【吉野彰】2020年代、「新・イノベーターの条件」

2020/1/2
2010年代最後のノーベル賞化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェロー。
スマートフォンを土台にしたモバイル社会・IT社会は、吉野氏が基礎を開拓したリチウムイオン電池の普及があってこそ実現した。
リチウムイオン電池は、今後も電気自動車(EV)など、スマート社会に欠かせない存在になるだろう。
授賞式でも笑顔を絶やさなかった吉野氏。だが、そんな「吉野スマイル」のイメージとは裏腹に、吉野氏は「自動車メーカーはいずれ下請けになるかもしれない」と、日本の産業界の先行きを強く案じている。
日本の産業界に打開策はあるのか。2020年代の「産業の羅針盤」は何になるのか。2020年代にふさわしいイノベーター像とは何か。
そんなNewsPicks編集部の問いに、吉野氏が答えた。

問題あっても、「尖ったもの」が必要

──2010年代最後の年にノーベル賞を受賞しました。2020年代は、どんなことに取り組んでいきたいですか。
普通だったら、授賞式の後は一息つくところかもしれないけど、そうはならないね。それは、ノーベル賞の受賞理由が二つあったからかな。
一つは、パソコンやスマートフォンのようなIT社会の実現に貢献したという点です。
もう一つは、脱化石燃料社会を実現する可能性を秘めていることが評価された。つまり、「これからも環境問題に貢献しなさいよ」という宿題をいただいたということです。
──座右の銘は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。ただ、吉野さんは「実る前はとんがっていなさい」と解釈しているそうですね。
まず、新しいものを開発するということは、何か尖ったものが必要なんだよね。
同時にたくさんの問題点があったとしても、人とカネと時間をかければ、解決策が出てくるものです。逆に、尖ったものがなければ厳しいとも言える。
私はもともとね、ポリアセチレンという材料の研究をしていたんです。でも、途中から電池の研究に変わっていった。
旭化成という材料メーカーの中で、電池は異質な研究テーマだった。だから当然、反対意見も出てくる。