【清武英利】私が大阪特別回収部「トッカイ」を追う理由

2019/10/18
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、ジャーナリストの清武英利氏だ。
読売新聞で長年記者生活を歩み、2004年より読売巨人軍へ移った。読売巨人軍では代表兼編成本部長を務めたものの、2011年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任された。
解任理由は、読売巨人軍の渡邉恒雄取締役会長への告発に関する問題で、「清武の乱」とも呼ばれている。
読売巨人軍を離れた後、清武氏は、ノンフィクション作家として活動を続け、山一證券やソニーなどの経営破綻やリストラなど企業で働く人のドキュメンタリーを書いてきた。
そして、今年4月、『トッカイ-バブルの怪人を追いつめた男たち』を上梓(じょうし)した。
「トッカイ」とは、日本の不良債権回収を一手に引き受けた整理回収機構の一組織である「大阪特別回収部」の通称だ。
整理回収機構は、いわば、国が作った債権取り立て会社で、バブル経済崩壊の象徴とも言える。
清武氏はなぜ今「大阪特別回収部(トッカイ)」をテーマに選んだのだろうか──
清武英利(きよたけ・ひでとし)ジャーナリスト 1950年、宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、1975年、読売新聞社に入社。東京本社編集委員、運動部長などを経て、2004年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に。現在はノンフィクション作家として活動。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社+α文庫)で2014年度講談社ノンフィクション賞。『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社)で2018年度大宅壮一ノンフィクション賞読者賞を受賞(撮影:鈴木大喜)

「一方の真実」を取り返す

──今回の『トッカイ』を書くにあたり、いつ頃から取材をしていたのですか。
清武 出版は、たまたま平成が終わる時期に差しかかりましたが、取材は3年半ぐらい前からやっていたんですよ。
整理回収機構初代社長の中坊公平さん(故人)にも何回か会ったことがあって、バブルの清算については非常に強い関心を持って、ずっと気になっていました。
──今回の作品では、当時トッカイが手掛けた数々の案件について、貸し手と借り手、双方の立場の人間模様を織り交ぜて、両者の攻防を描いています。
事実とはプリズムみたいなもので、多面的です。その事実に迫ろうとする場合、2つのアプローチがあると思います。
プリズム(写真:iStock/sitox)
例えば、新聞社の政治部や経済部の記者であれば、当時の大蔵省(現・財務省)の局長や大臣、担当者たちに話を聞いて、そこから構成するやり方があります。いわゆる権力側というか、為政者側から聞くやり方です。
それも真実の一つだと思いますが、僕はもともと社会部の記者だし、そういうやり方は取らないんですよ。