【新】電車vs自動運転車。「モビリティ頂上決戦」が始まった

2019/6/17

自動運転時代の「生存方法」

100年に1度といわれるモビリティ革命で変わるのは自動車だけではない。
国民の足として生活を支えてきた「鉄道」もまた、大きな変革期を迎えている。
2019年6月初旬。静岡県の東部に位置する伊豆市で、それを象徴するようなイベントが開催されていた。テーマは、鉄道の未来。
自動運転車やライドシェアの普及が予想される中で、いかにして鉄道は生き残るのか。その未来図について議論が交わされたパネルディスカッションでは、150人もの参加者が熱い視線を送っていた。
「自動運転車が実装されれば、鉄道の価値は大きく下がってしまうかもしれません。参加した鉄道関係者の誰もが、鉄道の未来に危機感を抱いていました」(東急電鉄 交通インフラ事業部 主査 長束晃一氏)
(写真:neoellis/iStock)
door to doorで移動を提供できる自動運転車は、駅間輸送しかできない鉄道にとって、脅威になり得る存在だ。
もし自動運転が実装され、誰もが自動車に乗れるようになれば、鉄道の利用者が減り、ビジネスはいつか限界を迎えてしまう。
そうした危機感から、鉄道各社は新しいビジネスモデルを構築すべく、日本各地で実証実験を開始している。そしてその最前線こそ、この伊豆エリアだ。
伊豆の交通を担う東急電鉄が中心になって開発した「IZUKO」は、観光エリアの経路検索から、予約・決済までが可能なマルチモーダルアプリ。
経路検索には、鉄道の他にバスやタクシー、レンタサイクルなどが組み合わされて表示され、好みに合った手段を選択できる。
また、乗客の需要に応じて運行をするオンデマンドバスの配車も可能で、駅から観光スポットまでのラストワンマイルを埋める役割を果たしている。
伊豆は観光客の8割が自動車で訪れる超クルマ社会。そんなアウェイな場所で実証実験が成功すれば、きっと新しい鉄道のビジネスモデルが見つかるはずだ。
イベントに参加した鉄道関係者たちは、そんな期待を胸に秘めながら、来たる大変革時代に向けた生き残り策を模索していた。
(写真:imagefactory-studio/iStock)

「鉄道vs自動車」の第2幕

そもそも自家用車と鉄道の戦いは、今に始まったことではない。実は鉄道はこれまで1度、自動車との戦いに敗れた歴史がある。
それが鮮明に現れたのが1964年。東海道新幹線が「東京〜新大阪間」で開業したその年だった。
当時、新幹線の運行開始は国民的イベントで、戦後の日本復興の象徴として、国民の誇りでもあった。
しかしその裏側で日本国有鉄道(国鉄)は、1949年の開業以来初めて赤字に転落していた。高度経済成長によって国民が自動車を手に入れたことで、鉄道の乗客が少しずつ自動車に奪われていたのだ。
その後も乗客の流出は続き、ついに1987年、国鉄は37兆円という巨額の累計債務を抱えて解体された。債務解消の大部分は国が肩代わりし、国鉄も10万人のリストラという大きな出血を伴ってJR7社に分割された。
それから約30年。自動運転技術の登場によって、自動車は再び鉄道の脅威になろうとしている。鉄道と自動車の戦いの第2ラウンドが始まろうとしているのだ。
(写真:chinaface/iStock)
さらに、人口減少という社会変化も、鉄道ビジネスを苦しめている。
そもそも鉄道は、線路と車両というハード同士の組み合わせで1つのシステムを成す、超巨大な装置産業。投資・維持コストを、「人の移動運賃」で稼ぐシンプルなビジネスモデルで成り立っている。
そのため、人口そのものが減ってしまえば、単純な移動ビジネスだけでは、利益を生めなくなってしまうのだ。
JR九州の初代社長を務めた石井幸孝氏の試算では、人口が1億人を割る2050年には、旅客事業を営むJR6社の鉄道ビジネスのうち、利益を生めるのはJR東日本とJR東海しかなくなるという。
さらに人口減少が進めば、いずれ全ての鉄道ビジネスが立ち行かなくなってもおかしくはない。自動運転車の到来と人口減少。鉄道会社には今、2つの逆風が吹き荒れているのだ。
NewsPicksは今回、そんな鉄道の未来を多角的に占っていく。

「鉄道の未来」を提案

まず初回は、逆境におかれている鉄道界へのユニークな提案をお届けしたい。
JR九州の石井幸孝氏とヤマトホールディングスの木川眞元会長が提唱するのが「新幹線物流」だ。
2人によると、日本列島の大動脈として張り巡らされる新幹線網は、これからは人だけでなく「モノ」を運ぶためにも使うことで、さらなる利益を生めるという。
新幹線物流は、出口が見えない物流問題への解決策としても有効で、JR東日本など、すでに実験に取り組んでいる企業もある。
石井氏と木川氏の対談は、鉄道だけではなく物流の未来にとっても示唆に富んだ、貴重な内容になっているはずだ。
【トップ対談】JR×ヤマトHD。日本を救う「新幹線物流」の全て
2日目は、鉄道会社が考える「4つの未来図」をインフォグラフィックでお届けする。
鉄道会社は来たる人口減少時代に向けて、古くからビジネスの多角化を進めてきた。不動産やホテル開発、百貨店などの小売事業を掛け合わせた「街づくり」は、鉄道会社の得意とするところだ。
モビリティの変化によって、鉄道ビジネスと街づくりはどう変わっていくのか。未来の通勤・通学風景や都市のあり方を想像しながら、読み進めてほしい。
【完全解説】電車が生き残るための「4つの未来ビジネス」
3日目は、未来の鉄道の実験現場からレポートする。東急のIZUKOや、西日本鉄道による福岡での実証実験を体験し、リアルな使い心地と課題をお届けしたい。
東急や西鉄をはじめ、多くの企業が、鉄道、バス、タクシーなどを統合したマルチモーダルアプリの開発を進めているが、日本には複数の交通事業者が存在し、そうしたライバル同士を束ねることは決して簡単ではない。
日本の交通網の課題が浮き彫りになった、現場感あふれるルポになっている。
【現場ルポ】日本でも動き出した「MaaS実験都市」を歩いてみた
また特集の後半では、鉄道会社の未来図を語るのに欠かせないピースを埋めていく。
鉄道やバス、フェリーなどの交通手段を組み合わせてルートを提案する経路検索アプリもその1つだ。
普段、何気なく使う経路検索だが、その裏側には独自のテクノロジーと、知られざる企業努力が隠されている。
例えば、最大手のナビタイムジャパンは、11年という歳月をかけて全国に500以上あるバスの時刻表と停留所の場所を把握し、データ化している。
こうした経路検索アプリのデータがなければ、グーグルマップの経路検索は機能しないといわれる。地図を提供しているゼンリンとともに、これから注目しておきたい企業だ。
【実録】グーグルマップを超える「最強アプリ」を作った男
これから起こるモビリティ革命は、鉄道にどんな変化をもたらすだろうか。そして我々の生活をどう変えてくれるだろうか。
今回の特集で、その未来図を楽しみながら想像してみてほしい。
(執筆:泉秀一、デザイン:九喜洋介)