【イケア】創造性を高める、オフィス空間の作り方とは?

2020/3/13
 スウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー、イケア。手頃な価格でデザイン性の高いアイテムが手に入るとして親しまれているが、法人・ビジネスオーナー向けの「IKEA for Business」というサービスをご存じだろうか。
 同サービスは、オフィスや自宅オフィス、個人事業の店舗などに特化して、働く空間のインテリアを提案するもの。2月20日には、インスピレーションあふれるルームセットを体験しながらインテリアの相談ができるプランニングスペースを、東京・渋谷にオープンした。
渋谷にオープンした、IKEA for Businessのプランニングスペースの外観。渋谷駅から徒歩3分の好立地だ。
 なぜイケアは今、法人ビジネスに注目しているのか。オフィス空間は、私たちの働き方やクリエイティビティにどのように影響するのだろうか。オープンしたばかりのプランニングスペースを紹介しながら、読み解いていく。

生産性の秘訣は「休み方」

 イケアの本拠地であるスウェーデンは、ワーク・ライフ・バランス先進国として知られる。
 OECDの統計によると、1週間に50時間以上働く従業員の割合は、日本が21.8%であるのに対し、スウェーデンは1.1%(2016年)。国民一人当たりのGDPも、2003年以降スウェーデンが日本を上回り続けている(資料:GLOBAL NOTE、出典:IMF)。
 なぜスウェーデンでは生産性の高い働き方が実現できているのだろうか。スウェーデン出身で、イケア・ジャパン代表取締役社長兼Chief Sustainability Officerのヘレン・フォン・ライス氏は、その秘訣は意外にも「休み方」にあると話す。
長時間机に向かっているだけでは、生産性は上がらないし、クリエイティブな発想も生まれない。これが私たちの根底にある考え方です。
 わかりやすい例が、スウェーデンに根付くフィーカ(Fika)という習慣です。これはいわゆる、コーヒーブレイクのこと。毎日10時と15時には、オフィスの休憩スペースに同僚が集まって、お茶を飲みながら楽しくコミュニケーションをとるのです。
 この休憩時間があるからこそ、逆にそれ以外の時間は集中して効率よく働けます。さらにここで生まれた会話が、新しいアイディアを生むきっかけにもなるのです」
「休む」ことの重要性を認識しているからこそ、オフィスには休憩するためのソファや、気軽に集まって仕事の相談ができるスペースが用意されていることが多いという。
渋谷のプランニングスペースには、くつろぎながら仲間と仕事ができる空間の提案も展示されている。
「スウェーデン政府は、多くの国や人、そして地球をより快適な場所にすべく取り組んでいます。それを実現させるためのイノベーションは、柔軟な思考を持って働ける、画期的なワークスペースから生まれると考えています」
 とは、IKEA for Businessのオープニングセレモニーに参加した、スウェーデン大使のペールエリック・ヘーグベリ氏の言葉だ。
スウェーデン大使のペールエリック・ヘーグベリ氏
 日本でも働き方改革が行われ、さまざまな施策が議論されているが、どのような働き方を目指すのかは、オフィス空間の作り方にも表れると言えそうだ。

「家具の販売」以上の価値提供

 では、そもそもなぜイケアが法人向けのサービスを始めたのか。IKEA for Businessのストアマネジャー菊池武嗣氏は、次のように語る。
「私たちは、寝ている時間を除けば1日の半分、もしくはそれ以上の時間をオフィスで過ごしています。それにもかかわらず、オフィス空間のデザインは、家に比べて重視されてきませんでした。
 イケアのビジョンは、より快適な毎日を、より多くの人々に提供すること。それを実現するためには、家だけでなく、心地良いオフィス空間創りのお手伝いも不可欠です。そこから、法人向けサービス『IKEA for Business』がスタートしました」
 IKEA for Businessとは、小規模のオフィスや会議室、レストランや美容室、民泊といった店舗の、インテリアをデザインするサービス。予算やスペース、要望に応じて、イケアの幅広い商品から最適な商品を提案し、空間を最適化するソリューションを提供する。
 さらに「家具を販売するだけの会社にとどまらない」という思いから、IKEA for Businessを会員制(入会金・年会費無料)にし、サステナブルな働き方や暮らし方などをテーマにしたセミナーやワークショップも企画している。
「サステナビリティ」は、イケアが大事にするコンセプトの一つだ。リサイクルされたペットボトルを使ってカーテンやマットを作るなど、持続可能な社会を目指した商品開発を進めている。
「商品開発におけるサステナビリティだけでなく、暮らしそのものを持続可能にする必要があると、私たちは考えています。だからこそ渋谷のプランニングスペースでは会員同士のコミュニティを作り、サステナブルな生き方、働き方について、一緒に考えられる場所にしたい」と菊池氏。会員は、15万を超えるまでに成長している。
渋谷のプランニングスペースに展示された、会議室のルームセット。空間を体験してイメージを膨らませながら、プランニングできる。
 そしてIKEA for Businessスタートから11年目となる今年、イケア初のオフィス空間に特化した専門店を渋谷に立ち上げることになったのだ。なぜか。
「郊外店舗での顧客調査の結果、法人利用目的の購入の割合が高いことがわかったんです。しかも、小規模オフィスや自宅オフィス、個人事業の店舗など、オフィスデザインにあてられる予算が限られた層が目立った。
 ビジネスチャンスを感じたことはもちろんですが、幅広い価格帯の商品があるイケアなら、その強みを生かして、低予算でもモダンでクリエイティビティあふれるビジネス空間を提案できると考えたのです。
 さらに郊外ではなく、スタートアップ企業やさまざまな業態の店舗が集まる渋谷に専門店を作ることで、お客様が気軽に立ち寄り、ご相談いただけるようにしたい。その思いから、このスタジオのオープンを決めました」
自宅の雰囲気や好みに合わせたホームオフィスのインテリアの提案も行う。
 渋谷のスタジオには、インテリアプランニングの専任スタッフが常駐する。「ダイバーシティ」を大切にするイケアらしく、従業員の6割が女性だ。年齢も20代〜50代と幅広いからこそ、顧客のライフステージごとのニーズに合わせたプランニングにも、親身になって相談に乗ってくれる。

オフィス空間が、働き方を変える

 実際にプランニングを依頼する際は、オフィスや店舗の図面、現況写真を用意した上で、IKEA for Businessのウェブサイトから予約。業態や社員数、好みのテイストなどを伝え、渋谷のスタジオに来店する。
 そこで専任スタッフから対面でレイアウトやインテリアの提案を受けながら、デザインを決める流れだ。部屋の測量や家具の設置まで任せられるメニューもある。
 プランニング提案は、一部屋あたり9,900円。1店舗でイケア商品を20万円以上購入した場合は、9,900円分のIKEAギフトカードでプランニング代金が還元されるという、小規模オフィスに優しい仕組みだ。
 さらに、会員になることで来店なしのメール注文サービスを活用できたり、組み立てサービスを特別価格で依頼できたりと、さまざまな特典を受けられる。
オフィスだけではなく、美容院やレストランといった店舗のインテリアも、IKEA for Businessなら手頃な価格で揃えられる。
「IKEA for Businessが実現させたいのは、“Happy at Work”という考え方を普及させること。そのために、手頃な価格で快適なオフィス空間を創れるよう貢献していきたいと考えています」(ライス氏)
 “Happy at Work”の思想は、イケアの商品にも宿っている。たとえば、ボタン一つで簡単に高さを調整できる昇降デスク。座ったり立ったりと姿勢を変えながら働けるため、健康的な働き方を実現できる。さらに気軽なミーティングや、談笑の場としても使える。
「渋谷のプランニングスペースでは、休憩用のソファやテーブルも展示しています。そういった休憩スペースを用意するだけで、そこに自然と人が集まり、会話が始まり、良いアイディアも生まれてくる。
 働き方改革にはさまざまな手法がありますが、まずはオフィスのインテリアから変えてみる手もあるのではないでしょうか。インテリアが人の行動を変え、さらに組織や文化を変える、ということも十分あり得ると思うのです」(菊池氏)
(取材:編集:金井明日香、構成:田村朋美、写真:後藤渉、デザイン:岩城ユリエ)