人間は、人間相手でなければ、国家単位で団結して、命を捨ててまで戦うことはできないようです。グローバリズムという考えの弱点は、そこにあるでしょう。
シュミットは、戦後、国家の秩序は民族という範囲を超えて、歴史的な法秩序を共有する領域でまとまっていく、という構想を持ちました。それは、ヨーロッパの統一のことであり、東アジアや中東においてもやはり民族を超えた範囲の領域でまとまるようになっていく、ということでしょう。
旧来の国家とか単一民族という範囲ではあまりにも対応が追いつかない、という問題はどんどん大きくなっていくでしょう。それに対応するための秩序が求められるでしょう。しかし、それはグローバルな共同体、たとえばゲイツ財団のようなものが世界にいくつかあって、国連やダヴォス会議で会合して対応を決める、といったことにはならないでしょう。宗教や企業、巨大化する非合法シンジケートなども台頭して、いくつかの秩序に分かれた世界に割拠していく、という方がありそうです。ジュネーブで国際保健外交に携わり実感したことの一つは、ゲイツ財団のような“グローバル”な視点+活動を行うプレーヤーたちの存在感と、そして、この分野の問題解決に必要な視座についてです。
ビル・ゲイツ氏とメリンダ夫人は、途上国に自ら足を運んで人々と接し、国際保健の様々な課題解決に尽力することに、人生を集中させているように感じました。
WHOの任意拠出金(2018-19)は、米国15.2%、ゲイツ財団12.1%、GAVI 8.2%、英国8.0%、ドイツ5.3%、国連人道問題調整事務所4.5%、国際ロータリー3.3%、欧州委員会3.1%、世界銀行3%、日本2.6%という順番です。
「途上国の子どもへのワクチン投与」を例にとっても「①資金、②開発・製造の技術、③適切なデータの収集と公正な分配、④実際に現地でコールドチェーンを構築し、人材を活用して、一人ひとりに確実にワクチンを投与する」ところまでを、連続して確実に行う必要があり、そして、重複を避けるためにも、バラバラではなく、関係機関や団体がまとまる必要があります。
そして、グローバスヘルス、特に途上国支援を、単なるチャリティーや人道支援の枠組みで捉え、富める/強き者(国)が貧しき/弱き者を助ける、という上からの施しのような感覚は、もはや時代遅れで、現代国際保健のリアルな姿を的確に捉えていません。この点、日本の省庁や政治においても、理解が進んでおらず、非常に残念に思いました。
今回の新型コロナや気候変動もそうですが、己や自国を守りたければ、他者や他国を守る必要があります。そしてきれいごとではなく、この地球上の人々の間に厳然と存する生存環境の「差」を、極めて不合理なことと考え、可能な限り是正しようと試みる(『すべての命には同じ価値がある』)ことです。
こうしたことに関する考え方は、もちろん人それぞれ、色々あり、違ってよいと思います。しかし、同意しなくとも、ウイルスの伝播や、大気汚染、資源の枯渇等は、地球規模で考えないと、何ら問題は解決しません。
グローバリズム - 国際保健において、その本質は「世界で今何が起こっているか、その中で自分や自国はどのような状態にあるかを的確に認識し、その課題を解決するために、自分や自国には何ができるかを把握し実行する(ことに、少なくとも協力する思いを持つ)」ことではないかと思います。ビル&メリンダ・ゲイツ財団の若きリーダーによるデビュー著書『フューチャー・ネーション』、本日発売です。著者ダムルジ氏のインタビューを早速お届けします。
本書、「地球規模のひとつの国家」を築き、人類共通の課題に立ち向かおう、という、壮大で異常に引き出しの多いマニフェストです。
本インタビューでも語られているとおり、カギは「動物としてのヒトの本能」をいかにうまく活用するか。これは昨年12月にNewsPicksパブリッシングでプロデュースした、スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』のテーマでもあります。そして弊社で近く刊行予定のニコラス・クリスタキス(米コロナ対策のキーパーソンでもある、イエール大の医学者)の新著『BLUEPRINT(原題)』のテーマでもあります。
ご一読いただけましたらうれしく思います。
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