チームのパフォーマンスを高めたいなら、まずはリーダーである自身の姿勢に目を向けよう。

4つの観点から自己を認識する

心理学者キャロル・ドゥエックは数十年にわたる研究を通して、人間が自分をどのように見るかというマインドセットは、その人のパフォーマンスやリーダーシップに大きな影響を及ぼすと主張している。
自分が率いるチームのパフォーマンスを向上させたいなら、チームを理解するより先に、まずは自身の考え方を正しく理解しよう。リーダーとしての価値を高める優れた方法のひとつが「コーチのマインドセット」をもつことだ。
平均的なリーダーの下で働いてきた平均的な従業員が、コーチのマインドセットを備え、部下の潜在力を見抜くリーダーの元に配属されたとたんに、頭角を現し始めることがあるのは、みなさんもよくご存じだろう。
リーダーシップと組織開発のコンサルティング会社、ジ・エル・グループ(The L Group)の共同創業者で『The Power of Positive Coaching(ポジティブコーチングの力)』の著者でもあるリー・J・コーランは、コーチングを通じてチームや組織の能力を育てる前に、リーダーが発するべき最も重要な問いがあると述べる。
それは「自分はいま、自分の能力を高めるために何をしているだろうか」という問いだ。優れたコーチは、チームを育てる前に、まずは自分自身を育てる。そしてそれは、自己を理解する内面の作業から始まる。
ポジティブコーチングのマインドセットは、自己認識という基盤の上に築かれるとコーランは述べる。リーダーとして意識的に、目をそらさずに、以下の4つの観点から、自身への理解を深めるのだ。

1. 自分の思考を知る

最も優れた知識とは、自分を知ることだ。そして自分を知ることは、自分の思考を知ることから始まる。「人間は、良きにつけ悪しきにつけ、自分がつねに考えていることを人生に引き寄せてしまうものだ」とコーランは言う。
「なぜ自分にはツキが回ってこないのか」「なぜ同僚のように評価されないのか」といったことをいつも考えている人は、それらの思考が現実になるように、自分(と周囲の人々)の意識をプログラミングしているのと同じだ。
「ネガティブな思考は、最高の自分を目指す道のりに仕掛けられた地雷のようなもの」と、コーランは言う。
しかし幸いなことに、その逆もまた然りだ。すなわち、つねに意識的にポジティブな思考や期待を抱くようにすれば、自分の心のなかに、未来の成功の絵を描くことになる。
「現実がネガティブな状況に陥っているときに、どうすればポジティブでいられるのか。そんな状況は日常茶飯事なのに」という疑問を抱く人に対して、コーランは次のように答える。「ネガティブな状況かどうかは、自分の解釈次第だ。状況が人の気分を上下させるのではない。状況に対する自分の考え方がそうさせるのだ」

2. 自分の目的を知る

地位や肩書に関係なく、リーダーとして自分が何をしたいかを把握しているだろうか。「優れたコーチは、他者への奉仕を自らの目的とする」とコーランは言う。
彼らが重視するのは、自分がどれだけ多くの人に奉仕するかであって、どれだけ多くの人が自分に奉仕するかではない。
優れたコーチは「良い部下が、より良い人間になる手助けをすること」を使命と感じる。そして部下を内面から育成し、ひとりの人間として、また職業人として能力を引き出す。
これは他者が求めることを優先し、チームの成功こそがリーダーの成功と考える姿勢だ。優れたコーチは、たとえ個人的には望まないことでも、チームの必要にかなう道を選ぶ。
チームに奉仕するという大きな目的の前には、個人の感情は抑えなくてはならない。チームに奉仕したいなら、チームとの結びつきを大切にして、チームに注力することだ。

3. 自分の価値観を知る

「優れたコーチであるためには、どんな人間であるかが、何をするかと同じくらい重要だ」とコーランは言う。リーダーとしての人となりは、本人の価値観に根差したものであるべきだが、残念ながら、現実のリーダーがつねにそうであるとは限らない。
しかし、日々の判断や行動を決めるのは、その時々の状況やその場の感情ではなく、自分なりの価値観でなくてはならない。「人間や仕事に対する自分の価値観が、チームをコーチングしていく上での指針となるべきだ」とコーランは述べる。
優秀さ、正直さ、オープンさといった価値観は、そのままでは明確にとらえにくい概念かもしれない。しかし、「それらを行動という目に見えるものに変換すれば、価値観を測定し、管理し、体現することが可能になる」とコーランは言う。

4. 自分の感情を知る

優れたコーチは、自分の感情をうまく操り、効果的に対処する。そうすることで、最も重要な目標を常に念頭に置きながら、感情にとらわれることなく、目指すものを周りに伝えることができる。感情的になるのではなく、感情的知性を発揮するのだ。
「感情をコントロールすることは、感情をなくすことではない」とコーランは言う。それどころか、「ほとんどの人は、それが適切で建設的なものである限り、感情を好ましいものとして評価する。感情をうまく操れるようになると、望む結果を得るために、自分や他者の感情を意図的に高めたり静めたりすることができる」
リーダーやコーチは、自身の感情を認識し、「自分の正しさ」ではなく結果を重視することで、感情的なトーンを抑えた対話を行い、頭をクリアな状態にして、望む結果を目指すことが可能になる。そうした状態は、誰にとってもメリットになる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Marcel Schwantes/Founder and Chief Human Officer, Leadership From the Core、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:kf4851/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.