【農産物】ECサイト化で日本の農業はまだ伸びる

2019/6/15
新たに就任した「U-30 」のプロピッカーが、"数字"をキーワードに捉える「令和の日本」。それぞれの専門分野について、若きエキスパートが考える現状や課題とは?
とれたて新鮮なご当地野菜が手に入る農産物直売所やマルシェ。今や1兆円超えのその市場には、まだまだ成長の余地があると、秋元里奈さんは考えています。生産者も消費者も、日本の農業も明るくするその取り組みについて紹介してもらいました。

成長を続ける農産物直売所

地域の農産物生産者が持ち寄った野菜やくだものなどが販売されている「農産物直売所」。道の駅に併設されているところも多く、旅先などで利用したことのある方も多いでしょう。
JA新潟みらい「ファーマーズマーケット いっぺこ〜と」
農産物直売所の平成29年の市場規模は1兆790億円(下グラフ参照)。全国の農業生産関連事業による年間総販売金額2兆1044億円の半分超(51.3%)を占めています。
出典:農林水産省「第6次産業化総合調査」より「農業生産関連事業の年間販売額の推移」
平成21年の同調査では8767億円だった市場規模は、10年間で2000億円以上、約23%も成長したのです。直売所では売り上げの大部分を農作物などの生鮮食品が占めるため、生鮮食品の販売額は、イオンなど売上高数兆円規模の小売店に匹敵するとも言えます。

都市型マルシェのメリット・デメリット

農産物直売所の市場規模が拡大する一方、都市部では農産物生産者が少ないため、ニーズに対する直売所の数は限られています。
そこで都市部では、公園や商業施設などの一角に臨時に設けられたスペースに生産者が食材を持ち寄って販売する「マルシェ」が数多く開催されています。有名なところでは勝どきの「太陽のマルシェ」や表参道の「青山ファーマーズマーケット」などがあり、東京・神奈川だけでも20ほどのマルシェが定期的に開催されているようです。
生産者から見ると、マルシェへの出店には「こだわり食材を求める消費者と直接つながれる」という大きなメリットがあります。また、既存の流通では、生産者には価格決定権がなく、割高な手数料のために利益が低くなるという課題がありますが、マルシェへの出店によって固定ファンを獲得できれば、宅配など利益率の高い方法で販売できます。さらに、消費者からのフィードバックを受けられるため、生産者のモチベーション向上にもつながります。
その一方で、以下のようなデメリットもあります。
野菜の生産者さんから聞いた話では、土日の2日間マルシェに参加する場合、出店費・交通費・宿泊費などで少なくとも3万円ほどかかり、一方で売り上げは5万円程度。人件費も考えるとほぼ赤字です。また雨天の場合は1日の売り上げが1万円にも満たないこともあるそうです。
実際に弊社がマルシェに出店した際には、1日の売り上げは5000〜2万5000円でした。周囲を見てみると、利益ではなく固定ファン作りを目的にマルシェに出店されている方が多い印象を受けました。
農産物生産者がきちんと利益を得られる販路チャネルはないものか。そう考えていた際に、FRIL(現ラクマ)やメルカリで農作物が販売されていることを知り、母が家庭菜園で作った農作物を販売してみたのです。この経験から、フリマアプリでは安い商品は売れますが、高付加価値の商品は売れづらいということに気付きました。
では、「青山ファーマーズマーケット」で販売されているようなプロの生産者が作る農作物を「メルカリ」のような形式で販売するには? このような着想から生まれたのが、マルシェのメリットを生かした“オンラインの農産物直売所”「食べチョク」です。

リアル直売所以上の価値を

私たちが運営するECサイト「食べチョク」には、全国300軒以上の生産者がこだわりの農作物や加工品を出品しています。消費者はスマートフォンやPCを通じて、新鮮で、各地の特徴のある商品を生産者から直接お取り寄せできます。
生産者から直接購入することができる
冒頭で挙げた農産物直売所の年間総販売額1兆790億円は、ほぼ全てリアル店舗だけのもの。消費マインドのトレンドやスマートフォンの普及率を考えれば、直売所のEC化が今後ますます進むでしょう。そして、ECサイトでの売り上げが加わればこの数字はさらに伸び、農産物生産者により大きな利益をもたらすはずです。
そこで私たちはECサイトならではの手法で消費マインドを刺激し、農産物の売り上げに貢献する仕組みを作りました。
(1)生産者とコミュニケーションが取れる
サイトを通じて、生産者におすすめの食べ方を質問したり、商品の感想を届けたり。まるで親戚とやりとりするような距離感で生産者とつながることができます。
(2)商品へのリーチを容易に
「食べチョク」には、「食べチョクコンシェルジュ」というおまかせ定期便サービスがあります。事前に「好きな野菜・嫌いな野菜」「よく作る料理」「珍しい野菜がほしいか」「食材へのこだわり」などを登録しておくと、コンシェルジュが一番マッチする生産者を選定。商品が届いた後にフィードバックを返すことでコンシェルジュは好みを学習し、さらにマッチングの精度が上がります。
(3)送料をお得に
ECサイトの利用には、送料というデメリットがあります。それを解決するために「共同購入」の機能を作りました。注文時に「何人で分ける」と設定すると、商品を分けやすい個数に調整するというサービスです。これにより、友人や近所の人と分け合うことで送料の負担を減らすことができます。また、少量の買い物ができるため、単身世帯や初心者の利用を促進する効果もあります。

生産者側にもメリットが

「食べチョク」に参加する生産者には、リアル店舗では得られないメリットがあります。
(1)物理的メリット:マルシェや直売所に足を運ばなくても消費者とつながれる。また直接出会うことが難しい、遠方に住む人とも出会える。
(2)金銭的メリット:出店費や交通費などのコストがかからない。登録は無料で、商品が売れたときのみ、売り上げに応じた手数料がかかる(売れるまではお金がかからないという点で、直売所と同じ料金体系)。
(3)情報蓄積メリット:購入者とのやりとりなどがページ上に情報として蓄積される。販売実績が信頼につながる。
このほか、飲食店向けのサービス『食べチョクPro』で、飲食店が仕入れに利用すれば、生産者はさらに販路を広げられますし、大量出荷や定期販売の道も開けます。

毎日がスペシャルメニュー

私たちは「生産者と直接つながれば、料理はもっとおいしくなる」をモットーに活動しています。生産者の顔が思い浮かぶようになるだけで、これまで何げなく作り、食べていた料理が、特別なごちそうに変わり、日々の食卓がより豊かになるからです。
生産者からの直接購入が当たり前になれば、生産者がこだわって作った農作物が適正に評価されるようになります。私たちは「食べチョク」を通じて、生産者の“こだわり”が正当に評価され、正当な収益が上がる社会の構築を目指しています。