戦わなくていい。自分の価値は、自分で決める

2019/4/29
世界最大級の音楽イベント「SXSW」に3年連続で出場し、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界各地で、着実に熱狂を生み出している日本人アーティストがいる。
名古屋発の4人組バンド「CHAI」だ。
2016年には、当時の代表曲がノンプロモーションながらSpotifyUKチャートTOP50に異例のランクイン。
昨年は、ファーストアルバムが世界で最も影響力のある音楽メディア「Pitchfork」のThe Best Rock Album 2018に選出される快挙を成し遂げた。
海外でもライブツアーを行い、アメリカでの公演には、ローリング・ストーン誌やCNNなど、大手メディアも取材に訪れた。
今、世界で最も注目されている日本人アーティストと言っても過言ではない。
CHAI(チャイ)/左から、ユウキ(Ba&Cho)、双子のカナ(Vo&Gt)、マナ(Vo&Key)とユナ(Dr&Cho)。コンプレックスを歌った楽曲が若い女性を中心に共感を呼び、一躍人気に。2017年にはSXSWに初出場を果たし、以後、海外でのツアーも立て続けに成功させている。
「NEOかわいい」、「コンプレックスはアートなり」。
自分の価値を自分で決めるという強いメッセージを世に訴えかけ、多くの人々の共感を呼んでいる。
昭和や平成は、偏差値教育やミスコンに代表されるように、人の能力や優劣が既存のモノサシで測られ、画一的な空気が世の中を支配していた。
だが、VUCAワールドと言われる不確実な時代、正解を求める旧来の価値観は薄れている。
他人の尺度を必要としないCHAIは、さらなる社会の多様化が予想される、令和の象徴とも言える存在になるかもしれない。
伏し目がちで、目立つことを恐れていた彼女たちが、なぜ世界の舞台に立つことができたのか。令和の時代を生き抜く、自分たち流の武器の見つけ方を聞いた。

自分の価値に気付いてほしい

──「NEOかわいい」という考え方が、どんなものなのか教えてください。
マナ 今ある「かわいい」の範囲がめちゃくちゃ狭いと思っていて。
例えば今だと、目が大きい、肌が白い、鼻が高い、とか。そういうのしか「かわいい」って言われない時代になっていて、それ以外をブスっていう言葉で片付けることがすごく嫌。
そもそも、みんな個性があっていいのに「なんで同じ顔を目指そうとするの?」って思うから、それ以外のことも全部褒めたくて、NEOかわいいって言葉を作ったの。
マナ(Vo&Key)
ユウキ 自分のかわいさにみんな気付いていないだけ。気付かせない世の中になっちゃっている。
正解はこれって決められているから、正解から外れている私たち。みたいになっちゃう。
でも、そもそも持っているからね。それは絶対、押さえつけて隠そうとすることじゃなくて、むしろ、見せてあげていいくらい素晴らしいものだと思う。「気付いてー!」って感じ。
──でも私はコンプレックスを自虐ネタにしてしまうこともあります。
ユウキ 例えばそれで、自分の特徴を生かしてみんなの幸せになる顔が見たくて笑わせたいのなら、別にいいと思う。
ただ、傷ついて悲しいのに、やらなきゃいけないって勝手に思っているのなら、違うなって思う。
渡辺直美さんなんかさ、体型を存分に生かしてもはや自虐を超えているし、面白いじゃん。
みんなが幸せになって、かわいいとも思うし、それはいいと思うんだよね。自分しかできない仕事にしているから。
ユナ 笑いを取るために渋々やっているんだったら、「身を削らないで」ほしいなって思う。
マナ 私たちは前向きにしか言ってないよね。後ろ向きには言っていない。
──NEOかわいいは、どうやって生まれたのですか?
カナ 名古屋で活動していた時、私たちのことを「NEOたち」って呼んでいた人がいたの。
ユナ 私たちを見て、「NEOたちだねえ」って。「NEO」っていい言葉だなって思った。
──変わった人ですね。
ユウキ その頃、「音楽でやるしかない!」と思っていて、バンド活動に芯が欲しい、芯を表す言葉に名前が欲しい。
というところから、「コンプレックスはアートなり」とか、より伝えやすい、「NEOかわいい」という言葉を作った。
NEO=「ニュー・エキサイト・オンナバンド」と定義して、自分たちのことをまずNEOと表した上で、伝えるかわいさは「NEOかわいい」にしよう。
その方が面白いし、キャッチーだし。というふうに決めたの。
ユウキ(Ba&Cho)

世界で売れなきゃ意味がない

──コンセプトが欲しいというのは、誰かの影響ですか?
カナ 誰かに影響されたというのはまったくなくて、影響されたのは音楽だけ。
アーティストとして、何かを発信する時にちゃんと芯があったほうがいいと思って、4人で伝えたいことを考えた。
グラミー賞を取りたいという目標が最初にあったから、芯が無いとそこまで行けないと思った。
ユウキ 好きなことがぶれてきちゃうし、何が好きだったか忘れたらもうおしまいになっちゃうから。
やり続けるための目標というか、「私たちはココ!」というものがあった方がいいと思った。
──なぜグラミー賞を目標にしているのですか。
マナ 証明が欲しい。
──証明とは?
マナ 私たちが、これぐらいすごいっていう証明がグラミー賞しかないと思った。それは、レコード大賞じゃない。
日本だけで認められる音楽って世界に届かないって知っていたから、世界で売れなきゃ意味がない。私たちは、世界の音楽になりたい。
子どもの頃、身近に洋楽ってものが一切なかったんだよね。テレビから流れてくるのもJ-POPだし、ラジオなんて聴いたことなかったから。周りに何もなかったの。洋のものが。
カナ 洋楽邦楽っていう分け方も好きじゃない。音楽は音楽だから。邦楽って海外で売れないじゃん? それも嫌だし、もっと世界中で日本人が活躍した方がいいのになって。
なんか音楽だけ遅れている気がする。
ユウキ そもそも、音楽って国境を超えるものなのにね。
SXSW 2019/テキサス州オースティン

目立つことを恐れていた

──どういう学生時代を過ごしてきましたか。
ユナ うつむいていた。目立つことを恐れるみたいな。自分を消すみたいな感じだったかな…。