【新説】チャットボットが時間の使い方を変える

2020/2/19
日常になった「チャットボット」
みなさんは、LINEやMessengerで、企業が情報を発信するアカウントを追加したことはありますか。
企業側がユーザーにお得な情報を送ったり、メッセージスタンプをプレゼントしたり、SNSで企業アカウントを運用する理由はさまざまです。
スマートフォンの月額通信量の確認や、宅配便の配達時間変更など、明らかに人間とは思えないスピードで返事を受け取ったことがあると思います。
例えば、旅行会社のアカウントに「旅行」「沖縄」と入力すると、まるでウェブで検索したかのように、ヒットした結果をSNSのチャット画面で見ることもできます。
こうしたツールを「チャットボット」といい、古いものは1960年ころに誕生して技術の発展に押され、今は普及期に達しつつあります。
よく勘違いされるのですが、チャットボット単体ではただの自動応答のプログラムのこと。AI(人工知能)のような自動学習機能はないため、「チャットボット=AI」という認識は間違いです。
AIではないものの、チャットボットには良いところがたくさんあります。
まず、ユーザーにとっては普段利用しているSNSから離れずに、欲しいものを確認するスムーズな体験ができるところです。
一方、企業にとっては3つのメリットがあります。
1つ目は、従来のコールセンターを効率化できること。コールセンターでは、オペレーターと呼ばれる企業側の人間が、窓口として個別に対応しています。
その顧客対応を効率化するために、「チャットボット」というプログラムを使うと、顧客との会話を自動化することができるのです。
2つ目は、顧客との接点を増やせること。
今ではメールの既読率が下がり、良くても平均3〜5%、クリック率になると一段と下がって0%台です。一方でLINEやMessengerなどのチャットは多くの人が使っているツールなので、50〜70%の既読率が見込めます。
かつ、コミュニケーションがある程度、自動化されているのでメールなどと比べても効率的です。
3つ目は、ターゲティングの精度が上がること。
情報量豊かなSNSと組み合わせることで、居住エリアや年齢層などのデータを取得し、広告の注力対象を明確化できる強みもあります。
チャットボットで「働き方改革」も
企業からすれば、チャットボットは、これから新規顧客獲得を自動化するための強力なツールとなっていくでしょう。
新規顧客の獲得は、全ての企業にとって常に立ちはだかる課題です。
そうした課題を解決しようと、私は「ChatBook」というチャットボットによる営業自動化ツールを開発しました。
現在では、IT業界や人材業界などを中心にさまざまな企業がChatBookを導入していますが、顧客獲得以外にも副次的な効果が出始めています。
今まで数時間から数日かかっていた、アポから見積もり提出までの工程が、全てオンライン上で、わずか数十分で完結できるようになりました。それにより従業員の時間的負担と心理的負担が減り、働き方改革につながる副次的効果が現れています。
これまでの新規営業開拓では、電話をした際に迷惑がられてガシャンと冷たく切られたり、誰に電話しているのか分からない状態でのブラインドコールを行っていたりしました。
しかし、SNS情報と連携しているチャットボットを使えば、顔写真や共通の友人、公開していればタイムライン情報などが営業前に得られます。
そのため、電話をかけた際の会話の糸口が見え、セールスのトークも事前に想定できます。
チャットボットは消費者にとっての新たな価値創造だけでなく、利用する企業の働き方も改革していける可能性を秘めたツールなのです。
Photo:iStock/metamorworks
原体験は「客に届ける」大変さ
私がチャットボットにビジネスとしての着想を得たのは、2回の起業を通して、常に新規顧客獲得に苦労した経験からでした。
1度目の起業は2010年、早稲田大学在学中。私は、外交官を目指して大学に入学したため、入学時は起業に全く興味がありませんでした。
ところが、学生時代に海外でインターンをした時、Facebookが音楽SNSのMySpaceを追い抜くというニュースが話題になりました。
周囲の友達は、若手起業家であるマーク・ザッカーバーグやFacebookという「Cool」な文化について話していました。
私はそれを見て、数千万人規模のプラットフォームであるFacebook自体が、まるで国のように、文化やスタイルを発信していることに興味を持ち、自分でSNSを作る会社を創業することにしたのです。
最初の3年間で100件以上のアイデアをひねり、20件弱をサービスとして形にしましたが、ヒットはなかなか出ませんでした。
今では笑い話ですが、初めて作ったサービスも、購入してくれたのは自分の母親だけという“惨事”でした。
当たり前ですが、ものを作るだけで終わりでなく、サービスを世に広めて利用者に届けるマーケティングの大切さをそこで痛感しました。
その後、試行錯誤の結果、2014年に出した写真SNS系アプリ「DecoAlbum」が徐々に人気が出て、世界中で500万人のユーザーに使ってもらうまで広がりました。
それからは、6年間副社長CTOとして勤めた「DecoAlbum」を退職し、リクルートに転職します。
そこで再び感じたのが、リクルートのような大きな企業でも顧客獲得に苦労しているという事実でした。
中小企業だけでなく、大企業も共通して持つ顧客獲得は大きな課題だと感じました。そしてその経験を通して、当時、技術的に開発可能となった新技術「Messenger API」を使って起業することを決意しました。
チャットで顧客獲得を簡単にできるというサービスのプロトタイプを1カ月で作り、TechCrunchやTech in Asiaといったカンファレンスで登壇の機会をもらい、営業先の名刺獲得から好スタートを切ることができました。
一人で100社以上、1日7件近く営業に回って気がついたのが、「B2B営業は購入に至るまでの過程が非効率だ」ということです。
その一方で、業種が異なってもプロセスは類似していることが多く、チャットで一次フィルタリングとして営業が必要な情報を聞くことができるのではないかと思い、サービスに落とし込んでみました。
そうすると、チャット経由で受注ができ、見積書発注なども短縮できたという声を顧客からいただき、セールスノウハウを詰めた形で「チャットボット」としてどんどん学習・改善していったのです。
Photo:iStock/anyaberkut
「何かご質問はありますか?」は地雷
しかし、チャットボットにもまだまだ課題はあります。起業初期は、自然言語処理を入れたチャットボットでマーケティングを行おうとしていました。
今とは少し異なる見せ方で、ウェブサイトの右下に「何かご質問ありますか?」とオープンクエスチョンで聞くボットを作り、言語解析で顧客の質問に合わせた提案を行い、そこで購入してもらおうと考えたのです。
当時流行していた言語解析ライブラリを導入して試験的に運用したところ、クリック100件に対して、実際に問い合わせに至ったのはたったの1件。悲惨な結果でした。
顧客側から見れば当たり前のことですが、SNSマーケティングで当てられる顧客は潜在層が多く、彼らは商品に対する明確なニーズどころか、商品そのものを理解していないことも多々あります。
そこで、「何がしたい?」と聞くのではなく、ニーズを喚起できる「私たちの商品にはこれとこれのメリットがありますよ。どちらに一番興味ありますか?」という選択肢形式に変換しました。
その結果、およそ10%のユーザーが回答を完了してくれました。サイトの平均クリック率は3〜5%なため、この数字は悪くはありません。
現在は、潜在層向けに認知向上からニーズ喚起、欲求を持ってもらうまでをチャットボット内で行っています。
なお、私たちが運営するChatBookでは、利用者の購入意欲を図るアルゴリズムが自動で動いており、そちらの機械学習にAIを用いています。
ウェブサイト上の不特定多数の、いわゆる連絡先がとれない未完結な顧客情報と違い、アクセスした瞬間にリアルタイムで個人とその周辺状況を理解できるSNSでの情報は、濃密で豊富です。
個人情報に配慮したあくまで見込み顧客が許諾した情報のみ取り扱っていますが、会話のスピードや質問の内容から、簡単に顧客の購入意欲を測ることができます。
人間が今まで目視で行っていた細かい動作を自動解析してくれるのです。
Photo:iStock/Urupong
企業に必要な「変わらない何か」
新しいサービスや技術がどんどん出てくるのがIT業界で、私が一番本質だと思っているのは「変わらない何か」です。
AmazonはAI、ドローン、無人化などのさまざまなテクノロジーを駆使していますが、ジェフ・ベゾスは、「安く、早く、豊富な品ぞろえ」を変わらない人々の本質と考え、そのビジョンをかなえる経営をしています。
私たちが目指す変わらない本質は、「人間が人生を楽しめる社会を作る」という理念です。
8カ国の従業員が在籍する私の会社で、受け入れられているバリューの一つが、「Set Goals, Make them Happen Here」という「人生の目標を立てて、ここでかなえよう」です。
このバリューが意味するのは、この会社でなくても人生で実現したい個人の将来像を考え、その中で会社が役に立てるということです。つまり、将来像を前提にした個人を尊重したビジョンです。
私たちのサービスは、今はテキストベースですが、今後は音声やオフラインでも展開を予定しています。
特に興味があるのが、脳の反応を元にした、BMI(Brain Machine Interface)という技術です。
例えばオフィスでパソコンの前に座ったとき、「今日この人とランチ行くからリマインダーのメッセージ送っておいた方がいいかも」と思ったら、勝手にメッセージを送ってくれます。
面白い技術だから導入したいというよりも、この技術を使うことで自由な時間が増え、その分好きなことに費やすことができ、結果として楽しい人生を過ごせます。
You Only Live Once(人生は一度きり)という精神をモットーに、人生をやりきること。
働き方改革という言葉がなくても、人生を楽しむことを応援する施策が世界中で広まることを願います。
小島舞子 チャットブック 代表取締役
平成生まれ。株式会社チャットブック創業者代表取締役社長。10年以上新規サービスの企画立ち上げに関わる。創業直後に資金調達を発表しTechCrunch DisruptとTech in Asiaに登壇。テクノロジーに境界はないと海外中心の優秀な組織を構成し、インサイドセールスからフィールドセールスを行う。Salesforce、East Ventures、 YJCapitalなどから投資を受け、Facebook認定Messengerパートナー、AIアクセレーターに採択され、日経AIサミット、東京都によるAPT Womenなどでの登壇実績がある。同社創業前は早稲田大学在学中に起業し、6年間副社長兼CTOとして国内外で500万ユーザーを誇るサービスをゼロから企画開発。その後リクルートでウェブディレクターとして働き、チャットブックを創業。

*小島さんが参加する、東京都女性ベンチャー成長促進事業APT Women 第4期 成果報告会が2月20日(木)に開催されます。ご興味ある方はこちらからお申し込みください。
(執筆:小島 舞子、編集:東 春樹、谷口 健、企画:阿部 由佳、デザイン:小鈴 キリカ)