家入一真が起業⇔投資で気づいた、生き延びるための6つのアドバイス

2019/10/17
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ史上最年少で上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。他にもBASE、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の世界展開、50億円規模のベンチャーキャピタルNOWの設立など。
「成長する組織で、問題のない組織なんてない」
「株式でも借金でも寄付でも、責務が発生することを忘れてはならない」
「起業家としてビジネス面でも、メンタル面でも、実際にでも、“死なないで”ください」
 など、起業家と投資家、二つの顔を持つ家入一真氏が、全3回の集中講義「起業家のためのクリティカル・ファイナンス」ゼミで最終講を飾った。
 経営者として「GMOペパボ」や「CAMPFIRE」「BASE」などを立ち上げ、投資家としてこれまで100社以上のスタートアップ企業に投資も行ってきた家入氏が、自身の成功と失敗経験をもとに、起業家たちへ実感のこもった激励を送った。
最前線の投資家や起業家を訪ね、激動のビジネスを巡る連載企画「スタートアップ新時代」。創業期のスタートアップをPowerful Backingするアメリカン・エキスプレスとNewsPicks Brand Designの特別プログラムをお届けします。

3度の起業が投資家のスタンスに影響を与えた

家入 僕はGMOペパボ、BASE、CAMPFIREなど様々なケースでの創業に携わってきたのですが、これらの経験は今現在の「投資家としての考え」に影響を及ぼしています。
 かつてエンジェル投資をしていた時は「ちょっとやってみなよ」って気軽に応援する気持ちで若い起業家に出資をすることも多かったのですが、この数年、起業や資金調達がカジュアルになっていく中で「果たして気軽な投資が起業家にとって良いことなのか」を投資家の責任として考えるようになりました。
 そもそもエクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)をするっていうことは、基本的には株式価値を高め続けるという経済圏を選ぶ、ということです。その手段が果たしてすべての起業家や会社にとって、本当に良いことなのか、問い続けるべきなんじゃないかって思うようになって。
 その中で僕は、投資としてはエンジェルはやめて、VCという形で投資をしていく仕組みにしていきたいという考えに至りました。僕は投資家としての顔を持ちながら、起業家として上場も多くの資金調達も経験している。だからこそ「投資家はこういうことを求める」「こういう言葉を欲している」ということがわかります。
 それが僕の良いところだと思っているので、投資をしつつ起業家に寄り添う形でサポートできる仕組みにできないかと思い、現在はあえてエンジェル投資はやめて、NOWというVCを立ち上げて投資しています。

ファイナンスのリテラシーを深めることが自己防衛につながる

 前置きが長くなってしまいましたが、みなさんには今までの経験を踏まえ、起業家と投資家という二つの立場から、企業が生き残るための経営にまつわる具体的なアドバイスができればと思います。
 6つあります。
 まず企業のファイナンスを考える上でもっとも必要なのは、経営者自身のリテラシーを深めることです。投資家・起業家共に知識不足からくる、契約内容が原因で起きるトラブルも少なくありません。
「エンジェル投資家に、株主構成の大きなパーセンテージを与えることを握ってしまったせいで、次のファイナンスになかなかつながらない。しかも少額資金で契約してしまったのですぐにお金も尽きそう」といった、恐ろしい相談を持ちかけられることもあります。
起業や資金調達がカジュアルになるのは良いことですが、カジュアルになることで問題も増えます。リテラシーの疑わしい投資家との遭遇率も増えるでしょう。最初から投資家に何かしらの悪意があった場合は別として、起業家側にファイナンスの基本的な知識があれば、こういったトラブルは防げたかもしれない。つまり、起業家自身もある程度ファイナンスを学ぶことが、最終的な自己防衛策になるのだと思っています。
「意思決定には2つのタイプがある。1つは意思決定前の状態に戻れる決定、もう1つは決定前の状態に戻れない不可逆な決定である」というジェフ・ベゾスの言葉がありますが、ファイナンスは後者のケースが圧倒的に多い。後戻りできないような決断を迫られるからこそ、起業家側は知識を身につけ、学んでいくことが重要になります。
「エクイティ・ファイナンス以外の手段」も、知識として身につけておくべきです。つまり、資金調達の肝は「どの経済圏で生きるか」を判断すること。
最近はクラウドファンディングという方法の中に融資型・投資型という分岐もありますし、STO(セキュリティー・トークン・オファリング)という方法もあります。また、NPOなどの社会起業であれば寄付や助成金もありますよね。
僕が最初に起業した頃に比べたら、圧倒的に資金調達の選択肢は増えました。ただ、どの方法をとったとしても、自己資金以外は、お金をもらうことへの責務が発生します。
たとえ寄付であっても、頂いたお金をどう社会に還元していくかを考えないといけない。資金調達、他者のお金を預かるって、そういうことなんです。その視点が抜けた資金調達は、持続可能性に欠け、どこかで絶対に行き詰まります。それを忘れてはいけない。
先ほど起業家のトラブルについて触れましたが、「資金調達が決定していたはずなのに一方的に契約を白紙にされた。候補に挙がっていた他の投資家にはすでにお断りしてしまっており頼れず、お金が底を尽きてしまう」という相談を受けることもあります。
資金調達が一件決まったから安心、というやり方をしていると、その一件で何かしらのトラブルが起きた際、後でしんどいことになるケースも往々にして起こります。だから常に複数のプランは並行させるべきです。
逆に、ある程度余裕がある時は焦りは禁物です。
先ほども言った通り、ファイナンスにはそれ相応のリスクがあるので、無理にファイナンスをしまくる、という必要もありません。それよりも重要なのは、アクセルを踏むタイミングを見誤らないこと。継続して次のファイナンスを見据えることが重要です。
「起業とは崖から飛び降り、衝突するまでに飛行機を組み立てるようなもの」というリード・ホフマンの名言があります。確かにその通りなんですけど、ちょっと格好つけすぎというか、崖から飛ぶ前に飛行機が組み上がっている方がいいに決まってますよね(笑)。そういうやり方では、大体のスタートアップは地面に衝突して終わってしまうことになります。
 自分たちの資本が底をつくギリギリを狙うようなチキンレースは避けたほうがいい。大事なのは、一緒に働く仲間がいて、お客さんがいて、様々なリスクもある中で、どう死なずに生き延びるのかを考え続けること。そういった経営者の役目は忘れてはいけません。リスクを取ることと、一か八かの賭けに出ることはまったく違います。
 企業が成長する際のタイミングや手段が明確化した上で、株式による資金調達をしたい、という判断に至ったとします。そこで重要なのは、投資家にお金だけではなく何を期待するかを明確にすることです。
 僕自身はエンジェル投資家を「自分自身も起業家ないし元・起業家で、自分の経験をもとに、投資後も起業家側に立ってアドバイスができる人たち」であると捉えています。時には次のファイナンスにおける相手先とも一緒に戦ってくれるような人たちです。
 特に、初期のファイナンスは仲間づくりや応援団づくりに近い。エンジェル投資家の知見に委ねてサービスを改善する、という可能性もあり得ます。
「信用できる」「専門領域からアドバイスができる」「エグいことを言わない」など、自分が求める仲間の像を浮かべつつ、様々な観点から見極めるべき。お金だけを出して、経営に口出しを一切しない株主や投資家もたくさんいますが、エンジェル投資家を回る時は、どういう価値を提供してくれるのか、その人の得意分野を判断しながら相談するのも良いかもしれません。

起業家の「怒り」が事業継続の力になる

 そして最後に僕から、いち起業家として「スタートアップ起業家がどういうスタンスであるべきか」をお伝えさせてください。
 昔、ある投資家に「投資家っていうのは気持ちよく騙されたいだけなんだよ」って言われたことがあります。もちろんその言葉の通り投資家を騙していいということではなく、たとえどれだけ無謀で周囲から絶対無理だと言われるような事業でも、一緒の船に乗りたい、一緒の夢を見たい、と思わせられるかが大事だということです。
 どういう未来を思い描き、どういう世界を作りたいと思っているか。その景色を一緒に見たいと賛同してくれる人が、お金と共に、「思い」を投資してくれるんです。根拠やバリエーションの正当性を作ること、数字を明確にしたり、株価の根拠を考えることも重要ですが、その先にどういう世界を描くのかが見えてこなければ、結局はグラグラしてきます。
 これはこの企画のインタビューでも話しましたが、僕は起業家から相談を受ける時、ビジョンを掘り下げるための質問としてまずは「なぜあなたは起業するのか、なぜあなたが起業しなければならないのか」を聞きます。
ビジョンが明確にならなかったり、言葉で落とし込めない、という人でも、掘り下げて聞いていけば、自身でも気付かないドロッとした思いが出てくる。既存の社会に対する怒りや不満を何かしら持っているはず。
僕はそれの言語化をサポートし、その「怒り」にかけたいと思っています。なぜ僕が怒りにこだわるか。それはその気持ちこそ「事業を諦めない」ということにつながっていくと考えているからです。
生き残るスタートアップ起業家に共通しているのは、経営者としての向き・不向きなんかにとらわれずに打席に立ち続けている人たち。初打席で三振して「やっぱり自分には向いてなかったです」なんて途中で諦めちゃう人が大勢いる中で、三振しても三振しても立ち続けた人が、最終的にヒットやホームランを打っている。デッドボールを食らって、這いつくばってでも立ち上がる人というのは、底に怒りを持っている人だと思います。
実際、自分が投資した先で最終的に「投資してよかった」と思える起業家というのは、途中で心折れる瞬間を何度も経験しながらも「もう一回やってみます」と諦めない人です。
とはいえ、日々みなさんの周りには問題が起きていて、本当に折れて立ち直れないんじゃないか、っていうことが多々あると思います。
軌道に乗り始めたときですら、立ち上げメンバーが離脱したり、不穏な空気が立ち込めたりするなど、何かしらのアクシデントは起きる。状況がどんどん変化して、一気にしんどくなったりすることもありえます。
そんな苦しい状況でも忘れてはいけないのは「問題のない組織なんてない」ということ。むしろ、問題がなくなった瞬間というのは、組織の成長が終わった時だと思ってください。常に痛みや問題があるものです。大事なのは、問題があることを前提に、その問題とどう向き合っていくかや、問題をどう解決していくかを考え続けることです。
先輩経営者に「自分に解決できる問題しか起きないように、世の中はできている」と言われたことがあります。確かに僕自身に数兆円レベルの問題が起きることはなく、頑張れば解決できるくらいの問題しか起きていない。
つまり何が言いたいかというと、死なないでください。比喩としても、起業家としても。一つひとつの問題は辛いかもしれません。複数の問題が一気に重なることもあります。ですが、起業家としての心を持続可能にしてください。
ファイナンスもそう。行き詰まった時は株主にちゃんと相談して、あとくされなく会社を畳むということも一つの手段。調達せずに耐え忍ぶのも選択のひとつです。

隣の起業家は敵ではなく、切磋琢磨し合うライバル

レクチャーの最後、「困った時は連絡してください」と自身の連絡先をスクリーンに投影した家入氏。講義終了後の懇親会では家入氏と名刺交換をする長蛇の列ができ、経営者としての悩みを相談する参加者の姿も見受けられた。
「戦うべき敵を見誤ってはいけない。同世代の起業家や、競合する起業は敵ではないんです。誰が数十億円調達したとか、そういうことで焦るのは、本質的ではない。それよりも自分たちが向き合うべきなのは、目の前のお客さんや、実現したい世界であるべきですよね」
家入氏は講義の中で、こう述べた。当初は「ファイナンスのリテラシー」を集中的に深める目的として開催された「起業家のためのクリティカル・ファイナンス」。最終日の懇親会でも議論し合う参加者たちの様子からは、全3回の講義が授業としての意味合い以上に、切磋琢磨し合うライバルと出会う場にもなったことが窺えた。
(編集:中島洋一 構成:高木望 撮影:工藤裕之 デザイン:月森恭助)