なぜ講談社は台湾で「女性メディア」を広めるのか
2020/2/22
出版社25年のキャリア
出版社のイメージってどのようなものでしょうか? 書籍、雑誌、コミック、出版不況、紙からデジタルへの変革期……。そんなイメージでしょうか。
実際には、「出版社」と一括りに語ることが難しいほど、激しい変化に対応する各社の動きは多様になっています。
講談社は出版社としては大きな会社ですが、それだけに様々な側面のある会社でもあります。その中で、私は女性メディアのブランド戦略に関わっています。
最近、私のまわりで「アジア展開したいけれど、どうすればいい?」と悩んでいる人が多いように感じます。
成長著しいアジア圏で、製品やサービスを展開したい、知名度を上げたいと思うのは、自然な流れでしょう。
先日、女性誌「ViVi」も台湾でモデルショーを行いました。
アジア展開のひとつの事例として、そのイベントでのエピソードをお話ししたいと思います。アジア展開を考える方々の何かしらのヒントになれば嬉しいです。
私は講談社に1995年に入社し、25年目を迎えます。職種としては、広告営業、販売、編集、ウェブサイト・アプリ制作、EC、経営企画、生産管理、マーケティング。ジャンルとしても、女性メディア、男性メディア、書籍、コミックと、出版ビジネスにまつわる一通りのことを経験してきました。
「女性誌」ではなく、「女性メディア」という言い方をしたのは、いまは当然、雑誌だけでなく、ウェブやSNSでの展開も切り離せないものだからです。
概念としては「女性誌」ですが、実務としては、紙とデジタルのどちらも大切です。
仕事の内容を一言でいえば、「女性メディアのマーケティング」です。女性の生活や幸福に貢献するということが自分の使命だと考えています。
雑誌のアジア展開
近年、力を入れているのが、「デジタル対応とアジア展開」です。
講談社では、ミモレ、FRaU、ViVi、with、VOCEといった女性メディアを展開していますが、いずれも紙だけではなく、デジタルに力を入れています。特に、ミモレはウェブだけのメディアで、今年、5周年を迎えました。
講談社は、デジタル対応に関してかなり早い段階から取り組んでいることもあり、一定の成果を出せていると感じています。現在はデジタル対応と並行して、いずれのメディアでも海外展開を進めています。
特に中国と台湾では、日本製品やカルチャーへの人気があるので、提携する企業を増やし、カバーする領域を広げているところです。
中でもViViは、中国で20年、台湾で13年ほど雑誌の刊行を続けており、知名度のあるメディアです。日本では、12万部を発行し、20代を中心に読まれているファッション誌です。
「ファッション誌」と書くのに違和感を覚えるほど、ウェブがとても伸びていて、200万UUを超えています。
各種SNSのフォロワー数も女性メディアの中ではトップクラス。専属モデルには藤田二コルさんなど、10代、20代の女性には抜群の知名度と人気を誇るメンバーが揃っています。
毎年、ViViNight(ビビナイト)というイベントを日本で開催しているのですが、昨年、初めて台湾の台北で開催しました。
ViViNightを台湾でも開催して欲しいという声は、以前から多くありました。今では、日本企業もアジア展開を積極的に行っており、日台双方の各企業から協賛や協力をいただけることとなり、実現に至ったのです。
台湾で感じた熱気
ViViNight in Taipeiを開催したのは、2019年11月16日。来場客数は満員の約1200名。
日本へは「LINE LIVE」、台湾へは「Yahoo! TV」でライブ中継を行い、日本と台湾、合わせて延べ107万人に視聴されました。
ViViは台湾で13年発行していることもあり、人気女性誌として幅広く認知されています。シンガポールなど中国語が使われている地域にもファンがおり、輸入書籍を扱う店で購入したり、個人で取り寄せる読者もいます。
日本語を読めなくても、日本版のViViを読んでいる方もいます。そうした手応えをもとに仕掛けた新たなチャレンジがこの「ViViNight in Taipei」なのです。
今回、台北で私が感じたのはモデルの存在感です。日本でViViNightを開催した際、来場者はViViモデルに会うために会場に来ますが、それは台湾でもまったく同じ。
ViViモデルを乗せた飛行機が台北の空港に着いた時には、「出待ち」が発生するほどでした。
ViViNight in Taipeiの前日には、“ファンミーティング”を開催しましたが、こちらも盛況でした。日本からも多くのファンが訪台しました。
ファンミーティングでの様子
今回のショーは、初めての台湾開催ということで、ViViとしての集客力や盛り上がりを確かめる意味合いもありました。
当初は正直なところ、日本のモデルによるショーだけでどこまで盛り上がるかという心配もあったので、台湾のモデル、アーティスト、MCを招聘し、内容も歌やトーク、クイズなどバラエティー豊かな構成にしました。
ですが、実際に開催してみると、心配は杞憂でした。
台湾の人々はViViモデルに会うことを心から楽しみにしてくれていました。施設の階段には、開催前から何階分にもわたって行列ができるほど。スタンディングで観覧するイベントだったので、モデルにできるだけ近い場所を確保するためです。
そして、いよいよ開演。会場の熱狂が最高潮に達したのは、ViViモデルがランウェイを歩いたときでした。モデルが歩く姿は、台北のお客様の心をしっかりとつかんだのです。
ViViモデルのメンバーも、初めての海外開催ということで、不安もあったようですが、ステージから来場者の盛り上がりを見て、感動していました。
「台湾のファンの方々は見たこともお会いしたこともなかったので、ステージに立つまでは不安でした。実際にお客さんを目の前にして、盛り上がってくれていたので嬉しかったです。日本では特定のモデルさんを応援しに来ている感じがするときもありますが、台湾のファンの方々からはみんなを応援してくれるやさしさが伝わりました。インスタに『今日行きます』というようなコメントを中国語や日本語でもらっていました」 (ViViモデル 愛花さん)
モデルが歩く、そのシンプルな行為は言葉を超えて、海外の人にも届く。そう確信した瞬間でした。
ランウェイを歩くViViモデル
台湾で開催した理由
なぜ台湾で開催したのか、とよく聞かれます。その理由は3つあります。
1つ目は、なにより日本のカルチャーを中華圏に向けて発信していきたいということ。
グローバルに展開する女性メディアはアメリカ・ヨーロッパ発のものが多いのですが、アジア圏に関しては日本のカルチャー、女性メディアが成長する余地が大きい。そう考え、アジアNo.1の女性メディアをつくっていきたいと考えています。
2つ目は、多くの日本企業が中華圏への進出を計画しており、そのサポートがしたいという思いです。
日本で成功した製品やサービスでも、そのまま他国で成功するわけではありません。韓国が上手にやっていますが、カルチャーとともに製品やサービスを展開することで、より深く現地の方の心をつかむことができるはずです。
一企業単体ではなく、手を組んで、日本のカルチャーやプロダクトを広げていくべきだと思います。
3つ目に、台湾がとても親日的であるということです。
知人の台湾人は年に5~6回日本に来て、子どもを日本の大学で学ばせています。毎回、日本の様々なところに行って、食事をしたり、お土産を買ったりするのが楽しいそうです。また、台北のお店やタクシーでは、日本語を話す人も多くいます。
JNTO(日本政府観光局)が調べた2018年の国別訪日客数によれば上位3カ国は、1位が中国の838万34人、2位が韓国の753万8952人、そして3位が台湾の475万7258人。
延べ人数こそトップである中国の半分ほどしかない台湾ですが、人口に占める年間訪日客数を見ると、一転。台湾は総人口の20%と、中国の0.6%、韓国の14.5%に対して非常に高い数字を叩き出している。
また、台湾で日本のコスメやファッションは人気です。
現地のドラッグストアでは、日本と同じパッケージの商品も多く、「日本No.1」といった売り文句をつかった店頭POPをよく見ます。
“親日”であるからこそ、台湾の人にとって日本の化粧品やファッションは受け入れやすく、日本人モデルへの憧れもあります。今回のイベントのアンケートでも、20代の台湾人女性からこのような声が寄せられました。
「日本のファッションブランドが好き。欲しい服は、雑誌で見て、ネット通販で買うことが多いです。台湾ではこうしたイベントの機会は少ないので、好きなViViモデルに会うことができて嬉しい」(台湾人女性・20代)
日本では、広告的な表現は生活者に届きにくいと言われるようになりましたが、台湾では好意的に受けとられているように感じました。
日本製品が人気ということもあるでしょうし、日本のメディア発のイベントはそうありませんから、開催を楽しみにしてくれていた人が多かったのでしょう。
そして、こちらの不安をよそに、ViViモデルのこともよく知っているし、ViViも読んでいる。日本の情報も、雑誌やSNSでキャッチアップしています。
日本語で、感謝を伝えてくれた来場者もいたほどです。このような日本ファンを大切にしていかないといけません。
「中国展開の前に台湾進出」は正しい?
中国と台湾の市場規模を考えて、あくまで最終的なターゲットは中国だとする企業も多いようです。台湾は中国展開への足がかりとなるのでしょうか?
結論からいうと、足がかりとすることはできます。
けれど、台湾と中国はまったく違います。
同じ中国語をつかっているようでいて、繁体字・簡体字で言葉の違いもありますし、社会制度や法律も異なります。なにより文化的な違いは大きく、台湾はむしろ日本に近いのではないかと思うほどです。
とはいえ、海外で展開するという意味で、その第一歩になるということはあるでしょう。
我々も台湾でのイベント開催を進める中で、中国や香港企業とのコミュニケーションが増え、商慣習についても学ぶことがありました。
イベントの完成度に対する日本人と台湾人の認識の違い、ヘアメイクやスタイリストなど専門職の仕事領域の違い、サンプルが税関で止まる、契約書を交わすのにどの言語を使うかから交渉が始まるなど。
日本でイベントを開催するのとはまったく違う次元の大変さがありましたが、終わってしまえば、貴重な経験です。
まずは、現地の感覚と雰囲気をダイレクトに感じることが必要でしょう。その上で、プロダクトと日々の活動に反映させていく。どの程度のローカライズが必要かを見極めていく。
今回のイベントのため、講談社のスタッフは、20名以上が訪台しました。多くのメンバーが、海外での経験を積むという意味合いは大きいでしょう。
“なんとなく知っている”と“体感している”はまったく違います。
スタッフのひとりは今回の訪台を経て、「ViViモデルが海外でも人気のあることを実感できた」と話していました。
台湾人スタッフやモデルとともに、ViViNight in Taipeiを「共創」した経験は、今後、アジア展開をさらに進めるにあたって、生きてくるでしょう。
コミックやアニメだけでなく、日本のコンテンツを海外により広げていきたいと思います。
(編集:泉秀一、企画:阿部由佳、デザイン:岩城ユリエ)