【上田岳弘】「兼業」は周囲に「公言」したほうがうまくいく

2020/7/2
芥川賞作家の上田岳弘氏は、実は経営者でもある。大学卒業後、法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参加し、その後役員となった。言うまでもなく、作家も経営者も片手間にできる仕事ではない。
作家として食べていけるようになったいまでも、上田氏が会社経営から退かない理由は何か。そもそも、なぜ兼業が可能なのか。その生き方と仕事術を聞いた。
SF的と評されることの多い作風だが、コロナ後の世界をどう予測しているのか、作家の発想と世界観にも迫る。(全7回)

出勤前の「1500字ルール」

作家を目指していたころ、僕は自分に「1500字ルール」というものを課していました。
出勤する前の朝しか小説を書く時間がなかったので、毎朝5時半から7時半まで小説を書く。そのとき、とにかく必ず1500字書くことを決めていたのです。当時は30代前半と若かったし、テンションが高かったので、なんとかなりました。
田岳弘(うえだ・たかひろ)/芥川賞・三島賞作家、ITベンチャー企業役員
1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2005年に設立されたソリューションメーカーの役員を務める傍ら小説を執筆する。2019年、仮想通貨をメインモチーフにした小説「ニムロッド」で第160回芥川賞を受賞。最新刊は『キュー』。他に、2013年「太陽」で新潮新人賞受賞、2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞受賞、2016年「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。2018年『塔と重力』で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2019年から一般社団法人日本AI協会理事。
これからは副業をする人も増えるかもしれないし、仕事と並行していろいろな活動をしたいという人も多くなると思います。
もしそういう人にアドバイスするとすれば、できれば自分の統合された丸ごとの人格と付き合ってくれる人を増やしていくのが一番いいと思います。
第3回で述べたように、僕は作家デビューする前から、「作家になるつもりで、ある意味ではすでに作家です」と周囲に公言していました。
そのほうが働きやすかったからです。