【田中美和】仕事スキルは「シェア」する時代へ
2020/2/16
企業に縛られない働き方のひとつとして注目されているフリーランス。多種多様な職種で増えているフリーランスを、企業が活用するメリットは何か。これまでのエピソードを踏まえてお話しいただきました。
「ビジネスフリーランス」の働き方
日本における2018年の広義のフリーランス人口は390万人(JILPT調べ)にのぼるとされ、これは労働人口の約6%を占めます。
フリーランス人口は年々増加傾向にあり、2030年には労働人口の10%以上をフリーランスが占めるという推計もあるほどです。
「フリーランス」と聞いたときにみなさんが思い浮かべる職種は、エンジニアやプログラマー、デザイナー、ライターといったクリエイティブ職が多いのではないでしょうか。
しかし、近年の傾向としては、クラウドソーシングやシェアリングエコノミー、各種フリーランス支援サービスの登場により、フリーランスの職種が非常に多岐にわたってきていることが挙げられます。
例えば、より専門性に特化したクリエイティブ職である美容師やシェフ、大工の親方などが独立をしたり、広報やマーケター、人事や財務といった、これまでは組織の一部となって役割をこなしていた職種でも増えています。
私が理事を務める一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下フリーランス協会)ではこうした働き方を、「職人フリーランス」「ビジネスフリーランス」と定義し、分類しています。
では、どのようなきっかけでフリーランスになるのでしょうか?
「フリーランス白書2019」によれば、仕事内容や働き方などについて自己決定できることを求めてフリーランスになった人が多いのが特徴としてあげられます。
同白書では法政大学大学院の石山恒貴教授監修のもと、ワークエンゲージメント(仕事に対する熱意)やキャリア自律に関するフリーランスと会社員の比較分析を行いました。
その結果、フリーランスの平均値は従来の日本人の数値に比べてかなり高く、国際比較における欧米諸国の水準と遜色ないことがわかっています。
また、多種多様な職種にあわせて、発注側と受注側を結びつけるサービスもさまざま出てきています。
フリーランス協会ではフリーランスの働き方を以下の3タイプにわけています。
タスク型:バナーやロゴデザイン、データ入力や翻訳業務など
プロジェクト型:人事制度の刷新、新商品のキャンペーン実施
ミッション型:企業の認知向上やブランディング、人事開発(採用〜育成)
プロジェクト型:人事制度の刷新、新商品のキャンペーン実施
ミッション型:企業の認知向上やブランディング、人事開発(採用〜育成)
以前からアウトソーシングとして馴染みのあったタスク型に加え、 近年はより従業員に近い立場のプロジェクト型やミッション型も増加しています。
このようにフリーランス人口は増えていますし、職種も、担当できる業務内容も多様化しているにもかかわらず、「フリーランスを活用している」企業は全体の2割程度にとどまるのが実情です(経産省報告書より)。
記者からスタートアップ創業へ
私の場合、編集記者経験がまさに起業の原点になっています。
出版社に会社員として勤務していたころ、私が主に担当していたのが「日経ウーマン」という雑誌でした。女性の生き方や働き方がテーマの雑誌です。
ここで来る日も来る日も働く女性のみなさんを取材しました。調査や取材を通じて接してきた女性の声は3万人以上にものぼります。
そこで気づいたことがあります。それは将来への不安や現状へのモヤモヤを抱えながら働いている女性たちが非常に多いということ。
「女性たちが生き生き働き続けるためのサポートがしたい」
そう考えた私は「自分に何ができるか」を模索するため、会社を辞めてフリーランスとして働き始めました。メディアの仕事は非常にやりがいがありましたが、「次の10年、20年は社会的な課題の解決を仕事にしてみたい」と考えたのです。
「もともと10年以上編集記者をしていた」というと、「珍しい(キャリア)ですね」と言われます。たしかに編集記者出身で、メディア事業ではないベンチャー企業を経営というのはユニークなキャリアかもしれません。
しかし、フリーランスという働き方が私にはとても合っていました。自分自身の専門性が生かせて、時間・場所の自由度も高い。
「この働き方を必要としている女性たちがもっといるのではないか」
共同創業者たちとの出会いもあり、フリーランス女性と企業とのマッチング事業を展開するWaris(ワリス)を起業し、7年目になります。
Warisは先ほどの図の中でも特に「ビジネスフリーランス」として働きたい女性たちと企業とのマッチングサービスになります。職種でいうと広報・マーケティング・人事・経理財務などです。
私たちが創業した2013年当時は「働き方改革」が叫ばれるようになる前のこと。
「責任と裁量のある仕事をしたいなら長時間会社にコミットする(長時間残業する)のは当然」という風潮が根強い時期でもありました。
「日本の働き方はもっと多様で自由でいいのでは?」
「固定化した日本の働き方を変えたらハッピーになる人が増えるのでは?」
そんな発想からフリーランスが一つの選択肢になりうると私たちは考えたのです。
実際サービス開始から現在まで約1万人のフリーランスとして働きたい女性たちにご登録いただき、約1900社の企業様との仕事のマッチングを日々創出しています。
フリーランス活用がイノベーションの鍵
では、企業にとってフリーランスを活用するメリットはどこにあるのでしょうか?
下図によると企業側にとってのフリーランス活用の本質は、専門的な知見・ノウハウ・ネットワークの獲得による事業成長やイノベーション創出にあることがよくわかります。
コスト削減は副次的効果にすぎません。
では、フリーランスが経営の中核を担う事例にはどんなものがあるでしょうか。
経理代行のクラウドサービス事業で知られるA社さんの場合、BtoB事業の成長のためCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)業務を担当できる人材を探していらっしゃいました。
そこで私たちがご紹介したのが40代のOさん。10年以上にわたりマーケティングおよびマーチャンダイジング業務に従事したのちに、直近はフリーランスのマーケティングコンサルタントとして大手からベンチャーまでさまざまなプロジェクトにかかわってきた方です。
A社さんのケースでは週2日稼働の業務委託契約で、顧客ニーズの分析、示唆出し、ターゲットごとのマーケティング施策の立案、実行に携わっていただきました。
プロのフリーランスに上流工程の業務を依頼する理由はいくつかあります。なかでも、企業に伴走しながら、ときには実務の部分も担ってもらえる点は大きな魅力です。
いわゆる「コンサルティング会社」に依頼するよりも、圧倒的にコストメリットがある点も副次的効果です。
もうひとつ人事領域の事例もご紹介します。クライアントはグローバルな医療機器メーカーB社さんです。グローバル人材をふくめた中途採用力の強化が課題でした。
そこで私たちがご紹介したのが採用・教育・育成・制度設計など一連の業務経験がある人事系フリーランスの方でした。
ビジネス英語スキルも保有されている方で、実際の採用プロセスや手法に関して課題を抽出し、採用力強化のための業務改善を担当していただきました。
目的に合わせて、必要な時間数を必要な期間だけ発注できるため、コストパフォーマンスが高いと好評をいただいています。
また、フリーランス人材の場合、最短で1週間から10日ほどで稼働開始となる場合もあり、社員採用と比べてスピーディーな立ち上がりも魅力の一つです。
戦略から実務まで幅広く対応できる、専門性の高い現役のプロ人材を柔軟に依頼できること、そしてその結果として新規事業が創出されたり、業務が改善されたりし、結果的に企業の事業成長につながっていく。
それこそが企業がフリーランスの力を取り入れることの最大のメリットです。
私はフリーランスを活用できる企業こそが今後10年、20年先を考えたときに生き残っていけると本気で思っています。
フリーランス活用は個人の生き方・働き方改革だけではなく、企業にとっても今後の生き残り戦略の一つなのです。背景にあるのは圧倒的な労働人口の減少です。
専門的な知見やネットワークを持つ優秀な人材を企業が「ストック」するのではなく「シェア」する。
その意味でも戦略的にフリーランスを活用する選択肢を一人でも多くの企業関係者の方に知っていただきたいと思っています。
田中 美和 Waris共同代表
フリーランス女性と企業とのマッチング、離職人材の再就職支援など多様な生き方・働き方をつくる活動をしています。元「日経ウーマン」編集記者。3万人以上の働く女性を調査+取材。元フリーランス。著書「普通の会社員がフリーランスで稼ぐ」。リモート経営実践中。国家資格キャリアコンサルタント。 APT Women 第4期受講生。
*田中さんが参加する、東京都女性ベンチャー成長促進事業APT Women 第4期 成果報告会が2月20日(木)に開催されます。ご興味ある方はこちらからお申し込みください。
フリーランス女性と企業とのマッチング、離職人材の再就職支援など多様な生き方・働き方をつくる活動をしています。元「日経ウーマン」編集記者。3万人以上の働く女性を調査+取材。元フリーランス。著書「普通の会社員がフリーランスで稼ぐ」。リモート経営実践中。国家資格キャリアコンサルタント。 APT Women 第4期受講生。
*田中さんが参加する、東京都女性ベンチャー成長促進事業APT Women 第4期 成果報告会が2月20日(木)に開催されます。ご興味ある方はこちらからお申し込みください。
(編集:泉 秀一、東 春樹、企画:阿部 由佳、デザイン:小鈴 キリカ)