テック大手を追いかけるゲーム業界

ビデオゲームの世界では誰もが平等だ。どこに住んでいようが経験に差があろうが、誰もが同じ製品をプレーする。
バルセロナの学生も日本のサラリーマンも「マインクラフト」をやっていれば、まったく同じコンテンツとシナリオを目にするし、「フォートナイト」をやっているシアトルのプレーヤーも台北のプレーヤーも、同じグライダーを手に入れることができる。
だがゲームの未来は、私たちがプレーしながら提供しているさまざまなデータに基づいてリアルタイムで行われる「パーソナライゼーション」にある。
パーソナライゼーションをめぐり、ゲーム業界はテクノロジー大手に追いつこうと必死だ。多くの企業はすでに、個々のユーザーの好みに基づき、その人ごとに異なるユーザーエクスペリエンスを提供している。
たとえば、グーグルはこれまでの検索や翻訳や電子メールからデータを集め、高度にカスタマイズした検索結果を提示している。
スポティファイはこれまでに聞いた楽曲に基づいて個々のユーザーに合わせてプレイリストを作っているし、ネットフリックスやアマゾンも過去に見たものに基づいてあなたが興味を持ちそうなテレビ番組や映画を提示する。

ゲームの内容が「十人十色」に

そうした高度なパーソナライゼーションは、ユーザーが生み出す大量のデータがなければ実現できない。なかでも最高のデータが手に入るジャンルの1つがゲームだ。
ゲーム内のあらゆる動きやクリックや社会的なやりとり、広告への反応や購入(アプリ内課金)はすべて記録され、データベースに保管される。プレーヤーとゲームの絶えざる継続的な関係ゆえに、行動に関する各プレーヤーごとの情報サンプルを長期にわたって集めることができるのだ。
ゲームには複雑で興味深い問題が含まれる。一方で科学者たちは、社会や消費者の変化だけでなく、依存や戦略思考、モチベーションについて学ぶことのできる洗練された機械学習モデルを開発している。
ゲームのデータは、ユーザーのパーソナリティーのさまざまな側面を研究する理想的な試験場となっている。たとえば、戦争ゲームは各ユーザーの戦略思考や意志決定プロセスを反映しうるし、実際に軍隊はすでにそうしたデータを訓練や採用のために使っている。
こうしたデータを使い、それぞれのユーザーの好みに合わせて変わる新しい世代のゲームが登場しようとしている。プレーヤー1人1人の個性やプレースタイルに合わせてゲームの内容は自動的に生成され、カスタマイズされる。
挑戦を好む人なら次のステージに上がるのが難しくなったり、簡単なレベルと報酬を好む人ならゲームはそうした方向に自動的に向かうだろう。ロールプレイングゲームのような高度に洗練されたゲームであれば、ゲーム内の行為を通して複雑な感情を表現できるようになるかも知れない。

仲間も対戦相手も巧みに選ぶ

チームプレーを行うゲームなら、プレーヤーの好みに従って最もいいパートナーを自動的に選ぶだろう。
「マリオカート」で競うべき相手や「クラッシュ・オブ・クラン」で最高のライバルとなるクランについても、機械学習は楽しさの最大化に向けて最良の選択ができるように手助けをしてくれるかも知れない。
そうしたパーソナライゼーションは、業界で「ホエール(クジラ)」と呼ばれるタイプのプレーヤーを引きつけ、魅了し、つかんで離さないのにも役立つだろう。
ホエールは全プレーヤーの1〜2%に過ぎないながら、ゲームタイトルの売上高の半分をもたらすような人々を指す。
アプリ内課金で1日に1000ドルもの金を使う人もおり、1つのゲームタイトルでホエールの支払ったアプリ内課金の総額が50万ドルに達するようなケースもありうる。トップクラスのホエールになると、1日に12〜16時間もゲームをして過ごすことも珍しくない。
AIを利用したゲームの進化の大半は、パワーゲーマーに限らず、すべてのプレーヤーの生活改善につながるだろう。「ポケモンGO」であれば、プレーヤーの体力とその時々の天候によって歩く距離を決められるようになるかもしれない。また、プレーヤーが最も欲しいごほうびがもらえる可能性もある。
日本の多くのゲームでは、いわゆる「ガチャ」(キャラクターやアイテムがランダムに当たるくじ)をアプリ内課金で引くことができるが、これもプレーヤーの関心に沿ったものになるかも知れない。たとえば、欲しいと思っているレアなモンスターが当たる確率を増やすといった形で。

依存パターンもデータから割り出す

この種の高度なパーソナライゼーションは、一方で問題を起こすかもしれない。それぞれのプレーヤーの好みに合わせて調整することで、たしかにゲームはより面白くなるだろう。
だがそれはとりもなおさず、プレーヤーがさらにゲームをやり、さらに多くの金を落とすことを意味する。ゲーム会社にとっては望ましいことではあるが、同時にプレーヤーがゲーム依存に陥る可能性もある。
もっとも、ゲームが集めた膨大なプレーヤーのデータを使い、心理学者や社会学者が依存的・病的な行動パターンについての研究を深めることも可能だろう。そうした研究に基づき、当局はプレーヤー保護のために適切な規制を導入するかもしれない。
日本では、ギャンブルに非常に近いとして「ガチャ」は規制の対象になっている。高度なパーソナライゼーションに、さらに具体的な規制が必要になるのは明らかだ。
データによるパーソナライゼーションは、仮想世界のあり方を完全に作りかえるだろう。もはや仮想世界は1つではなくたくさん存在するようになり、その多くは1人1人のプレーヤーのニーズと期待に合わせて調整されることになるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:África Periáñez/CEO of Yokozuna Data、翻訳:村井裕美、写真:fredmantel/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.