90分1セット。仕事が楽しい人こそ「ひと休み」が必要な理由

2020/1/31
フレックス勤務やテレワークなど、働き方がフレキシブルになっている今、ビジネスパーソンにはストレスや体調管理など心身ともにセルフマネジメントが求められる。
日本で唯一、「習慣化」をテーマにしたコンサルティング会社を設立し、これまで5万人以上のビジネスパーソンの生産性を高めてきた古川武士氏に、よりよく働くための「習慣」、そして上手な「ひと休み」の方法やオンオフの切り替え方について聞く。

「優先順位」を決めると働き方が変わる

古川武士 一生懸命仕事に打ち込み、しかも事業の拡大や自分の成長を感じられるなら、長時間働いて体はしんどくても、心は豊かなのかもしれません。
もう昔の話ですが、私が以前いた会社では、夜になると部長や課長が「深夜まで残業したら寝袋で寝て、朝イチから営業していた」といった武勇伝を語り出すことがありました。そんな話をされると、「もういい時間なので帰ります」とは言い出しづらい(苦笑)。
でも、それはきっと私への「圧」ではなく、つらくも楽しくもあった昔話の披露だったのでしょう。
今は働き方改革の影響もあり、逆に「早く帰れ」と言われる時代です。「仕事が増えているのに早く帰るなんて無理。会社のご都合主義だ」なんて声も聞きますが、ともかく私たちは仕事の密度を高めることを求められています。
制限をかけられると、「もっと自由にやりたいのに」というストレスが生まれます。しかし、ほとんどの人は「背に腹はかえられない」状況で初めて工夫するものです。
働き方改革を見ていても、ある時間になるとPCの電源が切られるなど、ある程度制限があって緊張感があるときのほうが効率を考えます。
仕事時間を圧縮するためには、これまでと違うやり方で、これまでと違う人たちと、これまでと違う何かをする必要がありますが、多くの人はその一歩をなかなか踏み出せない。
自分がやるべきこと、部下に任せられること、今日やるべきこと、明日でもいいこと。いろいろな仕事があるなかで明確に優先順位をつけて、朝から優先順位の高い順に仕事をこなしていく。私はこれを習慣にしています。
働き方改革では「時間」が注目されがちですが、時間だけではなく、一日に使えるエネルギーも有限です。昼に大変な仕事をすれば、夜クタクタになるのは当たり前。
エネルギー消費の大きい高密度な仕事を長時間続けることは不可能なので、何に、どの順番でエネルギーを注ぐかも考えなければいけない。その点でも優先順位づけが役立ちます。
私の場合、執筆やコンテンツを作るといったクリエイティブ系のワークを午前中に行います。脳にエネルギーがなければできないことで、業種は違っても、みなさんにも同じように重要な仕事があるはずです。
時間管理を可能にし、本当に集中すべきことに集中するために、まずは優先度を吟味してから仕事をはじめる習慣をつけましょう。

集中するためには「いかに休むか」がカギ

ある程度仕事の時間をコントロールしやすい人には、ルーティン化をおすすめします。
私の場合、午前中をオフィスでスタートするときは、朝の創作活動のルーティンを決めて自分のリズムを作っています。瞑想をしたのち、その日のミッション・ビジョンを描き、ブログや音声のアウトプットをしたのち、執筆に90分集中します。
仕事をルーティン化する利点は「いちいち計画を立てる必要がなくなる」ということ。メールチェックはここで、プロジェクト系はここで、と決めておくことで、「次は何をしよう」と考えるコストを省けます。
また、睡眠不足の状態では、エネルギーを使う作業はできません。朝からスタートダッシュを決めるためには、きちんと睡眠を取ることが重要です。
そこで、いつもは7時半から仕事を始めますが、木曜日だけは10時スタート。というのも、水曜夜には空手の稽古で帰宅が23時くらいになるし、脳が興奮しすぎていてなかなか寝つけない。睡眠時間は絶対に確保しておきたいから、変則パターンを用意しているのです。
夜にへとへとの状態で3時間かけてやっている仕事は、朝すっきりとした頭で取り組めば1時間で済むかもしれません。同じことが一日の中でも言えます。いかに集中して仕事をするかは、いかに休憩するかということと密接につながっているのです。
学校のように休憩時間が決まっていれば、自分で管理する必要はありません。しかし、裁量を持ったビジネスパーソンの場合は、昼休みも自分のタイミングで取ることになるため、適度に休憩を挟んでメリハリをつけられていない方が多い。
そうすると、ずるずると仕事を続けるうちにどんどん集中力が落ちてきて、ついには疲れ果ててYouTubeを見始めてしまう……。気づけば「あ、こんな時間だ」と。
そんな事態を回避するために、私はタイマーを90分で設定しています。90分以上続けても、能率が上がらないことはわかっているので、アラームが鳴ったら強制的に1回休憩。
90分1セットのワークスタイルは、古川氏の経験によるもの。とはいえ、多くの大学の講義が90分であることを考えても、理にかなった時間設定だと言える。
私の場合、休憩中はもっぱら本を読みます。
読みたい本は山ほどありますが、「休憩時間に読みたいな」と思う本は読まずに取っておいて、まず15分「はじめに」と「おわりに」と目次を読み、次に好きなところをパラパラと15分。最後に「こことここは次に読もう」と丸をつけておくと次の休憩が楽しみになる。
「30分休む」というより、「自由なインプット」とでもいうべき時間ですが、そこで十分インプットすることでアウトプットのエネルギーが充たされる感じがして、次の90分も再び集中することができます。

リラックスのために「トリガー」を用意せよ

緊張とリラックスをうまく切り替えるには、きっかけとなる「トリガー(引き金)」を作ることが有効です。
たとえば懐メロを聴くと、昔のことを思い出して感情も変化します。音楽と感情が結びついているから、曲によって仕事モードにもなるし、リラックスモードにもなれる。
同じように「手をパチンと鳴らす」行為と心の状態を紐付ければ、それだけで気分を切り替えられるようにもなります。温かいコーヒーでもいい、音楽でもいい、自分にとっての「ひと休み」のトリガーを作ってください。
「ひと休みをアップデートする」という目的で開発されたstonを試す古川氏。「2種類のカートリッジを使い分けられるのがいいですね」(古川氏)
「人間関係が大変だ」とか、「この仕事嫌だな」と感じながら仕事をするストレスは自覚しやすいですが、いくら好きな仕事であっても仕事である以上、緊張状態にあるはずです。
それなのに、テンションが高いせいで休むのを忘れてしまう。交感神経と副交感神経のバランスを崩すと心身ともにダメージが出てきます。
実は私自身、独立直後にがむしゃらに働きすぎた結果、突発性難聴になった経験があります。だから、仕事が楽しければ楽しいほど、意識して興奮状態から脱しないといけない。「ひと休み」を習慣づけるべきだと身をもって学んだんです(笑)。
よい仕事をして、よい人生を送るためにも、緩急のリズムを生活に刻んでおくことが重要なのです。
(編集・執筆:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:砂田優花)