なぜベルマーレは走り続けるのか。忖度しない指揮官の「誠意」

2019/6/26
*湘南ベルマーレの曺貴裁(チョウ・キジェ)監督のインタビュー後編。前編はこちら
若手選手が行きたがる、湘南ベルマーレのすごいマネジメント術

「ちゃんとやれ」で通じ合える

──5月17日の浦和戦で0対2の前半31分、ゴールラインを割ったシュートを審判が得点と認めない“幻のゴール”がありました。ハーフタイムで試合放棄も念頭に、選手たちに「この試合をどうするかは、お前たちの選択次第だ」と言ったのは、どういう狙いがあったのですか。
 僕の中で完全に入っていたゴールが、「入っていない」と言われて。
でも(審判が判断して決めるのが)ルールだから、そのままプレーが始まったので、とやかく言っても仕方ないと思っていました。
これは誤審レベルでは済まないと思ったけど、でも今、現実に試合があるわけだからと思って、ハーフタイムにロッカールームに帰ったんですね。
そうしたら選手は、誰も誤審のことを話していなかった。「後半こうやってやれば、まだ全然いけるよ」と話していた。
僕は、それに感動したんですよね。僕が選手なら、監督やコーチに、「入っているのに、あの判定は納得できないですよ」と言っちゃうなと思って。
今、この選手たちに「後半、こういうことを修正して」とか「誤審を忘れて」と言うのは、彼らが忘れているんだから意味がない。
そうかといって僕があの判定を忘れたかのように、戦術の指示だけをして送り出すのも違うなと思ったんです。
かける言葉がないから、「お前ら、(このまま試合を)やるのか、やらないのか、どっちなんだ?」と聞きました。「やらない」なんて言うとは、みじんも思ってないですよ。
「これじゃあ悔しいから、やります」と言うと思ったけど、選手たちがそう思っているのに、僕の言葉を聞いて「やっぱりやれないです」と言われたら、後半をやらなくていいやと思った。
それは、僕が責任を取るということです。
でも、選手は「やらない」とは一言も言ってないし、あの判定に対して何も言っていない。あのハーフタイムで何も言わなかった選手は、真実として素晴らしいなと思いました。素晴らしいというか、「こいつら、すごいな」と思いました。
だって、2対0と2対1では全然違いますから。
曺貴裁(チョウ・キジェ)プロサッカー監督。1969年京都府生まれ。現役時代は浦和レッズなどでプレー。ドイツで指導者として学び、各年代のコーチを経て2012年、湘南ベルマーレの監督就任。昨季ルヴァン杯を制した
──誤審に文句を言うチームや選手は少なくないですが、そういう態度はスポーツパーソンシップに反します。プロ選手は競技に生活がかかっているだけに、ああいう場面でもフェアプレーをできていることがすごいと思いました。
今年の反則ポイントは、うちのチームがダントツで一番多いです(15節終了時)。イエローカードが多いので。
でも、異議遅延は1個もありません。
選手たちに言おうと思ってずっと言い切れていなかったのは、意図的に相手を壊そうとしたファウルではなく、相手に激しく行きすぎたけど(プレーの意図としては)仕方なかったと思うファウルがすごく多い。
先日初めて、「イエローが多いので、少し気をつけろ」と言いました。でも、そういうプレーをやらせているのは僕だし……みたいなところもある。
僕はすごくファジーな言葉で、「フェアプレーをちゃんとやれよ」とよく言います。もし“普段”がなかったら、「ちゃんとやれって、何?」ってなりますよね。
でも「ちゃんとやれ」というのが、選手に浸透している感じがあります。