「忍者に忍び寄らせない席」

生産性を上げるためには、どういった場所で仕事をするのがベストだろうか。
答えは、壁を背にした場所。文字通り、後ろに壁があり、「忍者に忍び寄らせない席(ninja-proof-seat)」だ。つまりわれわれは、周囲を見渡すことができ、後ろから忍び寄る人はいないという安心感をもつと、最も快適に感じて生産性が上がるのだ。
『The Shaping of Us』の著者リリー・バーンハイマーは、心理学専門誌『Psychology Today』のウェブサイトに掲載された記事で「『忍者に忍び寄らせない席』に座ると実際、仕事に対する集中力が増し、認識力の向上が見られる」と書いている。
それは理解できるだろう。誰かが自分の後ろでコソコソ動き回っているのを好む人はいないし、こっそり忍び寄られて驚かされるのが大好きだという人にも会ったことがない。
壁を背にした場所で、窓の外が見える席が好まれる傾向にあるのは、美しい景色を垣間見るためだけではなく、自分に忍び寄ってくる者を警戒するためでもあるのだ。
もちろんわれわれが、クマやライオンに後ろから襲われないよう、洞窟の奥に身を潜めて自分を守っていたのは、はるか昔のことだ。
しかし人間の本能として、自分の周囲を管理したい、降りかかるかもしれない危険に注意を払いたい(ちょっとした兆しでさえも把握したい)という気持ちは残っている。

隠れ家から周囲を見渡せる環境

そしてそれは、今のわれわれの働き方に大きく影響している。
バーンハイマーは、地理学者ジェイ・アップルトンの理論(NP注:人間は、隠れ家的場所から周囲を見渡せるような環境を好むという「見晴らし=隠れ家理論」)を引き合いに出し、「こうした進化論的嗜好は、歴史的に人間が定住する環境を決める際の重要な要因だった」と語る。
そしてそれが、今のわれわれの働き方に、実に密接なつながりがあるという。
バーンハイマーはまた、「眺めの良い場所で仕事をしている人は、そうでない人より生産性が6~12%上がる」という調査結果があると説明する。
もちろん、すべてのデスクが壁を背にし、窓から素晴らしい景色が臨めるオフィスをつくるのは実際には難しいが、働く人のほとんどが、見晴らしが悪い場所より見晴らしがいい場所を好むのだ。
それでも、あなたの会社にもできることはある。とくに、広いスペースのまん中にすべてのデスクやテーブルを配置するオープンフロア方式を考えているなら、少し別のやり方を検討できるだろう。
どうすればチームの生産性を上げることができるかを考えるにあたり、次のいくつかの点を心にとめておいてほしい。
1. 誰もが同じように働くわけではない
1つのレイアウトが全員によいと決めてかかるのではなく、チームのメンバーが一番快適で、仕事の効率が上がる方法を考えよう。
オフィスの隅や仕切られた自分だけの空間で壁を背に座る方が効率がよい人もいれば、窓のそばの方が生産性が上がるという人もいることを考慮しよう。
バーンハイマーはこう語る。「オフィスの中に2つの嗜好を取り入れるためには、デザイナーは空間を上手く利用して作業スペースを配置すべきだ。壁やパーテーションを背にしたデスクや窓から外が見渡せるデスクなど、さまざまなスタイルで配置するのがよいだろう」
多様な選択肢があり、それぞれが容認されることをチームに伝え、各自の好みにしたがってさまざまな形で仕事をすることを標準化しよう。そうすれば、みなが同じ配置ではないことに、懸念や問題が生じることはない。
2. チームに権限を与え、一番よい方法を選択させる
特定のワークスペースを割り当てず、その日その日で都合のよい場所で仕事をする「ホット・デスキング」というやり方がある。
個人的にはその信奉者ではないのだが、好みに従って選択してもらうやり方も、悪くはないと思っている。ホット・デスキングの真の意味は、チームの嗜好や個性に合うシステムをつくることだ。
たとえば、それぞれが自分のワークスペースを割り当てられている場合でも、各々どういう働き方が一番よいかを言ってもらい、そうしたニーズに合うさまざまな選択肢をつくる。
つまり、オープンスペースや仕切られた一人用スペース、リビングのようなスペース、会議スペースなどを組み合わせ、最も快適な場所を自由に選んで仕事ができるようにするのだ。
3. 部屋の隅の席にいるのは、非社交的だからではない
私は、あなたが知っている中でもかなり社交的な部類に入る人間だと思う。だが、内省的でもある。つまり、人と関わって共同作業をするのは大好きだが、それによって消耗するのも事実だ。
そこで、腰を据えて仕事をしなければならないときは、注目されない離れた場所に座りたい。
私はいつも壁際の場所を探し、壁を背にして座る。コーヒーショップでもレストランでも、空港やオフィスでも、どこでもそうだ。それでも人は、私に近づいて会話することはできる。忍者のように後ろから忍び寄れないだけなのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jason Aten/Writer and business coach、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:onurdongel/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.