「24時間営業」は必要か?みんなで考えるコンビニの未来

2019/3/18

世論を巻き込む「大騒動」に

それが1カ月後の大騒動に繋がろうとは、誰も思わなかったはずだ。
2月1日、あるセブンイレブンのお店が、ひっそりと深夜営業を廃止した。時短営業に踏み切った大阪府の南上小阪店は、セブンイレブンジャパンと契約を結んだフランチャイズ(FC)店。理由は、人手不足だった。
しかし、これにセブン本部が反発。時短営業は契約違反だとして、1700万円の損害賠償を突きつけたとされる。
(写真: Bloomberg/Gettyimages)
事実、FCの契約書には、合意のない営業時間の変更は契約解除の理由にあたると明記してあり、南上小阪店が違反したことは明らかだった。
「契約ごとなので、法律的に自分が不利なのはわかっていました。でも私はどうしても、セブンのやり方に納得ができませんでした。だから私は、オーナーを辞めることを覚悟して戦うことを決めました」(南上小阪店の松本実敏オーナー)
こうしたオーナーとの揉め事は、セブンにとっては決して珍しいことではない。きっとセブンもこの時は、難なくこの問題も解決できると思ったはずだ。
ところがこの一件は、世間を巻き込んだ大きな騒動へと発展していく。きっかけは1本のネットニュースだった。
2月19日、弁護士ドットコムはセブンと南上小阪店の対立を報道。それにマスコミ各社が反応し、一気にトラブルが知られていった。コンビニオーナーの窮状は世に広まり、24時間営業の是非が議論され始めたのだ。
世間では様々な意見が飛び交い、セブンは対応に追われることになった。
親会社のセブン&アイ・ホールディングスの株価は、この1カ月で最大9.5%も急落。3月1日には、時短営業の実験を行うことを発表している。

コンビニは「変化対応業」

これまでコンビニエンスストアといえば、「いつでも開いている」ことが常識だった。今や、老若男女に利用される社会インフラになっていることは、誰もが知るところだ。
だが、今から45年前。様々な商品が所狭しと並べられたコンビニのコンセプトを受け入れる人は、決して多くはなかった。
セブンの歴史は1974年、東京都江東区の豊洲に1号店がオープンしたことから始まった。当時のセブンイレブンの営業時間は、朝7時〜夜11時。24時間営業が始まったのは、1年後の1975年からだった。
そしてそれからセブンは常に右肩上がりで増殖を続け、今や全国に2万店を超える。
小売界の異端児だったセブンは、なぜ急成長を遂げられたのか。
日本の「コンビニの祖」として知られるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉会長は、その理由をこう説明している。
「セブンイレブンが常に業界の先駆者でいられるのは、小さな変化さえも見逃すことなく対応しつつ、組織も、社員たち自身も、柔軟に変わっているためです」(「変わる力」鈴木敏文 著より)
セブンアンドアイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉会長(写真: Bloomberg/Gettyimages)
そして、コンビニの未来についてこう結ぶ。
「日本社会にはこれからもさまざまな変化が訪れることでしょう。それにいち早く気づき、対応策を見いだせるかどうかで、ビジネスの成否がわかれます。つまり、変化対応力がなければ生き残れない時代がやってくるのです」(同)
24時間営業や公共料金の支払い。そして、いつでもお金が引き出せるATM。確かにコンビニは、時代の変化に対応することで社会インフラの地位を確立してきた。
そしてこれからの成長もまた、その変化対応にかかっているのだろう。
だが足元ではまだ、時代の変化に対応できていないのかもしれない。人手不足によって人件費が高騰し、働き方改革が促される中でも、これまで24時間営業の方針を変える動きはなかった。
また、食品ロス問題が叫ばれる中でも、節分の季節になると大量の「恵方巻き」が廃棄処分となり、誰にも食べられぬままゴミ処理場に送られている。
果たしてコンビニは、過去の成功体験にとらわれず「時代の変化」に対応できるのか。NewsPicksは本日から5日間、緊急特集でコンビニの現状と未来を占っていく。
(写真: Bloomberg/Gettyimages)

コンビニ各社の「真の実力」

まず初回は、今回の騒動のきっかけとなった「東大阪の乱」を整理したい。
NewsPicksは松本実敏オーナーを直撃し、時短営業を始めた経緯から、セブン本部とのやりとりまで、洗いざらい全てを語ってもらった。
取材で興味深かったのは、24時間営業をしていた昨年2月よりも、時短営業をしている今年2月の方が、店の利益が増えているという点だ。
これまでセブンは、深夜営業を廃止すると、その前後の時間も売り上げが落ちるため、店の利益に悪影響が及ぶという説明をしてきた。しかしこの店では、逆の結果が出た。
もちろん1店舗だけの数字なので、これだけで是非の判断はできないが、1つのデータとして興味深い結果となっている。
お店の損益計算書と併せて、騒動の全体感を把握してほしい。
【独白】なぜ私は独りで、6兆円企業「セブン」に戦いを挑むのか
また、本特集ではコンビニ大手3社の実力を、数字で比較していく。
コンビニの1店舗あたりの売り上げを示す「平均日販」は、セブンの66.6万円に対して、ローソン53.7万円、ファミリーマートが53.4万円。セブンが競合を大きく引き離し、圧倒している。
しかし、オーナー側から眺めると、全く異なる景色が見えてくる。
オーナーがコンビニ本部に支払う「チャージ率」が各社とも異なるため、日販が高いからといって儲かるという、単純なビジネスモデルではないのだ。
特集の3日目では、決算書から見えるコンビニの表の実力だけではなく、オーナー視点の「裏の実力」も検証していきたい。
【必見】コンビニオーナーは「セブン税」をいくら納めているか?
特集の最終日は、ローソンの竹増貞信社長のインタビューをお届けする。
海を渡った海外では、米国のAmazon Goや中国の無人店舗を筆頭に、コンビニと最先端のテクノロジーが融合を始めている。
しかし日本では、コンビニの完成度の高さゆえ、テクノロジーの導入に時間がかかっているのが現状だ。そんな状況にあって、積極的に研究を進めているのがローソンだ。
店舗数で業界3位のローソンは、売り上げや規模での従来の競争ではなく、新たなビジネスモデルでの戦いを模索し始めている。
果たしてローソンが考える未来のコンビニはどんな姿なのか。24時間問題への対応策とともに、竹増社長が語ってくれた。
【ローソン竹増】我々はAmazon Goの「先」を考えている
我々はこれまで、ユーザーとしてコンビニの便利さを享受してきた。しかし、その利便性が何に支えられてきたのかを理解している人は、少ないだろう。
果たしてコンビニは、そのあり方を変えるべきなのだろうか。NewsPicksと一緒に、コンビニの未来について考えていこう。
(執筆:泉秀一、デザイン:國弘朋佳)