【中村敬斗】「ブレイクのときを待ち続ける」海外での挑戦

2020/2/23
松井大輔、香川真司をはじめとする先人たちが熱く語るのは、『逆境』の大切さ。そしてまさに今、逆境に力強く立ち向かっている19歳がいる。オランダに移籍した昨夏から約半年。刺激を受ける日々で感じたことや、東京五輪への本音を聞いていく。
中村敬斗(なかむら・けいと) 2000年生まれ、千葉県出身。180cm・75kg。ポジションはFW。オランダ1部リーグ・FCトゥエンテ所属。高2の三菱養和SC在籍時にガンバ大阪とプロ契約を締結し、翌年のJリーグ開幕戦でいきなり起用され大きな話題を呼んだ。積極果敢なドリブルと、正確かつ強烈に枠を射止めるシュートが持ち味で、2017年のU-17ワールドカップでは、ホンジュラス代表戦でハットトリックを達成するなど大会通算4ゴールをマークした。昨年7月に2年間の期限付き移籍でオランダへと渡り、これまで公式戦で6ゴール1アシストを記録している。

強くなったシュートへの意識

──オランダにやって来て、およそ半年が経ちました。ここまでの歩みはどうでしょうか。
 順調に成長のプロセスを踏んでいると思います。
 オランダのサッカーがどういうスタイルなのか、何も知らない状態でこっちに来て、エールディビジの開幕戦を迎えました。サッカーの感覚はJリーグのままで来ていましたけど、PSVとの開幕戦で点も取って、内容もまずまずのプレーをできたと思います。
 そこから徐々に……っていうときに、試合に出たり出なかったりして、去年の12月1日のアヤックス戦、また大舞台でゴールを決めることきました。そしてまたこれから……という今、ほとんど試合に出ることができていないですけど、悲観はしていないです。
 めちゃめちゃいい感じでもないですけど、僕自身成長は感じているし、していないといけない。トレーニングへの取り組み方が変わってきて、良くはなっていると思います。
──ガンバ大阪での最終戦を7月20日にやり、その翌日にはオランダに来ました。そして8月3日にはPSVとのエールディビジ開幕戦。日本とオランダのサッカーの違いを考える暇もなかったということですか?
 7月20日の名古屋戦を終えて8月3日のPSV戦まで、2週間ぐらい。その頃は、オランダと日本のサッカーの違いは全く考えていないし、そういうことは試合をしてみないと分からないですよね。
 だからもう本当にガンガン行く、ただそれだけでした。逆にそのアグレッシブさが今、自分から失われつつあるのかもしれない。
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 違う国から来たプレイヤーは、ちょっとサッカーのスタイルが違いますよね。日本から来た僕がそうだった。
 でも試合をこなしていくにつれて、オランダのサッカーをだんだん知って、チームの戦術もだんだん分かってくる。そしてトゥエンテの一員となってプレーしていくうちに、何も分からなかった最初の頃に好きにやっていた勢いが無くなりつつあるのかな…とも感じています。
 オランダのサッカーを知っていくことが成長なのか、かえって削がれてしまった部分があるのか、それは分からないです。でも、絶対にいい方向に進んでいると思います。
──「めちゃめちゃいいっていう感じでもない」と100パーセント満足できないのは、試合に出ることができてないところがあるからですか?
 もちろん試合に出ないと自分の存在をアピールできないので、難しいところではあります。今、なぜ試合に出ることができないか、理由を直接監督に聞いて、いくつか課題を言われました。自分でも思い当たる課題に、全力で取り組んでやるしかない。
 最初の頃は試合に出ていたから、僕自身目をつぶって、なあなあでやり過ごしていた部分があったんですけど、試合に出られなくなったことで、やっぱりここで本気で変えなくてはいけないと思いました。それを今、自主トレで取り組んでいます。そこはまた成長に繋がってくると思います。
──具体的に課題とは?
 ざっくり言ってしまうと、フィジカル的な部分です。そこが一番大きい。フィジカルの部分で、例えばボールを失ってはいけない場面で失ってしまうところがあります。
 監督からもその部分は言われていて、今、徹底的に鍛えていますね。ただ、ウェイトをやって体を大きくすることはしたくないです。それをしてしまうと、自分が自分ではなくなってしまう。僕の持ち味はスピードに乗ったドリブル。そのスタイルが変わってしまうと思います。
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──逆に成長を感じるところはありますか?
 今トレーニングを積んでいるフィジカル的な部分は成長していると思いますし、守備の部分でも、ボールを取りに行く意識はさらに高くなっています。何よりシュートの意識は、こっちに来てさらに強くなりました。
 ガンバでプレーしていた頃は、まずはドリブルして、何かをしようとすることが多かった。でも、こっちでは最初に考えることはシュートで、その次にドリブル、という形が多い。
 ボールを貰うシチュエーションにもよりますけど、アヤックス戦のゴールはその意識が出た場面。抜かないでシュートを決める。第一の選択肢はシュート。それは自分の武器でもあります。そういう部分での成長はあると思います。
──そのアヤックス戦でのゴールも含め、ここまで公式戦で6ゴール1アシストの数字を残しています。この結果に対する手応えはありますか?
 そうですね。前半戦だけの数字で6ゴール1アシスト。数字だけ見たらすごく良いことだと思います。
 今はトップチームで出る機会が少ないので、まだ19歳ということもあって積極的に志願して、セカンドチームの試合に出場しています。先週の試合は3-1で勝ちましたが、1人で3点取りました。セカンドの試合であってもハットトリックしたことはオランダではニュースになっていますし、そういう数字はアピールになると思います。
 2試合連続でゴールを入れていて、2試合で4得点。どんな状況でも、120パーセントでやっていれば、必ず上にいけると信じています。

具体的な「ビジョン」は何歳から?

──トゥエンテにはガンバ大阪から2年間の期限付き移籍です。1年目は課題を克服するための土台と捉えることはできますか?
 やはり日本のサッカーとオランダのサッカーは違うので、日本で積み上げてきたものを全て発揮できるかといったら、そうではないと思います。オランダでまた一から作り直す部分も出てきているので、そこを今徹底してやっています。
 2年間あるから、また来年もあるから、じゃあ今年は下積みにして2年目を飛躍の年にしようとか、そういう考え方は一切ないですね。今をもがいて、トップチームで試合に出て、意地でも結果を出す。そのための課題克服だと思っています。
 来年のことは考えていないですね。とにかく今季、どれだけ活躍できるか。どれだけ進化して、またトップチームのスタメンに戻ってくることができるか。次にスタメンになった時に、以前と変わっていなかったら意味がない。進化したところを見せるために、目の前のことに120パーセントで取り組みたいと思います。
──「どんな状況でも120パーセントで取り組む」、日本にいた頃からそういった考えは持っていたのですか?
 はい。もちろん半年後、1年後に対する明確なビジョンは常に持っていますが、ではその目標に向かって、今何をすべきかを考えて行動しています。
──「ビジョン」というところで、10代の頃には「18歳の時にJリーグで活躍し、20歳になるまでに海外でプレーする」という目標を持っていたと聞きました。
 そうですね。半年後、1年後というのは目先のこと、と考えるようになったのは、今に始まったことではなくて、16歳、17歳くらい……明確な歳は覚えていないですけど(笑)。
 プロに入る前ぐらいから考えていました。そういう考え方を持つと、絶対こうなりたいとか、そうなっていなきゃいけないとか、自分で立てた目標は意地でもクリアしていく。仮にクリアできなかったとしても、その目標の近くにはいけるから、必然的にレベルアップはしている。
 なあなあでときの流れに身を任せて進むのは、あまり好きじゃないです。考え方は人それぞれだと思いますけど、僕は好きではないです。
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──そういう考えを持つに至ったきっかけは何でしょうか?
 やっぱり“00ジャパン”。森山佳郎監督に出会ったことは大きいと思います。あのU-17日本代表の時に、早くから世界の相手とたくさん対戦してきたことは、自分自身刺激になっていました。
 森山監督は常日頃、もちろん僕だけじゃなく代表で選ばれているみんなに、『世界には早くからプロで活躍している選手もいる。もっと早くもっと上にいく向上心を持つべきだ』ということを言われていました。
──そのU-17W杯で対戦したイングランド代表のジェイドン・サンチョは、今ドイツの強豪ボルシア・ドルトムントで活躍しています。刺激を受けるところはありますか?
 ちょっと別世界ですよね。サンチョ、ハドソン・オドイ、フィル・フォーデン…ちょっと別次元の世界にいますね。
 いつか追いついて追い越したい気持ちはありますけど、彼らはU-17W杯で対戦した時から凄かった。サンチョたちのことをそこまで敏感に意識しているわけではないですね。

五輪は『サプライズ』でも構わない

──世界大会のお話が出たところで、東京オリンピックについて伺いたいと思います。中村選手はまだU-23日本代表には招集されていませんが、例えば昨年ポーランドで開催されたU-20W杯を戦った日本代表には、「ラストピース」を狙って、実際に本大会のメンバーに滑り込みました。同じようにオリンピックも意識していますか?
 それまでU-20日本代表には招集されていなかったのに、ガンバで結果を出して入り込みました。結果的にU-20W杯の本番でも、毎試合途中出場で影山雅永監督に起用してもらえました。代表には実力があれば入れると思うし、なければ入れない。それだけだと思います。
 今のところU-23日本代表には選ばれていないのは事実ですが、U-20W杯の時のようなこともあるので、全く諦める必要はないと思いますね。もちろん東京オリンピックの日本代表を全力で狙っています。
──去年の11月の親善試合コロンビア戦や、1月のU-23選手権で五輪代表は結果を出せていませんが、停滞感を打破する勢いを持ち込むイメージはありますか?
 チャンスはあると思います。
 U-23選手権では食野亮太郎選手以外の海外組の招集はありませんでしたが、あのメンバープラス、他にも候補のメンバーがたくさんいる。もちろん競争はあるし、U-23選手権で勝てなかったメンバーは、必ずもっと気持ちを入れてアピールしてくる。そうすると、もっともっと競争が厳しくなる。
 とにかく自分はまずトゥエンテで試合に出て、出場した時に進化した姿を見せる。1試合でも2試合でも、結果を出せばそれまでの評価はガラリと変わると思います。
 オリンピック代表のメンバー発表ギリギリまでアピールは続くと思います。最後まで誰が入るかはわからない。僕は別に『サプライズ』で入ったって言われてもいい。なんとしても入りたいですね。
──これまでPSVやアヤックスといった強豪相手にゴールを決めていますが、自分はオリンピックのような大舞台に強いタイプだと思いますか?
 そうですね、確かに点を取っている相手を見たら、強豪相手に点を取れているのは事実ですけど、それよりも、もっとコンスタントに試合に出て点を取りたい、結果を残したいですね。
 もちろんオリンピックを狙っていますけど、オリンピックばかり意識するのは、ちょっと違う。
 一番大事なことは、所属するチームで結果を残していくこと。その上で代表の活動があると思います。チームでの活動を代表のスタッフの方々に見て頂いて、いいと思ったら選んでくれるし、そうじゃなかったら選出されない。まさに今、選ばれていませんから。どこかのタイミングでU-23日本代表に選ばれたいですね。
──U-23日本代表に選ばれれば、やれる自信はありますか?
 選ばれたら、やれる自信はもちろんあります。ですが、今は自分の課題をどう克服していくかを考えることの方が間違いなく大事だと思います。それがオリンピック代表に選ばれるか選ばれないかに繋がってくると思う。今を大事にしたいです。
 とにかく今を120パーセント。毎日120パーセントでトレーニングして、限界までやっていれば、辿り着くべきところに辿り着けると思います。
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──ちなみにU-20W杯の決勝トーナメント1回戦、韓国戦で負けた時の悔しさは今でも残っていますか?
 そうですね。僕、3回ぐらいビッグチャンスがあったんですけど、自分で局面を打開して作ったチャンスなので、決め切りたかったです。
 僕をジョーカーとして考えてくれていた影山監督にも勝利を捧げたかった。僕に期待を込めて韓国戦の残り20分間を起用してくれたことを考えると、何としても勝ちたかったし、悔いは残りますね。
──そういった悔しさを晴らすことができるのは、代表戦の舞台しかない。
 やっぱり代表での悔しさは、代表でしか晴らせないと思っています。
 これからオリンピック代表だったり、A代表に選ばれていったとしたら、あのU-20W杯の時の悔しさを晴らしたいですね。U-17W杯で味わった悔しさも一緒です。
──世界大会で勝つために必要なことは何だと思いますか? 今まで2大会を経験して改めて感じるところなど。
 そうですね。世界大会だからといって、試合の中で全くチャンスがないということはなくて、意外とチャンスがある中で、惜しくも決め切れない。
 U-17W杯のときのイングランド戦は、相手がめちゃくちゃ強くて、最後はPK戦で力負けしましたけど、U-20W杯のときの韓国戦は、お互いチャンスがある中で、一本で決められた。
 やはり大事な場面で決めることができるか。決めるべきところで決めたら、おそらく勝てるんじゃないかと思います。世界大会では、1試合でそんなに何回もチャンスはやって来ませんから。
──チャンスに対する感覚は、今戦っているエールディビジで磨かれると思いますか?
 思いますね。もちろんレベルが高いリーグなので、試合中に何回もチャンスはこない。自分で作ったチャンスも含めて、少ないチャンスで決めきっていくことは大事になってくると思います。
 それが難しい局面であったとしても。エールディビジで、チャンスに対しての嗅覚、ゴールを取る嗅覚は、より磨かれてくると思いますね。
──目の前のチャンスを逃してはいけない、という感覚ですか?
 まあ、逃しちゃいけないって思っていると、逃しちゃうんですよね、そういう時に限って。点を取っている時は、だいたい何も考えていない。
 PSV戦もそうだし、アヤックス戦もそう。無意識にプレーしている。僕の場合、ゴールを決める時は本能で決めていることが多いですね。考えて考えて計画的にゴールしました…みたいなことは無かったです。
──世界大会のようなプレッシャーのある状況でも、本能のままプレーできるかが大事になってきますか?
 試合中全ての時間帯を本能でプレーするわけではなく、シュートのシーンに関しては、自分の得意としている形に持ち込めた時は、体が動くままにプレーしていることが多いです。それ以外のところは考えてプレーしています。
 やはりチーム戦術もありますし、頭を使わないとだめですね。フィニッシュの時に自然と本能的な感覚に入っていくことができれば、ゴールする確率は上がってくると思います。オランダで戦っていけば、そういう感覚はさらに磨かれていくと思います。
──では最後に、サッカーをしている上で一番大切にしている根本的な信条、信念のようなものは何かありますか?
 本当にプロに行ける人は一握りで、考え方もプロフェショナルな人が多い世界で突出するのは難しいですけど、その中でどうやって困難を乗り越えていくか。この世界では、何度か壁に絶対当たるんですよ。
 今もちょっと当たっていると思うし、プロに入った時もそうでしたし、去年、2019年の最初の頃もそうでした。なかなかJ1で試合に出ることができなかった。上手くいっていない時は、上手くいっている時よりも、キツいトレーニングがもっとキツく感じます。
 やるべきことを怠ったら上には行けないっていうことは分かっているんですけど…辛いです。そんな時は、人事を尽くして天命を待つ。これが好きな言葉です。とにかく諦めない。
 壁に当たった時に諦めないで、キツいトレーニングをやり続ける。そういったことが大事だと思います。それは上手くいっている時よりも大切なことだと思います。困難な時でも信念を持って、諦めない気持ちが大事だと思います。それは僕がずっと持ち続けている気持ちです。
──上手く行っていない時こそ120パーセントでやる、ということですか?
 上手くいっている時も120パーセントでやるのはもちろんですが、上手く行っているときは気持ちもノっているので、きついトレーニングも乗り越えることができてしまう。上手く行っていないときは、自主トレでキツいトレーニングを一人でこなすのは、なかなか辛い。それでも、いかに打ち勝って、やり続けることができるか。
 1日だけじゃだめですね、やっぱり。1日だけ頑張って、結果が出なかった、上手くいかなかった、じゃあ諦めよう、ではなくて、やり続ける。そして、ブレイクのときを待つしかないと思います。
(執筆=聞き手:本田千尋 編集:日野空斗、石名遥 撮影:峯岸進治 デザイン:小鈴キリカ プレー写真:GettyImages)