ニューヨーク市を拠点とするスタートアップ、アメニティー・アナリティクス(Amenity Analytics)によれば、同社のプラットフォームは決算発表に含まれているかもしれない「ごまかし」を探知できるという。

潜在的な欺瞞のサインを検知

企業が四半期決算発表を行うたびに、アナリストやジャーナリストは幹部が「言うこと」だけでなく、その「言い方」をも解析しようと努力している。
このプロセスの自動化を約束するのが、ニューヨーク市に本社を構えるアメニティー・アナリティクス(Amenity Analytics)が開発したソフトだ。このソフトは、厄介な質問をぶつけられた最高経営責任者が、答えをはぐらかそうとしている場合にそれを目ざとく見つけるという。
同社によれば、このソフトはCIAやFBIの捜査官が目を光らせるような、潜在的な欺瞞のサイン(時間稼ぎや、修飾語句の使用など)を検知する。そして決算発表での発言や公的文書での報告に関して「センチメント(感情)」を測定し、それをプラスあるいはマイナスの数値で表すという。
その目的は、投資家が情報の山をかき分けて、すばやく取引の決断を下す作業を容易にすることだ。
アメニティーは先日、1800万ドル(約20億1500万円)の追加資金を調達したばかりだ。投資したのは、保険会社AIGの元CEOであるモーリス・ハンク・グリーンバーグや、オールステート保険などだ。
同社はこれまでにも、インテルのベンチャーキャピタル部門であるインテルキャピタルや、イスラエルのベンチャーキャピタルであるステート・オブ・マインド・ベンチャーズらから支援を受けており、2017年には760万ドル(約8億5000万円)を調達している。

言葉を文脈のなかで理解する

バークレイズキャピタルは2018年10月の調査報告書のなかで、アメニティーのソフトを使っていくつかの決算発表を分析した結果を発表している。
センチメントスコアを参考に、これら企業の株を買うべきか低く評価すべきかを判断した結果、ベンチマーク指標よりも12.97パーセント高い年間リターンを達成できたという。
また同社の調査によると、言葉を文脈のなかで理解することに基づいているアメニティーのセンチメントスコアは、決算発表で最も頻繁に述べられた言葉に着目してセンチメントを測定するという、より一般的で荒削りな方法よりも優れていることがわかった。
株式調査会社のエバーコア(Evercore)が2018年11月に発表した報告書によれば、同社はアメニティーのソフトをS&P 500企業の決算発表の分析に使って成果をあげているという。
米中貿易戦争に対する市況産業の懸念は大きくなっているかどうかや、CEOたちは長期にわたる上げ相場が終わりつつあるかもしれないと考えているかどうかといったマクロトレンドを知るのに役立つという。

元ウォール街のアナリストが創業

アメニティーの共同創業者でもあるナサニエル・ストーチCEOは、以前ウォール街でアナリストやポートフォリオマネージャーを務めていた経験から、何千という上場企業の情報をより分けて、株の売り買いに役立つシグナルを見つけることの難しさを知っていた。
そんな彼がパートナーに選んだのは、イスラエル・ヘブライ大学のロネン・フェルドマン教授だった。ソフトを使ってテキストから意味を抽出する研究の第一人者だ。
2人は2015年、アメニティー・アナリティクスを設立した。
「言葉のなかには、非常に多様なニュアンスが見つかる」とストーチCEOは言う。そうしたニュアンスのなかには、その人物が嘘をついている可能性があることを示す言動も含まれる。「時間稼ぎや話題転換、曖昧な返事、常套句や専門用語の使用……こうした分類ができる要素が見つかるのだ」
アメニティーのソフトはどの産業の調査にも使えるが、ストーチCEOとフェルドマンは、自分たちがその必要性を最もよく知っている株式調査と保険から始めることにした。

テスラの決算発表を試してみると

ストーチCEOによれば、このソフトが最も力を発揮するのは、決算発表全体のセンチメントスコアや、ごまかしと見られるケースの数を、過去の決算発表の数字と比較するときだ。あるいは、そのデータを業界全体にわたってベンチマーク評価するときだという。
なかには、やたらと常套句を使いたがるCEOもいる。それは言い逃れのサインかもしれない。しかし同時に、その人が単にそういうしゃべり方をするだけという可能性も否定はできない。
一方でアメニティーは、Watsonプラットフォームを展開するIBMやグーグル、類似の分析システムを開発する一部の大手銀行らとの激しい競争にもさらされている。
アメニティーのソフトは、格付け会社のムーディーズやNASDAQ(ナスダック)、メディア大手のタイムワーナーなどで利用されている。
筆者も、テスラが2018年5月に行った四半期決算発表の写しを使って、その性能をテストしてみた。「退屈な質問」をしたアナリストをイーロン・マスクが叱り飛ばしたことで有名な、あの決算発表だ。結果は、桁外れの「ごまかし」だった。
もっとも、テスラのあの会見に関しては、ごまかしだと教えてくれるソフトなど、アナリストたちには必要なかっただろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:Andrew Rich/iStock)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.