【新】日本のディーン&デルーカが「本国より成功」した理由

2020/6/19
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、ニューヨーク発のグローサリーストア「DEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)」を日本で独自に発展させ、本国以上の成功へと導いた、ウェルカムグループ代表の横川正紀氏だ。
コロナ禍真っただ中の、今年4月。アメリカのディーン&デルーカが破産申請したというニュースが日本にも駆け巡った。同社がいよいよ経営不振に陥っているという噂は、昨年の秋ごろからささやかれていた。
一方で、日本の消費者にはこのニュースがピンとこなかった人も多いのではないだろうか。というのも、全国に50店舗以上を構える日本のディーン&デルーカは変わらず繁盛しており、「DEAN & DELUCA」のロゴがプリントされたトートバッグも、街中で衰えぬ人気ぶりを見せていたからだ。
実は日本のディーン&デルーカについては、2016年以降、ウェルカムが日本国内におけるライセンスの永久使用権を取得し、完全に独立した事業として運営を行っている。さらに、アメリカにはない独自の事業も多数展開し、逆に本国から指導を請われるほどの成長を遂げていたのである。
ニューヨーク発のグローサリーストアが、文化も食の好みも異なる日本で、どのように根付いていったのか? また、グローバルからローカルへと、ブランドとしてどのように「逆の進化」を遂げたのか?
このたび、自身のユニークな経営哲学をまとめた初の著書『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)を上梓した横川氏。本連載ではそのエッセンスをひもときながら、ディーン&デルーカの「日本躍進」秘話を3回に分けて紹介していく。
横川正紀(よこかわ・まさき)
1972年、東京都生まれ。京都精華大学美術学部建築学科卒業後、2000年に株式会社ジョージズファニチュア(2010年に株式会社ウェルカムへ社名変更)を設立、DEAN & DELUCAやCIBONEなど食とデザインの2つの軸で良質なライフスタイルを提案するブランドを多数展開。その経験を生かし、商業施設やホテルのプロデュース、官民を超えた街づくりや地域活性のコミュニティーづくりへと活動の幅を広げている。武蔵野美術大学非常勤講師。自身のユニークな経営哲学をまとめた初の著書『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)が話題。

アメリカの店舗に感じた「違和感」

──アメリカのディーン&デルーカは残念な結果になりました。2016年以降、日本とは完全に別事業としての展開だったということですが、方針にもかなり乖離があったのでしょうか?
横川 それは、ものすごくありました。日本のディーン&デルーカとも、創業時のディーン&デルーカとも、もはや「別物」という感じでしたね。
効率重視、コスト重視に陥っていた……ということもありますが、何よりも、店づくりが「表層的」になっているなという印象を受けました。
例えば、パッケージばかりがきれいな商品がたくさん並んでいたり、「それほどおいしくないけど流行ってるよね」みたいな商品が多かったり。時代を反映した結果ではあるのですが、ダイエット食品やエナジーバーなどにも力を入れているようでした。
世界的に「食」が「健康」や「美容」にシフトしていく中、日本のディーン&デルーカでも、当然その流れは意識しています。ただ、僕らがディーン&デルーカとしてやるべきことは、土に近い場所でつくられた良質な食材を口にすることで、自然と健やかになる……といった、「本質的な」健康や美容を語ることだと思うのです。
オリジナルのエナジーバーが置いてあっても悪いわけではありませんが、それはディーン&デルーカでなくてもいいのでは?という思いが、正直なところありました。「クラシックカーを見に来たのに、ハイブリッドカーを勧められた」ぐらいの違和感ですよね。
彼らも一生懸命チャレンジはしているのですが、昔からのお客さまにはあまり刺さらない。一方で、新しいお客さまにディーン&デルーカが定着するかというと、そこまで徹底してやりきれてもいない。やることなすこと、お金がかかるわりには反響が悪い……。
そんな負のサイクルで、アメリカのディーン&デルーカは少しずつブレていったのではないかと思います。

日本立ち上げ当初の「大失敗」