“机上の空論”はいらない。成長を続ける中小企業コンサルの正体

2019/12/16

企業のほとんどは「中小企業」

 99.7%―。
 この数字は、国内の中小企業数の割合を示したものだ。国内の約385万の企業のうち、ほとんどが中小企業(平成28年経済センサス―活動調査)。従業員数で見ても、2/3以上を中小企業が占めている。
 そんな中堅・中小企業という広大なマーケットで、経営者コンサルティングに特化し、独自のポジションを確立した企業がある。それが、船井総合研究所(船井総研)だ。
 連結での業績を見てみると、2011年度から7年連続で増収増益。2018年度には、売上高216.97億円、営業利益49.46億円と過去最高を更新した。平均売上高成長率(AAGR)は14.3%だ。
 優秀な個人の実績に頼りがちだと言われるコンサル業界。裏を返せば、組織として安定した成長を続けるのが難しいこの業界で、船井総研はなぜ、7年連続で業績を上げ続けられるのだろうか。
 その答えを、取締役執行役員の真貝大介(しんがい・だいすけ)氏に聞いた。

提案の精度はチームで上げろ

 船井総研の成長の理由を、真貝氏はこう語る。
船井総研の成長は、クライアント企業の成長と同義です。船井総研のコンサルティングの精度が格段に上がり、クライアントの業績向上に直結していること。シンプルですが、それこそが船井総研が成長してきた、最大の理由です」
 とはいえ船井総研のコンサルタントの数は、約700人。全コンサルタントの提案の精度を底上げすることは、容易とは思えない。
「船井総研はここ10年ほど、個人の優秀なコンサルタントに頼るのではなく、チームとしてクライアントの課題を解決する『チームコンサルティング』の手法を取ってきました。属人的になりがちなコンサルティングのノウハウを共有することで、経験の浅い若手でも質の高い提案ができ、個人もスピーディーに成長できる組織作りを進めてきたのです。
船井総研が主催する研究会には全国から経営者が集まり、成功事例の共有、課題の解決策の議論が行われ、リアルなプラットフォームとして機能している。
 今、そのチームコンサルティングが、次のステージに来ていると感じます。ただ複数人でノウハウを共有するだけではなく、個々の専門分野を持つコンサルタントが戦略的にチームを組むのです。
 1つのクライアントでも、解決したい問題は人事領域から物流、マーケティングまで多岐にわたります。その場合、1人の専任コンサルタントがつくよりも、専門領域を極めた複数人のコンサルタントが“連携”した方が、根本的な課題解決につながる場合が多々あるのです」
 特に船井総研の「チーム力」が発揮されるのが、クライアントの「第二本業」を考案する時だ。
 第二本業とは、クライアントの現状の本業とは別に、将来的に収益の軸になりうる新規事業のこと。多くの中小企業は労働人口の減少を危惧しており、本業よりも時流に合い、収益性も高い第二本業の見極めが、成長を支えるカギになるのだ。
「たとえば、ドライバー不足に悩む運送業のクライアントに対しては、人材ビジネス自体を始めるご提案します。自社でドライバーを集められる体制を整えることは、業績を伸ばす上で決定的な要素になりますし、人材ビジネス自体が大きくなっていく可能性も十分あり得ます。
 こういったケースでは、部署、会社の垣根をまたいで、クライアントの課題を解決します。この事例では、物流を専門とする船井総研ロジと、人材コンサルの部隊が互いの専門知識を共有しあい、提案から立ち上げまで一貫して支援しました」
 船井総研のコンサルティング精度を上げているもう一つの要因は、ノウハウをデータとして蓄積している点だ。
 各コンサルタントが案件ごとに提案内容とその効果をまとめ、業界、業種、ひいてはビジネスモデルごとにデータを体系的に積み上げている。それが、社内共有データとして公開されているのだ。
 コンサルタントは、自身が取り組むプロジェクトとそれらの事例データを照らし合わせれば、自分の提案の効果を相対的に評価でき、KPI設定もより具体にできる。
船井総研には、『業績の上げ方が分からない』というコンサルタントはいません。
 詳細に整理・分類された過去の事例データを参照したり、チームで知見を共有しあったりすることで、クライアントの悩みにズバリと刺さる確度の高い提案ができるようになっているのです」

中小企業こそ、デジタルが活きる

 船井総研の最大の特徴である「中堅・中小企業」特化のコンサルティング。その醍醐味やマーケットとしての魅力とは、どのようなものなのだろうか。
中小企業コンサルタントの醍醐味はやはり、経営者をコンサルティングできるということ。
 会社の一事業部門や、特定のプロジェクトではなく、クライアント企業の経営全体を経営者と一緒に担う、ダイナミックさがあります。会社を引き継ぐためのロードマップ作りや、後継者になりうるお子さんの進路相談など、プライベートな相談を受けるなんてこともあります。
 世代交代が行なわれたあとも、引き続きコンサルティングをさせていただくことがほとんどです。
 コンサルタントとして信頼していただき、大事な意思決定の場に立ち会って成果を出せた時は、本当に達成感があるものです」
船井総研が毎年主催する経営戦略セミナーの様子。全国から経営者が集まり、時代を先読みした経営手法を学ぶ。
 そんな中小企業コンサルにおいて、船井総研が今注力しているのは「デジタル化」だ。2019年にICT部門も設立。「中小企業こそ、デジタル化で成長できる」と語る真貝氏は、その背景をこう語る。
「なぜ企業のデジタル化が重要なのか、という理由はもはや、私からご説明するまでもないでしょう。ここで強調したいのは、地方の中堅・中小企業ほど、デジタル化のチャンスが大きいことです。現にデジタルシフトに成功したところでも、まだ多くの余白があり、生産性はさらに向上できます。
 よく『日本企業のトップはデジタルへの覚悟が足りない』と見聞きするのですが、私は『デジタルに否定的』な経営者がいるようには感じません。
 ですが経営者側でデジタル化への覚悟が決まっていても、サービスの提案が『あれもこれも、何でもデジタル化できます』では動きようがない。誰がいつ、何をどうやって導入すべきか、コストパフォーマンスも含めて、最適なアプローチに絞り込んで初めて、話が進みます。その上で実行戦略に落とし込み、導入完了まで伴走していきます」
 船井総研がコミットするのは、あくまでもクライアントの「業績を伸ばす」こと。デジタルツールの導入が最終ゴールではない。そのため、業務のどの部分をデジタルで代替したら業績アップにつながるか、という視点も重要になる。
「たとえば旅館業界の事例をご紹介しましょう。旅館業界では人手不足・生産性向上が叫ばれる中、いまだに宿泊料金を固定で据えて、専任スタッフが手作業で管理している宿が非常に多いのです。
 そこで船井総研の提案で、ある老舗旅館にAIの判断に基づき、自動で価格が変動するダイナミックプライシングを導入。自動化することで専任を置く必要がなくなり、部屋の稼働率も改善しました。大幅な客室単価アップを実現できているのです。
予約の最適化』という、旅館業の本業ど真ん中の仕組みをデジタル化したことで、業績アップに直結させられた事例で、再現性も展開可能性も非常に高いと考えています。
 このように時流を読みながら、コンサル領域を柔軟に広げていける点が、船井総研の強みだと感じます。デジタルの領域は、主力テーマとして今後も注力していくつもりです」

「論より証拠」の中小企業コンサル

 経営者と長期的に向き合い、経営判断をスピーディーに支援する、船井総研のコンサルタントには、どのような素質が求められているのだろうか。
 まず真貝氏が仕事のやりがいとして挙げるのは、「クライアント企業の業績を上げる」というコンサルタントの本質的な仕事に、思う存分注力できる点だ。クライアントの経営者としっかり関係を築きながら、自分ごととしてその企業の成長を支える経験は、船井総研ならではだろう。
船井総研は「明日のグレートカンパニーを創る」をコーポレートスローガンに掲げ、CSR活動として船井財団が主催する「グレートカンパニーアワード」をサポート。社会性、教育性、収益性を兼ね備えた企業を選出し、表彰している。
 そこで求められるのは、提案を迅速に実行するスピード感や現場に合わせる柔軟性だ。
船井総研のコンサルティングは、論より証拠です。どんな正論を唱えるよりも、変革を具現化する力の方が大事。
 いつ資金が枯渇するか分からない、人がいなくなるか分からない、そんな風に状況が刻々と変化するのが、私たちのクライアント企業です。机上の空論を唱え、それが正しいと分かるまで動けない、という姿勢では間に合わないと考えます。
 また、企業も経営者のタイプも、本当にさまざま。仮に戦略の方向性が似ていたとしても、相手がどんな企業、経営者かによって、全くアプローチの方法は変わります。そこにフィットできるよう柔軟な発想ができる力も、非常に重要だと思います」
 経営者を支援していく過程で、経営者自身やその企業の成長が如実に現れる。それに並行して、コンサルタント自身も成長していくのだ。
「多くの社員が自分の仕事をふと振り返ると、クライアントの数多くの意思決定に関わり、そのおかげでクライアントが大きく成長してきたことに気づきます。あんなに小さかったオフィスが、いつの間にかこんなに大きくなっていた、という風に。そしてその経験が、いつの間にか自分自身も飛躍させているのです。
 数々の経営者と関係を築きながらそんな喜びを共有でき、自身のコンサルタントとしての成長も実感できることが、船井総研で働く醍醐味ではないでしょうか。経営を間近に感じ、第一線で成長したい、という人が非常に合っている職場だと感じますね」
(取材・編集:川口あい、構成:金井明日香、写真:北山宏一、デザイン:岩城ユリエ)